第12話

「はぁ……面倒だな……」


 雄介は教室のドアの前でそう呟き、ドアを開けて教室の中に入って行った。

 教室の中では世界史の受業中だった。

 先生は俺を見ると、席に座るように良い、止めていた受業を再開した。

 俺は席に着き、何事も無かったかのように受業を受ける。

 男子生徒達は流石に授業中と言うこともあり、動きはしなかったが、殺気の困った視線を雄介に向けていた。


(俺、受業が終わった瞬間死なないよね?)


 雄介はそんな事を考えながら、受業を聞いていた。

 受業終了まであと30分、雄介はため息を吐きながら、どうやってやり過ごすかを考えていた。

 そして、受業終了後……。


「今村ぁぁぁ~!」


「さっきの続きだけどぉぉぉ!!」


(やばい……クラスの男共が襲いかかってきた……どうしよう?)


 雄介はとりあえず逃げる事を選択し、教室を飛び出した。

 

「なんで俺がこんな目に……」


 雄介は使われて居ない空き教室に隠れ、クラスの男子生徒達をやり過ごした。

 

「おい」


「うぉっ! ってなんだ……慎か……」


「大変そうだな」


「本当にそう思ってるなら、せめてそのニヤケ顔をやめろ」


 ニヤニヤしながら雄介の元にやってきた慎。 慎は空き教室にあった椅子に座り、雄介に話し始める。


「もう学校中の男共に知れ渡り始めてるぞ? お前が加山に告られたって」


「マジか……はぁ……面倒くせぇ……」


「それより、午前中はなんで戻って来なかったんだ?」


「いや……実はだな……」


 雄介は午前中にあった沙月との話しを慎にした。


「そんな事があったのか」


「あぁ、それで少し具合悪くなってな……保健室で寝てた」


「お前も大変だなぁ~」


「そう思うなら助けろよ」


「助けろって言われてもなぁ……俺にあのクラスの男共をどうしろと?」


「まぁ……それもそうか……はぁ……なんだかなぁ……」


「この騒ぎはお前が加山を振ったら、更に激化するんじゃないか?」


「俺は一応振ったつもりなんだが?」


「加山は諦めてないからな」


「まぁ、それもそうなんだが……」


「ま、当分は耐えるしかねーな」


「マジかよ……不登校になりそう……」


 雄介はがっくり肩を落として慎にそう言う。 慎はそんな雄介をニヤニヤしながら見ていた。

 

「いつも俺をモテ男とか言って馬鹿にしてるから、バチが当たったんだよ」


「うっ……な、なぁお前はこう言う時どうしてるんだよ?」


「流石にクラスの男子生徒全員から恨まれたことは無いぞ?」


「そ、そりゃそうか……」


「ま、でも一つだけ言えることがあるとすれば……お前にその気が本当に無いなら、振るときはしっかり振れよ、変に期待させても可愛そうだ」


「俺はきっぱり断ったはずなんだがな……」


「ま、断り続けてればいつかはわかってくれるだろ」


「そうだと良いが……」


「それより、今日もバッティングセンター行こうぜ!」


「お前好きだなぁ……昨日行っただろ? しかも今回のホームラン賞もしょうもなかったろ」


「ホームランを打つことに意味があるんだよ、なぁ行こうぜ」


「悪いが今日は医者だ。行くなら一人で行ってくれ」


「なんだよつまんねーなー」


 慎はそう言ってつまらなそうな顔でスマホを弄り始めた。


「はぁ……なら今日は大人しく帰るか」


「そう言えば凜ちゃん元気か?」


「凜? あぁ、今年受験だからな、少しピリピリしてるよ」


 慎には一つ年下の妹が居た。

 中学三年生の女の子で雄介も妹のように思っていた。


「お前もたまには遊びに来いよ、凜が喜ぶ」


「俺は良いんだけど、お前の家に遊びに行くと、里奈さんがなんか不機嫌になるんだよ」


「あぁ……なるほどな……何となくわかった。こりゃあ凜も大変だ……」


「ん? 凜ちゃんの何が大変なんだ?」


「何でもねぇーよ。お前も十分モテるじゃねーか」


 慎はそう言うと、教室のドアを開けて外を確認する。

 

「もうそろそろ次の受業だ、人も居ないし戻ろうぜ」


「それもそうだな……こんな生活いつまで続くんだ……」


 雄介はため息を吐きながら慎と共に教室に戻った。

 教室には既に先生が来ていた。

 ギリギリ受業には間に合ったが、やっぱり男子生徒からは殺気の篭もった視線を感じる雄介。


「放課後は全力ダッシュで逃げよう……」


 雄介はそんな事を考えながら、最後の受業を受けた。





「はぁ……はぁ……」


 雄介は校舎裏で息を整えていた。

 案の定受業が終わった後、クラスの男子生徒に追われた雄介は、直ぐに帰り支度を済ませて教室を出た。

 今はなんとかクラス男子生徒達をまいて、今は校舎の裏で一休みしていた。


「はぁ……これが毎日とか勘弁しろよ……さて……病院行くか……」


 雄介は病院に行こうと、鞄を持って学校の裏口から下校をした。

 学校から病院までは歩きとバスで15分くらいの場所にあった。

 大きな病院でここの医院長が雄介の担当医だった。


「やぁ一ヶ月ぶりだね」


「そうですね、いつもの検査お願いします」


 病院に到着すると雄介は診察室に直ぐ通された。

 雄介は毎月一回定期的に検査を受けていた。 この医院長とももう十年の付き合いになる。

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