SOL.4:奮闘する問題児達

 キィィィイィグォォォォン……!!



 空戦型BB『天界テンカイ』の3機が、テラフォーミングされた火星の大気を、巡航速度であるマッハ0.7で飛ぶ。


『クソッ!!スクランブルで出れたのは俺たちだけか……!!』


『どこもかしこもオーバーホールだ!

 使える機体はエウロパとガニメデに集結してしまっている!』


 背後の単発式ジェットイオンエンジンの生み出す飛行機雲を生み出しつつも、到着まで後10分はかかる計算だ。


『そんなことは承知の上でしょ!!

 承知の上で、基地の仲間に死なないでって祈りながら飛ぶしか無いのがもどかしいってことでしょ!!』


 と、肩に014の番号と大昔に飛んでいた可変翼の戦闘機、という組み合わせのパーソナルマークの書かれた機体からそう声が響く。


『お前からそんなことを聞くとはな、チェシャ?』


『そのあだ名、もう一回行ったらアンタのケツに弾丸の座薬入れてやるわよ?』


 一瞬、頭部の迎撃用バルカンを向ける014の天界。


『おっかないネコちゃんだぜ!!美味しいご飯で勘弁してくれ!』


『ふん!奢りなさいよね、アンタが生きてたら』


『お前はどうだ、リディア?生きて帰れるか?』




 フン……と僚機の男に不機嫌そうに答える、その天界のパイロットの年若い少女、リディア。


「私だって、3年も飛んでるの。エウロパ奪還でもエウロパの空で戦った。

 それを疑うわけ、後方さん?」




『ケッ!言ってくれらぁ!!』


『中尉階級なだけはあらぁな!!期待してるぜ!』


「まずは急ぐわよ!!音速巡行スーパークルーズでも出来たら最高何だけ────」


 瞬間、響く後方からの警告音。


「何!?」


『後ろから何かくる』


 瞬間、確認のため速度を落とした3機の横を通り過ぎる影。


 一瞬、リディアたちはそれを見て驚き、


 そして衝撃波に揺さぶられ大きく弧を描く。


『うわっ!?』


『何だよ今の!?』


「見たでしょ、アレ!!』


 レーダーに映るそれには、敵味方識別IMFがしっかりと記録されている。




よ、アレ!!」




『冗談だろ!?

 だとぉ!?』



        ***


『社長ーっ♪

 後3分で着くと思うけどぉ、さっき言った話忘れちゃダメだよぉ?』


『既に前払い完了!!抜かりなしですよ、ルカちゃーん?』


『やったー!!弟達にランドセルが買ーえるぅー!!』


 ヒィィィィィィィィンッ!!


 その音速で進む機体は、目的地へとまっすぐに進んでいく。



        ***


 新成子坂第45陸戦駐屯地、


 バシュウッ!


 敵のシースルーウェポンの攻撃を受け、陸戦型主力BBの『レッドローズ』の一機が、頑丈な装甲を爆散させる。





『ざけやがってクソエイリアンどもがよォーッ!!』




 その下にいたレッドローズの右腕に構えられた、450ミリレールインパクトキャノンが発射され、一機のベリルの腹部に直撃する。


 ミシィ、とめり込んだ砲弾により、硬い外殻を砕き内部をぐちゃぐちゃにする。


 ふ、と力が抜けた機体は、直後内部エネルギー源の暴走で爆発した。





「どうだ見たかよこの野郎!!アンディの仇だ!!クソッタレ!!」


 陸戦用のヘッドギアから覗く赤毛の少女は、口汚くそう言って乗機の武装の弾をリロードする。


 と、そこへ降り注ぐシースルーウェポンの雨。


「うわぁぁ!?チィッ!!」


 陸戦機の鈍重なイメージを覆す動きは、レッドローズの脚部より生えるキャタピラユニットの恩恵だった。

 所々掠ってえぐられる装甲のダメージも、意外なほど良好な機動性のおかげで致命傷にはならない。


「クソがァ!!ふわふわふわふわ飛びやがって、ゆるふわ系とか自称しているブスかっつーのぉ!?

