第27話 観光して戻って来た!

もうすっかり紅葉が始まっている。強羅から箱根登山ケーブルカーに乗って早雲山でロープウエイに乗り替えて途中の大涌谷で降りて見物した。


硫黄の臭いと言うか火山の臭いが強い。奈緒はここへ修学旅行で来たことがあるといっていた。僕は来る機会がなかったので、寄ってみた。


ただ、新婚の二人が歩くには適さない。写真をとっても殺伐な風景が背景では、地獄めぐりをしているみたいだ。まあ、奈緒となら地獄へも落ちても良い気にはなっている。足場が悪いので手はしっかりと握っている。


それから再びロープウエイに乗って桃源台に着いた。もう芦ノ湖の湖畔だ。そこから箱根海賊船に乗った。二人デッキにならんで景色を眺めている。今日は晴れ上がって湖面に紅葉した木々が映っている。


僕は時々奈緒の横顔を見ている。見るたびに彼女が綺麗になっているような気がする。奈緒に相当惚れている。だからだ。


僕が肩に手をかけても、以前のように飛び上がったりはもうしない。むしろ身体を寄せてくれる。それに戸惑う自分に驚いている。好いてもらうというのは心地よい。好かれていると信じられると心が満たされる。


二人はほとんど話をしなかった。それでも心は通い合っていると思えた。奈緒の匂いが分かるほどに僕に寄り添ってくれていることがとても新鮮に思えた。ようやく結婚したと実感することができた。


箱根町港で降りて、箱根の関所を見物した。僕たちのようなカップルはほとんどいない。車で来ている人が多いからかもしれない。レンタカーを借りてくるのも良かったかもしれないが、ペーパードライバーが長いので止めておいた。


ここで昼食をとった。そして観光船に乗って、元箱根港を経て、桃源台へ戻って来た。ここにあまり長く居ても奈緒が疲れると思い、桃源台から小田原へバスで向かった。心地よい揺れと振動が眠りを誘った。バスの中でお互いにもたれ合って居眠りをした。


約1時間で小田原に到着した。小田原からは新幹線で品川へ、それから山の手線と池上線を乗り継いで洗足池まできた。夕食は相談して家でお弁当を食べようということになった。二人とも自宅でゆっくりしたかった。5時少し前には着くことができた。


◆ ◆ ◆

先週の土曜日に奈緒の荷物が搬入されていた。土曜日と日曜日に奈緒と母親が片付けに来ていた。だから、すぐに二人で生活できるようになっている。


すぐに部屋着に着替えて食事を始めることにした。奈緒は寝室に入って着替えをした。僕はその後に入れ替わって着替えをした。まだ、二人一緒に着替えるのは奈緒も抵抗があるだろうと遠慮した。


僕が着替えて出てくると、お茶を入れていた。お弁当を食べながら明日からの毎日のスケジュールについて相談した。明日から二人とも仕事に出ることにしている。


それから、買ってきたお土産のお菓子を食べようと、今度は僕がコーヒーを入れた。コーヒーミルで豆を挽くのを奈緒がじっと見ていた。


コーヒーを飲みながら、僕は今朝の話をした。


「今朝は奈緒が先に起きて身繕いをしたので、惜しいことをした。腕の中で目を覚ました奈緒と一緒にお風呂に入りたかった」


「ごめんなさい。あなたの腕の中で目が覚めましたが、恥かしくなって先にお風呂に入ってしまいました。それに気持ちよく眠っていたので、起こしては申し訳ないと思ったので」


「僕はいつでも今という時を大切にしたいと思っているんだ。明日はどうなるか分からないから。だから奈緒との時間をどんな時でも大切にしたい。今日の朝は今日しかなかった。明日の朝は明日の朝だから。とても残念だった」


「ごめんなさい」


「それで今晩は一緒にお風呂に入らないか? 恥ずかしいのなら遠慮するけど、もう恥ずかしいことはしてしまったから、いいんじゃないか」


「はい」


「僕が先に入っているから、後からでも入ってきて」


「そうします」


相当な屁理屈を言って奈緒を説き伏せた。でも奈緒はそれが分かった上なのか、承知してくれた。


僕が頭を洗っていると、奈緒が入ってきた。そして頭を洗い終わるまで、バスタブに浸かっていた。それから僕の背中を石鹸で洗ってくれた。洗ってもらって気持ちがよかった。


ふと、奈菜を思いだしたのはなぜだろう。洗い方が似ていた? せっかく洗ってくれた奈緒に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


今度は僕が洗ってあげようと場所を変わって、手ぬぐいに石鹸をつけて、奈緒を洗いはじめた。綺麗な華奢な身体だ。奈緒が敏感なことが分かっているから、できるだけ自然に何気なく洗うことにした。奈緒が嫌がると思ったからだ。


でもそうしても奈緒は感じて気持ちがいいみたいだった。洗い終わるころは顔が真っ赤になっていた。


それから二人でバスタブに浸かった。お湯が音を立てて流れ出た。奈緒は僕に背中を向けて抱かれるようにお湯に浸かっている。アップした白いうなじが艶めかしい。


「僕は上がるけど」


「先に上がって下さい。私は髪を洗いたいので」


僕は先に上がってきた。そしてパジャマに着替えて寝室のベッドに腰かけて、ボトルの水を飲みながら奈緒を待つことにした。


なかなか奈緒は寝室に来なかった。見に行こうかと思ったところで、寝室に入ってきた。浴衣を着ていた。薄い緑の地にピンクの花が散らばった柄だ。真っ赤な帯もよく似合っている。それに髪をアップにしていた。


「この前、お母様に浴衣を着せてもらって、とても寝心地がよかったので、買ってみました。どうですか?」


「良く似合っているね」


奈緒はどう思ったのか、床に正座をした。


「不束者ですが、末永くよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


僕はベッドの上に座り直してそう言った。


「昨夜は緊張していて言うのを忘れました」


「確かに身体がガチガチだった。もう緊張していないね。こっちへおいで」


奈緒がベッドに入ってきたと思うと僕に抱きついた。これならもう大丈夫だ。浴衣は良い。後ろから抱き締めると、すぐに浴衣の中へ手が入れられる。奈緒の小ぶりの乳房が僕の手の中にすっぽりと入る。すぐに二人は夢中で愛し合う。奈緒は何度も上りつめた。


それからすぐに奈緒は眠ってしまった。今日はしっかり僕に抱きついて眠っている。抱き付かれて眠るのは抱いて眠るよりも良い感じだ。セミダブルのベッドは広くはない。だからなおさら抱き合って眠るのには適している。

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