第16話 帰還からの本題。

その後。


組合組のメンバーは見違えるように積極的になり、自ら進んで勉強したり、お互いの得意分野を教え合ったり、レベル上げのために進んで魔物に挑むようになっていった。

命のかかった戦闘ということを身をもって実感し、ボス戦に備えて入念なレベル上げを行い、レベル15まで引き上げてボス戦に挑んだ。


そして。


「っしゃ!! 勝ったぜ!!」

「余裕で勝てると思ってたけど、そんなに甘くはなかったな」

「ねえ、なんか揺れてな−い?」

「え?」


その瞬間。

視界がぐにゃっと歪み、思わず目を閉じた一行は、再び目を開けるとそこは見慣れた学園の教室だった。


「はい、お疲れ様」

「「「先生っ!!?」」」

「いい意味で予想を裏切られたわね。ずいぶんと顔つきも変わったし」

「あの…僕たちが冒険してきたのは何だったんですか? 夢…ではないですよね?」

「もちろん。夢だったら目が覚めたところでレベルに変動ないでしょ? あれはね、私が作った仮想世界」

「「「仮想世界!!?」」」

「そう。だけど、ちゃんとお腹も空けば痛みも感じるし、レベルだってちゃんと上がる。あそこの世界で体験した事はちゃんと経験として身につくのよ。さて。それでは見事課題をクリアしたみなさんに大切なお話があります。席についてください」


生徒たちは顔を見合わせ、まだ理解が追いつかないながらも席についた。


「みなさんはこの数週間、仮想世界で命のやり取りをしてきました。それと同時に仲間の大切さやチームワークなど、勇者に一番大切な事を身をもって体感したと思います。この経験を踏まえて、今から二つの提案をしたいと思います。組合では勇者の他に、警邏隊という部署を新設しました。職務内容は、今まであなた達が行ってきた業務とさして変わりはありません。勇者よりかは若干給料が下がるかもしれませんが、さほど変わらないでしょう。昨今は悪質な事件も増えてきていますから、全く危険がないわけじゃないですが、レベル15まで引き上がったあなた達なら余裕なはずです。一週間後、組合に戻り勇者の称号を返上し、新たに警邏隊の称号を得て任務に当たるか、このまま学園に残り、しっかり勉強して卒業するか。どちらを選んでもらっても構いません。実際に体験してきたあなた達ならわかるかもしれませんが、レベルはあくまでも目安です。レベルが自分より低い魔物であっても、毒や魔術で体の自由を奪われてしまっては負ける可能性も大いにあります。現時点ではまだ情報規制が敷かれていますが、あなた達は組合職員なのでお話します。今、魔界の動きが活発になってきているという情報が入ってきてます。近い将来、レベル100に近い魔物がどっと押し寄せてくる可能性が否定できない状況です。その為にこの学校が作られたんだけど、私は自分の生徒を無駄死にさせたくないです。しかし、勇者である限り、魔物討伐に駆り出されます。そこで、この選択肢です。一週間、期間を与えます。その間授業はありません。ゆっくり休んでください。一週間後、またここで返事を聞きます。よく考えて、結論を出してください。あ、学園に残る人は、今後本腰を入れた授業を行っていきますので、覚悟しておいてくださいね。以上! 解散!!」


リリアは生徒たちの顔を一人ずつ見ながら一気に喋ると、教室を出ようとしてふと立ち止まった。まだ動けないでいる生徒を振り返って再び口を開く。


「あ、そうそう。今は混乱してるだろうし、質問も出てこないだろうから、落ち着いたら質問でも相談でもいくらでも聞くので、講師室の方へ来てね」


それだけ言うと、リリアは教室を後にした。






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