 降りてきて顔面に一発食らわせろこの脳みそまでクソ詰まったみてーなエイリアンがよぉ!!」


 ドン、と隣のまだ無事な格納庫がガタガタ音を立てるほどの衝撃を生む武器を、移動しながら上へ向けて撃つ。


 超大型実弾とはいえ、初速も早く確実に一機を撃破する。


 だが敵は、既に伏兵をそのレッドローズの背後に潜ませていた。


 ブゥン、と振り上げた右掌の発信器より、光の刃が現れる。




「───チッ!来ると思ったぜ、没落女!」




 直後、ガキャァン、という派手な音と共に、まるでトラックに追突された軽自動車ようなひしゃげ方をするベリル。


 機体から引き抜かれた、巨大な三角の剣。


 いや…………それを剣というにはあまりに大雑把で大きすぎる……!





「あーら、スラム出身さん?

 助けて差し上げたのにお礼もないのかしら?」


 陸戦型BB近接用改造機、別名『ブルーローズ』の中から、そんな鼻にかかる声が響く。


『ああ、あんがとよ田舎貴族様よ!!テメェに助けられるなんざ、最低な気分だぜ!!』


「はい、どういたしまして♪

 そのクソ生意気なお口からお礼が出ただけでもだいぶ胸がスッとしますわ〜……よッ!!」


 コックピットに乗るは、綺麗な金髪がゆるく癖になった長髪の、いかにも育ちが良さそうな顔の美人。


 だが、そんな彼女のブルーローズは、近接用を、飛びかかってきたベリルの腹部に突き込み、地面に叩きつけて硬い胴体を折る。


 ブシュゥ……と、関節部から冷却の煙が上がった。


「ったくよぉ、シャル!!出来れば流れ弾で死んでくれと思ってたけど、やっぱ生き残りやがってなぁ!!」


「あーら、その様子ですとそちらの僚機もやられたのですねヴェル?

 まぁ、貴女ゴキブリ並みにしぶといから、当然といえば当然ですけど」


「ケッ!!ムカつく女だぜ!!言い方がいちいち鼻に着く!!」


「貴女みたいに貧乏じゃありませんの。

 貧乏じゃないから貴女よりスタイルがいいですしねぇ?」





「んだとこのクソアマァ!?」


 ヴェルと呼ばれたパイロットの操作でレッドローズの持つ450ミリの口径が向く。





「やる気かしら?」


 同じく、シャルと言われた彼女の操作で、ブルーローズの近接用衝角が向けられる。


 直後、ほぼ同時に砲弾が飛び、衝角を前に陸戦器と思えない大きさと出力のブースターで突撃が起こる。


 バァンッ!!

 メギィッ!!



 ────お互いの背後の、ベリルの黒い黒曜石のようなボディが、撃ち抜かれ、貫かれる。




「……チッ……!!無駄弾使う余裕もねぇや……!」




 2機の薔薇バラの名を持つ無骨な陸戦機の周りは、既にベリル十数機に取り囲まれている。




「嫌ですわ〜、本当なんで貴女みたいなのと背中を合わせるのだか!」


「アタシも嫌だね!!けどお前みたいな腹たつ奴以外生き残らねぇんだよなぁ……ったく」


「本当、いつもいつも煩い声しか隣にいないんだから……!」



 一斉射撃の瞬間、二人はタイミングよくベリルの残骸を蹴り上げシースルーウェポンを減衰させて回避。


 ギュラララ、と地面を砕きながら進むレッドローズと、ボァァァ、と火山の噴火のごとき炎をあげる巨大なブースター達で動くブルーローズ。


「お嬢様ぁ?白馬の王子でも呼んでくれよ、アタシ逃げる為の囮によ!」


「わたくしが欲しいものを強請ねだるんじゃないですわよ貧乏人!!」


 違ぇねぇ、とヴェルの操作で一発で敵を一気落とし、縦横無尽に駆けるレッドローズ。


 しかし、装甲が意味をなさないシースルーウェポンの雨に立ちどまれず次がなかなか撃てない。


「つーか増援はまだかよ!!

 今なら筋肉モリモリマッチョメンの変態でも、喜んで股開けるぐらいだぞオイ!!」


「まぁ!はしたないこと!!

