草食系男子が肉食系女子に食べられるまで Revision

Joker

第一章 草食系と肉食系

第1話

 夏も終わろうかと言う九月の始め、まだまだ暑い日が続く今日。

 今村雄介(いまむら ゆうすけ)は学校へと向かっていた。


「あっつ……」


 新学期が始まって一週間が経過していた。

 雄介は今日も暑さに耐え、ゆっくりとした足取りで学校に向かって歩いていた。

 周りには同じ学校の制服を着た生徒がチラホラ登校していた。

 皆、Yシャツの襟をパタパタと動かし、首元に風を入れようと頑張っていた。


「なんでこんな暑いんだよ……」


 独り言を呟きながら、雄介は目の前の校門まで足を動かす。

 他の生徒も校門内に吸い寄せられるように歩いていく。

 しかし、そんな生徒の中に一人、涼しげな表情で背筋をピンと伸ばして歩いて行く一人の女子生徒が居た。

 雄介と同じクラスの加山優子(かやま ゆうこ)だった。

 長くウェーブの掛かった茶色の髪を揺らしながら、優子はスタスタと学校の校門に向かって歩いて行く。

 その姿に周りの男子生徒は目を奪われ、思わず立ち止まってしまう生徒も居た。

 それもそのはず、優子はスタイルも良く、性格も明るくて話しやすいと評判だった。

 そして何よりも、彼女はテレビドラマから飛び出してきたかのようなとびきりの美人だった。

 この学校で彼女の事を知らない生徒は居ない程、彼女は有名人だった。

 

「おはよう」


「お、おはよう……」


「お…お…おはようございます!!」


 優子に話しかけられた男子生徒は、先程まで丸めていた背中をピンと伸ばし、鼻の下をデレデレと伸ばしながら返事を返す。


「おはよう」


 そんな優子が雄介に声を掛けてきた。

 しかし、雄介はそれまでどおり背中を丸め、首元をパタパタしながら、優子に答える。


「おう、おはよ」


 雄介はそう言いながら、優子を置いて先を行く。

 そう、雄介は優子にまったくと言って良い程興味が無かった。

 

「早く行こ……」


 雄介はそんな事を呟きながら、背中を丸めて自分の教室に向かった。

 雄介は教室に到着すると、自分の机に着席し、鞄から教科書を取り出して机の引き出しにしまう。


「おはよう」


 雄介が来た直ぐ後、優子が教室に入ってきた。


「優子、おはよう」


「加山おはよう!」


「おはよう!」


 優子が挨拶をすると、クラスの皆が挨拶を返した。

 優子は皆に挨拶をしがら、雄介の前の席にやってきて、鞄を置く。

 そう、優子の席は雄介の目の前なのだ。

 優子が席に着くと、優子の席の周りには男女問わず、人が集まってくる。


「優子、今日は暇? みんなで放課後カラオケ行くんだけど、一緒にどう?」


「加山! お前が探してたCD見つけたんだ!」


「加山さん! 今日こそ俺と付き合って!!」


 朝の時間や授業の間の休憩時間、そしてお昼休みまで、優子の席は賑やかだ。

 後ろの席の雄介にとっては迷惑でしかない。 入学当時からこれは続いてており、雄介はその度に席を離れて、廊下に出て壁にもたれ掛かりながら外を見ていた。


「うーっす、雄介」


「ん? よう慎。おはよう」


 廊下に出た雄介に声を掛けたのは、雄介の中学時代から友人である、山本慎(やまもと しん)だった。

 慎は顔立ちが整っているイケメンだった。

 人当たりも良く、女子生徒からは人気だった。

 優子が学園のアイドルならば、慎は学園の王子様と言った感じだ。

 告白されることも多い慎だが、一度もその告白に対して首を縦に振ったことはなかった。

「また、あの集団から逃げてきたのか?」


「あぁ、お前も知ってるだろ? 俺の前の席が毎度うるさいの」


「でも良いじゃないか、加山の後ろの席だぜ? 誰だって羨ましがる、合法的に加山を見つめてられるからな」


「背中だけどな」


「それでもうらやましがる奴は沢山居るだろ?」


「別に俺はなんとも……休み時間に毎回席を立って移動するのがだるいくらいだよ」


「なら、席に居れば良いだろ?」


「前の席がうるさい」


「でも、前の席は加山だぞ?」


「俺はあいつに何の感情も抱いてない、憧れもしないし、あいつはただ人を寄せ付ける迷惑な奴ってだけだ」


「散々な言いようだな……」


「まぁな……それにお前も知ってるだろ? 俺の体質……」


「まぁな、そのせいでお前は女子生徒とほとんど交流をしようとしないからな」


「仕方ないだろ?」


「そのせいで昔、お前がなんて言われてたか覚えてるか?」


「あぁ……草食系男子……だろ?」


「ぴったりだよなぁー」


「うっせ!」


 ニヤニヤと笑いながら言う慎に、雄介は呆れながらそう言う。

 

「悪い悪い、それより今日もバッティングセンター行こうぜ、ホームラン賞が変わったんだ」


「おいおい、ホームラン賞って、あの店長お手製Tシャツか? 今回もろくな物じゃねーよ」


「どうせ暇だろ?」


「はぁ……わかったよ。どうせ無理矢理にでも連れて行くんだろ?」


「ははは、わかってんじゃん。じゃあ放課後な」


「おう」


 雄介がそう言った瞬間、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。


「おい、今村、それに山本、さっさと教室入れー、ホームルーム始めんぞー」


「あ、先生。了解っすー」


「わかりました、先生」


 チャイムが鳴ったのと同時に、雄介達のクラスの担任である、石崎勇吾(いしざき ゆうご)が雄介と慎の元にやってきた。

 雄介と慎は石崎に言われるままに、教室の自分の席に戻った。

 他の生徒もチャイムを聞き、席に戻り始めていた。


「今日も帰るのが遅くなりそうだ……」


 雄介は窓の外を見ながらそんな事を呟く。

 石崎が朝の連絡事項などを話していたが、雄介はあまり聞いてなどいなかった。

 窓の外を見るのにも飽きた雄介が黒板の方に視線を向けると、なぜか優子が肩越しに雄介の方を見ていた。


「ん?」


「あ……」


 雄介と目が合うと、優子は直ぐに前に向き直った。

 雄介はなんで優子が自分の方を向いていたのだろうと考えながら、石崎の連絡事項を聞いていた。

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