第3話 続

「君、図書館にいたろう。」

朝の静かな光の中で、それは聞こえた。道ゆく他の生徒たちのさざめきは、途端に僕の耳に入らなくなった。

「知ってるよ。」

−君、僕のこと見ていたんだろう。

 僕の額が、熱っぽくなる。耳先までじんじんと真っ赤になっているのが分かる。

でもそれは、アシュトンにからかわれた時とは違う感覚だった。


−声をかけてくれれば良かったのに。


 それはまったく一瞬のことで、声はさざめきの中にあっという間に溶け込んでしまった。彼の方へ目を向けることはできなかったが、真っ赤な唇が動くのを僕は想像していた。

 あのとき、文学館でみたのと同じように−


 声をかけてくれれば良かったって?

 そう言った?

 あの、ユースタスが?


 まさか。


『友こそ、あなたの心の光となるものなのです』


 今朝の神父様の声が、頭に蘇る。そう、友達、なんだったら。

 友達だったら、声をかけてもいいんだろう、きっと。

「あのユースタスと友達」なんて、大それたことだけれど。

 ユースタスがそう望むのなら。

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