 キスぐらいしかわたくし、許しませんわ!!」


「なんでもいいぜ!!神様仏様アラーに空飛ぶスパゲッティモンスター!!アタシに救いをもたらしたまえ!!」


「わたくしにも、どうか天の助けを!!」



 しかし、建物を影に移動していた二人の前に、気味の悪い動きでスィー、と現れるはベリル。


「「ゲッ!!」」


 向けられたシースルーウェポンに「死んだか」と二人は諦めた……



 だが次の瞬間、

 その横からやってきた光の一撃で、悪魔の軍団シュバルツの手先が一撃で爆散する。


「なんだぁ!?」


 ヴェルの言葉に答えるよう、レッドローズのカメラアイの回った方向から高速でやってくる影。






「───援軍に来たッ!!」


 ルルの操るブライトウィングは、右マニピュレーターに握られたシースルーライフルの引き金を引く。


 放たれた特殊エネルギーは、強い指向性を持って敵を貫く。


 これまで、極限までの大口径や大質量で割る、やスラスターなどの非装甲部分を狙う、と言った方式だった戦いに革命が起こる威力だ。


「そこの陸戦型2機!!私は、新型兵器試験部隊の穂乃村ルル大尉!!

 他に生き残りは!?」


 攻撃の手を緩めず、ルルは無線に向かってそう問いかける。


『助かりましたぜ大尉さんよぉ!!

 自分は、ヴェロニカ・リー曹長!同じくこっちは、シャルロット……シャル、お前フルネームなんだっけ!?』


『最初から間違ってますわ。シャルロッテ・リーゼリンデ・フォン・ヴィドゲシュタイン、ですわよ。

 よろしくお願いしますわね、ホノムラ大尉?』


『そうそう、このなっげぇシャルなんとか曹長以外、みんな死んじまった!!

 この基地は生き残り探す方が難しいぜ!!』


 なんてことだ、と周囲に気を配りつつも言う。


「ならばすぐ撤退!!こんな場所で死んではいられない!!」


『なんていい上官だ!!けど、コイツら許してくれますかねぇ!?』


『緊急撤退マニュアルに従うにしろ、最寄りの基地まで100kmはありますわ!

 逃げるにしろまずは数を減らさないと……!』


 了解、と短く答え、射撃を緩めず最寄りの基地の方角を地図に出す。


 ここから西、自分から見れば右、100km先。

 地形は平野で都市はないが、それにしても遠い。


「私が殿しんがりを務める!!二人はすぐ行って!」


『了解!!弾薬が少ないとはいえすんません!!』


『あなたに感謝します!』


「そう言う言葉は生きて帰って言う!」


 と、直後爆発した味方の煙を盾に跳躍したベリルが一体空から襲いかかる。


「ッ!」


 とっさに、左手を肩のブースターユニットから伸びる突起へ伸ばし、掴んだそれを引き抜く。


 ブゥン!!


 敵の掌から伸びる光の刃と同じ、シースルーブレードが敵を切り裂く。


 敵を撃破したルルだが、直後避けきれなかったライフルの砲身が落ちる。


「……まだ弾倉残ってたのに……!!」


 ばっ、とライフルを捨て、シースルーブレードを肩に戻し、左腕に備えられたHEATランチャーで敵との応戦を再び始める。


 一瞬、背後の陸戦機の二人がこちらを見たが、しっかり逃げ始めてくれた。


「ボールドウィン社長!!すみません、ライフルをダメにしてしまいました!!」


『はいはい!まぁ、試供品なんですんで、それはいいですが、あなたは無事ですか?』


「ありったけの榴弾と、サーベルでなんとか……!」


『ヤケクソじゃないですか!!


 やっぱり、でした!!』


「援軍!?」




 その時、


 空から無数のシースルーウェポンの光が降り注ぎ、


 無数のシュバルツを一度にまとめて撃破する。





「なんだ!?」


「あれは……!?」


 逃げていた陸戦機2機の頭上、ヒュンと駆け抜ける白とオレンジ。







「お、おぉー!!

 1、2、たっくさん!!

 一千万マーズが、たっくさんだーっ!!」




 その機体は、頭部をはじめとした各部に流線型なデザインとカナードを持ち、白とオレンジの派手なカラーに『BBB-YF -01』の文字があちらこちらに散りばめられて書かれている。


 YF


 Yは試作型、Fは空戦型の意味だった。


 その機体へ集うよう、四角い形のブースターとを持つ自立浮遊兵器ドローンが集まり、機体の各部へ合体する。




「そんじゃあまぁ、たくさん稼いじゃうぞー!!」



 その機体のコックピットの中にいたまだ幼い少女は、一目で義肢と分かる腕で操縦桿を握り、視神経へ直接情報を投影する義眼を光らせて悪戯っぽく笑った。



        ***

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