黒薔薇姫の憂鬱

成瀬瑛理

序章

――それは雨が降った日の午後だった。大学生の俺は午前の授業を終わらすと、足早にキャンパスを出てバイト先へと向かった。外は雨がしとしと降っていた。そして、静けさの中、赤い傘をさしたまま一人歩いた。すると突然、誰かに見られている気配を感じた。何気無く辺りを見渡すと誰もいなかった。


……おかしい。誰もいないのに、まだ誰かに見られている気がしてならない。


 そんな妙な気配を感じていると、不意に真上が気になった。歩いてる足を止めると、バッと真上を見上げた。するとなんとあり得ない光景が急に目に飛び込んできた。


「えっ、女の子…――? うそだろ……!?」


 見上げると宙に女の子が浮いていた。それも真っ黒な長い黒髪を靡かせて、赤い瞳がジッと俺のことをみていた。それだけじゃない、服装も見馴れない格好をしていた。黒色のレースがあしらわれた豪華なドレス。まるでゴシックロリータ……いや、中世のような服装だ。なんかどこかでみたことがある気もしないでいると、少女は宙に浮いたまま、可憐にクスりと俺に笑いかけてきた。


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