第24話 雷:サンダー・ボール?!(1)
相変わらずの林の中、道なき道を進む一行。この日は昼過ぎから雲行きが怪しくなり、空がごろごろ鳴り始めた。
「この世界でも雷はあるんですね」
アキがそう呟いた瞬間、突然、空が目も眩むような光で一瞬満たされ、しばらくしてドーンという音が響き渡る。地球での雷とは桁が違う閃光と轟音だ。
「きゃああああ!」
ヨシミーが盛大な悲鳴を上げてうずくまった。
「ヨシミー大丈夫ですか?」アキが心配そうに聞く。
「雷、ダメ!」彼女は両耳を手で押さえ震えて動こうとしない。セレはその頭の上で彼女の真似をしてぶるぶる震えている。
その彼女の傍らでオロオロとどうしようかとうろたえるアキ。見かねたコトミが、まだ遠いから大丈夫ですよと声をかけるが、彼女は「ダメ! ダメ!」と耳にふたをしたまま繰り返すのみ。
「何ですか、今のあの光と音はー!? 初めて見ます!」
ハンナが嬉しそうに聞いた。
「ハンナさん、雷を見たことが無いのか?」
「はい!」
「それは運が良かったな。だが今は俺が付いているから大丈夫だぞ」
ジェイはここぞとばかりにアピールするが、ハンナの様子がどうもおかしい。
「綺麗ですねー! どういう仕組みで起きるんですか?」
「え?」
どうやらハンナは雷を楽しんでいるらしい。そんな彼女にジェイは一瞬腰が引けたが、質問に答えなければ男がすたる。そう思いつつもジェイにはそれに応える言葉が無い。この世界では雷の発生の仕組みはまだ解明されていないのだ。
そのやりとりを聞いていたアキは、待ってましたというように目を輝かせて話し出す。
「私が説明しましょう。入道雲のような上昇気流で雲が出来た時に、その雲がさらに上昇すると氷が出来るのです。この状態で、上の方には
「アキさん、分かりませんー!」
「へー、よく分からんが、アキさん、詳しいんだな」
「アキ! いいから! 早く! 避難!」
必死で震えた声で叫びながら、ヨシミーはアキの服を引っ張った。
アキは我に返り「そうですね、避難しましょう」と急いで場所を移動、一行は大きな岩陰にキャノピーテントを張って休むことにする。
ヨシミーにとって不幸なことに、この辺りには小屋を出せる広い場所が無い。
ちなみにそのテントはハンナが取り出したもので、所々穴が開いたりしている。ジェイとコトミはそのボロボロ具合に驚き静かに目を見合わせたが、何も言わなかった。
大気が不安定なのか、ピカリごろごろドカンと、いつまでも続く。雷は近づいており、光も音も大きくなりつつあった。
気が気でないヨシミーだが、ハンナがいつものように突然言い出した。
「雷が欲しいですー! あのバチバチ、綺麗じゃないですか? 閉じ込めるって出来るんですか?」
「何? 冗談じゃ無い!」
岩のそばで縮こまっていたヨシミーは、顔面蒼白になりながら反射的に叫ぶ。
「ハンナさん、それはちょっと……」とジェイも戸惑いを隠せない。
だが、困惑する彼らとは裏腹に、ハンナの一言でアキにスイッチが入ってしまう。
「うーん、もしかして球状の障壁に閉じ込めればできるかも知れませんね? 要は電子流を封じ込めてやれば」
それは面白いアイデアですねと言いながら、いつも通りに真剣に考え始める。
「えっと、そんなことが可能なのか?」とジェイは得体の知れないものを見るような目でアキを見る。
コトミは「さすがアキさんですねぇ」と、そのほほ笑みを崩す事はない。
しばらくブツブツと思案していたアキだが、ふと顔を上げたかと思うと、キャノピーテントから出て、皆から10メートルほど離れた場所へ移動した。
皆が、いったい何を? と疑問を持った瞬間、アキが頭上に両手を掲げ、魔法陣を展開する。そして、一方の魔法陣リボンを地面へと突き刺し、もう一方を、はるか上空へと、ぎゅーんと伸ばした。
その瞬間、ドカーンという轟音と目が眩むほどの閃光が発生し、リボンに雷が落ちる。全員の悲鳴をよそに、光は地面へ流れて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます