フェイル13 思わぬ濡れ衣

 会食から3日後の夜、プライベートエリアになっているトリニティタワーの最上階、リビングにてセレス達がくつろいでいた。


「こいつら、面白いわね。なかなかセンスがあるじゃない」

「そうですわね。レベッカお姉様」

「シェリー。お茶を入れようと思いますが、どれが良いですか?」

「そうだね。そのレモンティーでお願い!」

「分かりました」


 仕事が終わり、これからゆっくりしようとしたその時!


「セレス様!」


 突然、騎士団員が息を切らしながらリビングに入って来た。


「おい! お前! 私達のリビングに堂々と入って来るとは一体何のつもりですか?」

「申し訳ございません! 無礼な事だと分かっています! それよりも、セレス様。心眼通りにて大変な事が!」

「心眼通り? でも、そこって私達の縄張りじゃないようね? いずれ、私達の物になるけど? それで? なんで、私達に?」

「それが、龍神会の若頭の経営している風俗店で我々、フェイル薔薇騎士団の手先だと名乗る阿修羅会の者だと、言ってきたらしいです!」

「ちょっと、待ちなさいよ! あたしらは、阿修羅会の連中と手を組んでないわよ!」 


 セレス達は、驚いた。こんなふざけた事あるかと。ちなみに阿修羅会とは、龍神会のライバルで関西の暴力団を束ねる指定広域暴力団で、大阪の円海街えんかいがいを拠点にしている。


「それで、ミクリオ執事長達が対応をしております。ミクリオ執事長は「セレス様達に急いで、ここに来てくださいと言え」と」

「ミクリオが!? 分かりました。すぐ、案内しなさい!」

「案内します」


 セレス達は、騎士団員の後についていくことに。


 リビングから出たセレス達は即座に、専用の地下駐車場に着くと、すぐにその風俗店へ走って向かった。

 騎士団員達に守られながら目的地に向かう姿を柱にもたれる銀髪の青年と黒髪の青年が様子を見ていた。


「こちらです。皆様」

 

 騎士団員の案内でたどり着いたところは、キャバクラ【シュテル&マイケル】という店だ。セレス達は中に入る。


「ミクリオ! てめぇ! これは、どういうつもりだ? 阿修羅会と組んでこの千楽町を支配しようとしているのだな?」

「何を言っている? 俺達は、お前らのような野蛮人と手を組むはずが無いだろう」

「野郎! 「野蛮人」と言ったな!」

「イクスさん。なんでそうやってとぼけるんや? 俺らとあんたらの同盟ですやん」

「お前達と組んだ覚えは無い」


 セレス達はどういう状況なのかミクリオに説明してもらうことに。


「ミクリオ! どうしたのですか!?」

「セレス様。それが、こいつらが突然龍神会のナンバー2の経営しているキャバクラに押しかけて来て「俺らの後ろは、フェイル薔薇騎士団がいる。大人しく渡せや!」と」

「ナンバー2って確か、松岡だったわね?」

「そうや、龍神会若頭の松岡。そいつが経営しているキャバクラだからな。それに、水谷兄弟。この契約書を見せても、シラを切るつもりか?」


 すると、その阿修羅会組員は、契約書という書類をミクリオ達に見せた。そこには、阿修羅会とフェイルグループは協力関係にあるというなどが記された契約内容とその下にミクリオ達の署名と押印が確かにあった。


「ほら、これが証拠や!」


 証拠だという阿修羅会組員にセレス達は何故か笑いをこらえていた。


「なにが可笑しいんや?」

「お前、イギリスにおいて仕事などで契約するときは、どういう方法でしているか分かるか?」

「そりゃ、サインしてハンコ押すに決まっているやろが」

「ぷっ! ミクリオ。この愚か者共に説明してやってください」

「分かりました」


 ミクリオは嘲笑しながらこう言った。


「イギリスでは、契約の際には名前と日付のみで書くのだぞ? それに、フルネームで書く際には、必ず名前と苗字を頭文字を大文字にするからな」

「それに、日付の書き方が間違っているしね。正しい日付の書き方は、左から日、月、年の順番で書くんだよ? 俺達は、会社の時も商談の時でも必ず、そういう書き方をするからね。こんなミスを俺達がするはずが無いからね」

 

 ミクリオとイクスの指摘に狼狽えつつも、阿修羅会組員は反論する。


「でも、イギリスだろうがハンコを使うというのは聞いたことがあるぞ! それも、重要な時に! あんたら、嘘はあかんで!」

「それは、国璽こくじですわ。私達の国では、グレードシールと呼ばれています。昔は、エドワードが令状や公布する際に使っていましたが、現在はイギリス王室の公文書に目的別に色を分けて捺印していますからね。それに、ウェストミンスターの大法官府に大切に保管してます」

「そうね。もし、それが通るなら我々と組むのではなく、イギリスと組んだことになるわよ? すごいね、阿修羅会は」


 トドメとなるシェリーの言葉にもう限界だと感じた阿修羅会組員達は、店を出て逃走した。しかし、セレス達は彼らを見過ごすはずが無く。


「おい。逃げた奴らを捕えなさい」

「「はっ!」」


 セレスに命令された騎士団員達は阿修羅会組員達を追跡した。

 しかし、松岡組組員達は、そんな事はどうでも良くてセレス達がここに来た事が問題で、始末しよう取り掛かる。


「お前ら! そんな事はどうでも良い! 阿修羅会と組もうが組まないがここにきたからには戦争ということだ! ぶっ殺してやる!」


松岡組組員達が武器を取り出すと、セレス達も武器を構える! いよいよ乱闘が始まろうとしたその時!


