第15話:ギルドへの登録

 授業を始めて一週間が経つ頃、僕は授業を自習にして冒険者ギルドへと来ていた。と言っても、サイモンさんに様子は見て貰っているのだが。


「フレデリカさん、学院の登録をしたいんですが」


 受付のフレデリカさんを見つけると、依頼を受ける為の登録をお願いする。

 他にも受付の人はいるのだが、いつもジェラールと行動を共にしていた時はフレデリカさんにお世話になっていたので、つい無意識に向かってしまう。あと可愛いし。


「あらデュラン。久しぶり、先生になったんだってね。登録? ちょっとまってね。」


 僕を見て懐かしそうに微笑むと、フレデリカさんは手続きの用紙を探し始めた。

 通常、ギルドから依頼を受けるには、冒険者として個人で登録をする必要がある。

 しかし、団体に所属している者が受ける場合は、一人ずつ登録するのも手間なので、団体名で登録するのが習わしだ。

 現在の学院生は全員集めても二人 と一メイドであるが、今後入学して増える事を考えると、団体登録しておいた方が良いだろうと言う、サイモンさんの提案によるものだった。

 学院随一の切れ者から、学院唯一の切れ者になった今でも、その能力を遺憾なく発揮している氏の言う事は素直に従っておいて間違いは無い。


「あ、あった、あった!」 

 

 フレデリカさんがお目当ての物を見つけると、書類を携えて戻ってきた。


「学院を引き継いだんだったら、前の登録が残ってるから、これ修正するだけでいいわよ」


 と、前に出されたのは、王立魔術学院時代の団体登録書だった。

 代表者の父の名前を見ると、チクリと心が傷む。見た目は平静を装っているが、流石にまだ完全には立ち直れてはいない。


「分かりました。それじゃあ、変更でお願いします」


 気を取り直しフレデリカさんに答えると、修正部分を記入していく。


「それと、今の学生さんの名簿も、提出宜しくね」


 そう言われた僕は、すかさずサイモンさんから預かっていた書類を、修正した登録用紙と共に提出する。


「流石サイモンさんねぇ、用意に抜かりが無いわ」

「僕が用意したとは思わないんですね」

「そりゃそうよ、デュランだけだと、ここまで用意出来てないでしょ」

「……」


 フレデリカさんはニコニコと書類を受け取るが、言葉はなかなかに辛辣である。まあ、ジェラールとのやり取りで知ってるけど。

 もっとも、サイモンさんとは前学院でのやり取りが多かったので、書類の文字を見るだけでサイモンさんが作成したものだとすぐに分かったらしい。

 実際、サイモンさんが必要だからと用意してくれた書類であるし、この辺りの事務仕事は本当に助かっていたので、ぐうの音も出ない。


「ついでに今ある依頼見てみる?」

「はい。良いのあります?」

「ランクはFからでいいわよね?」

「それでお願いします。ちょっと掲示板の方見てきますね」


 フレデリカさんにまだ出ていない依頼を探してもらっている間に、僕は掲示板へ向かった。

 冒険者ギルドに掲示している依頼は、FからAまでと、その上のSランクの計7段階に分けて告知している。

 Fランクは一番難易度が低く、入りたての新人でも行える比較的安全な依頼ばかりだ。

 魔術の実戦経験が無いクロエが対象なので、安全を考えFランクからのスタートを考えていた。

 しかし先程から見ているのだが、軒並みFランクのミッションには完了印がついている。


「最近、新人の加入が増えたんですか?」


 異常な完了の数に、カウンターに戻るとフレデリカさんに聞いてみた。


「ああ、それはランドルフ商会の人たちね。業務拡大で人増やしたみたいよ。元、学院の生徒さんも来てるわ」

「なるほど」

 

 そう言えば、行き場のない学院の生徒や先生を受け入れてくれた所が、そんな名前だった気がする。

 当時は魂の抜けた状態だったのでよく調べもしなかったが、ちゃんと活動している所のようなので、安心した。


「まてまて、これ、何気に商売敵だ!」


 何気に考えなくても、商売敵である。依頼を片っ端から持っていかれている現状に、安心などしている場合ではなかった。


「デュラン、ごめんねぇ~」


 一人で突っ込んでいる間に、フレデリカさんが手ぶらで戻ってくると、すまなそうな顔で手を合わせてくる。


「今はFランクの依頼、ないわぁ」

「仕方ないですよ。また見に来ますので、良いのあったら宜しくお願いします」


 フレデリカさんに別れの挨拶を告げると、お昼時だったのでギルドハウスの食堂で昼食を済ませる。

 その後は、久々にお世話になっていた道具屋へ向かう事にした。

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