第二話 ラスタは〈王立高等学園〉の入学試験を終える


「〈火よ、敵を焦がせ〉! 〈火球〉!」


 杖の先から火の玉が飛んで的に当たる。

 火の玉が爆発して、訓練場に設置された的は飛び散った。


 魔法を使った受験生に目を向けると、笑顔で「よし!」と拳を握っている。


 〈王立高等学園〉、魔法専攻の入学試験は、魔法で的を攻撃することらしい。

 使える魔法や威力を見てるんだろう。


 ……発動速度や内なるマナの練度、命中精度も成績に関係するはずだ。

 じゃなきゃ火系統の魔法を使えない人が不利すぎる。


 いまも、受験生の女の子が風魔法を的に当てて揺らしたけど……的は壊れなかった。

 女の子は悔しそうな顔をして下がる。

 発動速度は速かったし、ちゃんと的の中心に当てて、さっきの男の子の火魔法よりレベルが高かったと思うけど……。


 どの魔法を使うか迷っているうちに、僕の番になった。

 というか、僕で最後らしい。


 試験官と受験生に見られていることを感じながら、僕は的の前に向かう。


「ラスタ、いえ、ラスタ・アーヴェリークです」


「アーヴェリーク……ふむ。では試験をはじめよ」


「はい」


 けっきょく僕は、いつもの魔法を使うことにした。

 僕が使える魔法の中では、発動速度も精度も一番だから。

 ……威力は低いけど、僕の内なるマナの量じゃ大威力の魔法は使えないし。


 すっと的に指を向ける。

 指先から光が飛んで、的に当たった。


「なんだいまの? 〈光球〉? でも小さかったしめっちゃ速かったような」

「あれ? いま詠唱してた?」

「発動速度が速すぎるわ。それに……的の中心に」

「ふんっ、威力のない魔法なんてムダだよ! やっぱり火魔法が最強だね!」


 受験生がざわついてる。

 それに、的は中心が少しへこんだぐらいで壊れてない。

 試験官は的に目を向けて、僕に視線を戻した。まるで、続きを待っているみたいに。

 ……やっぱり威力が重視されるんだろうか。

 入学できなかったら師匠に破門にされるわけで……。


 そうだ。


 この試験は「」って言われただけで、とは言われていない。


 「常に事象の裏を読め」って師匠の言葉を思い出して、僕は気合いを入れ直した。


 目を閉じて呼吸を整える。

 僕は魔力量が少ない。

 でもそれは、僕の内にあるマナが少ないだけだ。


『世界にはマナが満ちている』


 師匠の言葉を思い出して、師匠の教えを思い出して、ついでに師匠の鬼のような鍛錬が思い出されて胸が苦しく、それは忘れて、世界に満ちた『外のマナ』で魔法を構築する。


 目を開けて、僕はもう一度、的に指先を向けた。


 指先から光が飛ぶ。


 何発も何発も。


 内なるマナの量が少ないなら、外のマナを使えばいい。

 一発の威力が低いなら、何発も連射すればいい。


 厳しい師匠の訓練の中で、僕が見いだした僕なりの答えだ。


「…………は?」

「無詠唱どころか魔法の連続発動……だと……?」

「それだけじゃないわ。この速度でこの精度……」

「で、でも威力がなくちゃ意味がないよ! 何発当てたところで的はそのままで、あっ」


 7発当てたところで、的の中心が抜けた。

 威力のなさに気を落としそうになるけど、がっかりしてる場合じゃない。

 僕はすぐに狙いを切り替えた。


 的の中心にできた穴を広げるように、穴のフチを狙う。

 小さな円は、どんどん広がっていった。


 まだ試験官の声はない。

 僕は魔法を撃ち続ける。


 やがて、僕を見ていた受験生たちが静かになった。

 騎士志望の受験生が剣を打ち合わせる音が訓練場に響く。


 薄く広く、葉ではなく森を見るように。

 ぼんやりと意識を拡散していると、試験官が動いた。


 


 僕は魔法を放ちながら、試験官のマナの動きを追った。

 僕を攻撃する魔法ではなく、もう枠しか残ってない的のあたりに、〈水壁〉を発動させるつもりらしい。


「的がなくなりそうだから、コレを狙えってことかな。じゃあ……」


 試験官の〈水壁〉が発動するタイミングにあわせて魔法を切り替える。

 的が物理じゃなくて魔法なら、やりようはある。


 〈水壁〉が生まれると同時に、僕の魔法が当たった。


 〈水壁〉が消える。


「よし。師匠にさんざんやられたからなあ……」


「…………え? なにいまの?」

「魔法を使いながら魔法を切り替えた!?」

「マナを乱して魔法を消す。ウソでしょなんで受験生がそんなことできるのよ……」

「火、火魔法なら! 俺の火魔法なら的は一撃だし水壁だって一撃で破れるから!」


 受験生が騒ぎ出す。

 でも、試験官は口を開かない。

 つまり、終わりだと見せかけて気を抜いたら死ぬような魔法が飛んでくるかもしれない。

 相手は師匠じゃないけど油断しちゃいけないって、魔法使いはその瞬間を狙ってくるって師匠に教わってきた。


 そう思ってマナを練っていると。


「そこまで」


 あっさり終わった。


「あ、あれ?」


 師匠?

 何度も「終わりかと思ったじゃろ? 残念これからが本番でした! 魔法使い相手に油断は禁物じゃ!」って……。


「以上で〈王立高等学園〉魔法専攻の入学試験は終了とする。例年通り、合否は明日の朝に正門前に啓示する。各自確認するように」


 どうやらこれで試験終了で、この場で解散らしい。


 …………師匠の訓練は、やっぱり異常だったみたいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る