「やめろ! お前ら! 飯が食う場所を自ら潰す気か?」

「ま、松岡の親父!」


松岡組組員達の背後に現れたのは、龍神会若頭、松岡組組長の松岡正和だ。


「しかし、親父! 奴らが阿修羅会の連中と!」

「フェイルのこいつらが、あんなチンピラ以下の連中とパートナーとして組むはずが無いだろう」

「ですが!」

「なんか文句あるのか?」

「すみません」

「貴方が松岡ですか?」

「そうだ」


 松岡はセレス達を睨みながら言った。


「セレス。お前、何のつもりでここに来た?」

「それがですね。ミクリオが「阿修羅会の連中が、我らの手先だと名乗っている」と連絡が来たのです。私達姉妹は、その連絡を受けてここに来たのです」

「そうなのか?」

「そうです、親父。連絡の件は知りませんけど、阿修羅の連中が押しかけて今の様な発言をしたところ、このガキどもが、この店の前に通った時に、あの青い眼のガキが気づいてから色々ありまして、阿修羅の連中はハッタリがバレて逃走しています」

「そうか。要するに阿修羅の連中が、こいつらの名を利用して暴れようとしたところ、不運にもこの若造連中が来てハッタリがバレて逃げたという訳か」

「はい」

「まぁ、とにかく阿修羅の連中が勝手にやった事みたいだし、この騒動はフェイルの連中が関わってないのは分かった。セレス、今回の件は、お前らの仕業だと決めてしまった事については代表して深くお詫びする」


 松岡は、セレス達に深々と謝罪すると、セレスは見下しの視線を松岡に浴びせた。

 

「セレス姉ちゃん。今回は、松岡君の誤解が解けたことだし、帰ろうよ」

「そうですね、シェリー。では、松岡。これにて失礼します」

「セレス。ちょっと待て!」

「なんですか? 松岡?」

「今の騒動については解決として、が片付いていない」

?」

「そうだ。については、お前らの専属執事であるミクリオ達に聞きたい」

「僕達に? 別に怪しまれることは無いけどな?」


 シングのふざけた返答に松岡はイラっとするも、その疑問を専属執事であるミクリオ達にぶつけた。


「騒動に気づく前、お前達はこの店の周辺を歩いていた」

「問題あるのかい?」

「大ありだ、イクス。ここは、お前達はスター通りや北斗通りなどを千楽町の西部分を中心に我が物のように全体の6割まで広げている。しかも、心眼通り周辺は、お前らの領域外だ。なのに歩いているという事は、何かしらの目的があるはずだ。お前らは、ここへ何しに来た?」

「俺達四人は、大正通りにある雀荘で遊んでいた。夕方にセレス様達から「息抜きして遊んで来なさい」とな。中々、楽しかったし兄弟の絆が深められたし、なぁ? ルカ?」

「そうだね、兄さん。和気あいあいと楽しくやれたし」

「それに、連続でルカ兄ちゃんがトップでイクス兄ちゃんがラスだしね」

「悪かったな! 弱くて」

「……ふっ」


 松岡は、ミクリオ達の発言が嘘だと感じ、激怒した。


「そんな訳あるかぁぁぁ! どうせ、お前らは何か企みがあって来たんだろ!?」

「なに怒っているの? 怖いな。僕達は正直に答えたじゃないか」

「どのみち、激怒するのが定番じゃない?」

「案外、短気なんだね」

「松岡。お前、ナンバー2の人間だろ? こんな小さなことで激怒すると、愚かに程がある」

「貴様ら、馬鹿にしやがって!」

「親父! お気持ちは分かりますが、ここで騒いだら、龍神会の名が汚れてしまいます!」


 松岡は、部下にそう言われると、舌打ちして冷静になってこう言った。


「とりあえず、今回は見逃してやる。だが、お前ら。俺の店に来た以上、戦争を仕掛けたと見なす。この件についても幹部会で報告させてもらう。俺達、龍神会の力を見せてやる」

「ふふふ。楽しみにしてます」

「あんた達、帰るわよ」


 セレス達は、この店を後にした。後にした際、シェリーの馬鹿にした表情に松岡は、腹を立てるが我慢する。

 松岡は、部下にミクリオ達の裏どりをするよう命令する。


「おい。あのガキ共が言った雀荘に行って事情を聞け、目的が無く堂々と敵のシマにある店で遊ぶなんて絶対にあり得ないからな」

「はい」


 その頃セレス達は、トリニティタワーの東にあるクロス通り、その下にあるゴールド通りと心眼通り、千楽クイーン通りを挟む千楽川に架かる千楽橋を渡っていた。


「おや? 捕まえたのですか?」


 セレスに逃げた阿修羅会組員達を捕まえるよう命令された騎士団員達が確保していた。どうやら、捕まえた人数は2人のようだ。


「他の連中はどうしたの?」

「申し訳ありません、レベッカ様。取り逃がしてしまいました」

「大丈夫よ。あんた達、何故あたしらの名前を使って、龍神会の若頭の店に入った?」

「酔った勢いだよ」

「そうですか。……ライラ、ルカ。頼みましたよ」

「はい、お姉様」

「かしこまりました。セレス様」


 ライラとルカは、興奮した笑みで阿修羅会の2人を見た。


「なななな、なんだよ!?」

「さっき、こいつが言っただろ! 聞こえなかったのか?」

「聞いてましたよ。安心してください。私とルカがその詳しい内容を聞くだけです」

「ライラ様。昨日、が届きましてね。それで、この2人と遊びましょう」

「分かりました。では、貴方達。本国から届いた遊び道具で楽しい思いを過ごしましょ」

「「」」


 ライラとルカの瞳は、狂気を超えた狂気と興奮で2人を見た。











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