破・うわべだけでも

 うわべだけでも、合わせなくちゃ。



「宇宙開発のために、この身をささげます」



 自分がやらなくては、と、その時は思っていた。



「思いあがったことを言ったものだわ。自分なんていなくても、実験は成り立つし、オリジナルはそれを厭ってこの世を去ったのだわ」





「そうだよ、リオ――R・S・K――オレが守ってあげます。宇宙開発機構に、人口生命体の命は奪わせません」



 そのために、お兄サマは宇宙開発機構を敵に回された。この人にはなにがしか、したいことがあるのだと思えました。


 身分を隠して、この秋月学園に通って、お兄サマの同級生としてふるまっているけれど、件の宇宙開発の授業だけは、身が入りません。



「オリジナルが疾走して、人口生命体に入れ替われるなんてことが、これからも行われるのでしょうか」



 そうだとしても、そうでないとしても。



「自分がここにいる理由は……」



 きっとない――それだけは、確か。



「人口生命体に、今のところ献血することも、輸血することも許されていない。これがどういうことか――」


「わかっています。お兄サマ……」


「昔、人口生命体の輸血を受けた人があった……どういう結果になったと思いますか?」


『その人は人間とはみなされなくなった』


「自分たちは、人間の姿をしたまがいものでしかない。人工血液も、人工心臓も」



 じゃあ、生きているって、どういうこと――。


 内臓も、眼球も、皮膚も、筋肉も、骨さえも、全部いらないものなの?





「知的生命体の中でも人工生命体は動物にも劣るというのは定説になっていますが、人権以外のその他もろもろの資格と権利が認められないというのは、どういうことなんでしょうね」


「それは――自分にはわかりかねます」



 自分自身のことなのに、情けないけれど、戦闘や労働には従事することが認められてはいるのです。



「必要とされるのはうれしいです。生きてきてよかったと思える」


「たとえそれで死んだとしても? そんなのオレは認められません」


「自分の生命は、人類のためにある――そう思えるのです」



 この地上の英知は、人類が生み出したもの。それに貢献できるなら、惜しくはない。もとより、与えられたこの命。



「甘いな」



 いつの間にか、エッジが発言権を得ていた。正確にはお兄サマのパーソナルスペースに四十秒前に踏みこんできてから、口出しする機会をうかがっていたのだろう。


 エッジは大切な情報を、お兄サマに伝えにきたはずなのです。



「どうでしたか、エッジ? ユニコーンは見つかりましたか?」


「フッ、まかせておけと言ったろう」



 エッジが何をしたというのでしょうか。



「お兄サマ、ご機嫌のご様子ですね」


「これで、宇宙開発機構をひっくり返してやれる――リオ・S・K、オマエが使うといいでしょう」



 お兄サマはエッジが運んできたものを、自分に渡しました。


 これは……何か動物の角でしょうか。



「これは、何の角ですか?」


「なんだ、お嬢様は知ったこっちゃないって面だな」



 ずいぶんと、失礼なことを言うものです。



「リオは知らないはずです。秘密裏に頼んでおいたものなのですから」


「また、何かあったら声かけてくれよな、アング」


「『やってやれないことはない』でしたね、エッジ」



 エッジはニヤッと笑い、応とこたえて去りました。



「お兄サマ、一体何を……何をエッジにさせたのです?」


「彼はやってくれました」


「ユニコーンとおっしゃいましたね。まさか、これが、その……?」



 先細りのらせん角が一本、杖のように真珠色に輝いていました。


 これが本物ならば、角をとられたユニコーンは死んでいます――あの気高い生き物が、だまって角だけよこすなんてことはありえないからです。


 一本の角を手に入れるためには、一頭のユニコーンを殺さねばならない。



 そういうものです。


 そしてそれは、延命の力を持つ――。


 リオ・S・Kが眠りについた今、彼女を救うには、これしかないのです。



 しかし、特例措置だったとはいえ、まだ生きている人物のコピーを世に出すのは違法行為です。


 しかるべき機関によって、R・S・Kは解体させられる運命にあります――本当ならば。


 けれど今、ユニコーンの角が、R・S・Kのもとにあります。



 自分が、それをオリジナルのために使うか、自身のために使うか、自由。


 じっくりと考えて、答えをだすべきでしょう。


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