第13話 龍人の高校時代4(友の思い)

 翌々日、学校での山田の様子に不安を感じた龍人は、放課後、山田の後をつけた。

街の歓楽街に入ってゆく。

ゲームセンターの前に不良グループがたむろしていた。

「おお、山田君じゃないの。3週間も顔を出さず、どうしたのよぉ。俺、小遣い無くなっちまったぜ」

不良グループのリーダー格とおぼしき男が声をかける。

「もう、君たちに渡すお金はないって言ったろ」

「何だ、おまえ。又やられてぇのか?ざけんじゃねぇぞ」

「君たちに渡すお金はないんだ」

「この野郎」

と言いながら山田に殴りかかる。

パンチを受け流すと、バランスを失い不良は転がる。

「てめぇ」

起き上がり再び攻撃をしてくる不良だが、すべて受け流す山田。

「おめえたちも手伝え。この生意気なやつを痛めつけてやれ」

子分とおぼしき十数人が山田を囲む。

(まずい。一人なら問題ないが、あの人数は今の山田君では無理だ)

「あなたたち、一人を相手に大勢で恥ずかしくありませんか?」

「何だ、てめぇ」

とリーダー格の男。

「こいつ、例の御山のとこのやつです。家が古武道の」

「古武道やっているからって、かっこつけてんじゃね。みんな、やれ」

「山田君、あのリーダー格、頼める?後の人達は僕がなんとかするから」

「守家君、付いてきてくれたの。ごめんね、巻き込んで」

「話はあと、彼らをなんとかしないと」

向かってくる子分たちをいなし、互いにぶつけ合わせ、転がし、あっという間に子分たちの戦意を消失させた龍人。

山田の方を見ると、おなかを押さえ、うずくまる不良のリーダー。

「ごめん、守家君。攻撃するなって言われていたけど、しちゃった。もう破門だね」

「これは正当防衛だ。彼等にも良い薬になったはずさ。来週、待っているから」

「ありがとう」

涙ぐむ山田。

「君たちがまた、山田君に迷惑をかけるようなことがあれば、次は本気で相手をします。ナイフとか武器は持ってこない方がいいですよ。手加減出きなくなります」

龍人は、ナイフをちらつかせていい気になる輩のことを嫌った。

ナイフを持っていると、人は必ず使いたくなる。

ナイフを向ける方は深く考えていなても、向けられた者はその恐怖を忘れられない。

ナイフは、小学生の子供でも人の命をたやすく奪う事が出来てしまう。

刺した者自身の人生をも、大きく変えてしまう。

その刃に、人の命と人生を乗せているとの認識が無い輩だからだ。

龍人の言葉が嘘でないことはさっきの立ち回りと、はっきり理解出来るすごみを感じた不良たちは、二度と山田にというより龍人に関わる気は無いようだった。


 ゲームセンターの道を挟み、反対側にあるコーヒーショップに、数グループあるリーダーの中でも、一番ケンカが強いと目されている木下がいた。木下はボクサー崩れだった。

事の始めから成り行きを見ていた。十数人をいなす龍人が一瞬、消えたと思わせるほどの動きに目を疑った。

世界ランカーのボクサーでもあれほど俊敏に動くことなど出来ないだろう。

さらに驚愕させたのは、龍人の放った殺気とも思える強烈な威圧感であった。

グループ同士の抗争で武器を手に、殺気を放ちながら向かって来る者もいるが、興奮状態の中でのもので、さほど恐怖を感じたことはなかった。

しかし、龍人のものは冷静で、覚悟に満ちたものだった。

背筋が凍り、体が硬直するほどの恐怖を感じた。

”あいつはヤバイ”

多くの修羅場を経験してきた木下の生存本能のようなものが警告していた。

木下は手下に龍人には手を出すなと徹底させた。

その噂は他のグループにも広まる事となる。


 後日、龍人の道場に入門する”元不良”がかなり増えた。

はじめはケンカに強くなるための入門だったが、数ヶ月後、師範の指導(マインドコントロールに近い誘導)が浸透し、礼節を重んじる真面目な門下生となっていた。

立ち回りの翌日、山田は学校に来なかった。

「よお、守家」

山田とは近所で幼なじみの小池だった。

「孝から聞いたぜ。ありがとな」

「山田君、今日来ていないみたいだね」

「ちょっとな。…おまえ、いつも学校が終わるとすぐ帰るだろ。付き合いの悪い、澄ました自分本位な嫌なやつだと思っていたけど、違っていたんだな。孝のこと、ありがとな」

「気を悪くしていたなら謝るよ、すぐに帰ってしまうのは事実だし。それと僕は山田君が古武道を習いたいからって、道場に来たから一緒に練習しただけだよ」

「近所にいる警察官の佐藤さんがおまえの道場に通っているんだ。おまえの教え方が上手く孝のやつ、あっという間に上達したって驚いてた。今度俺にも教えてくれよ」

「入門者は大歓迎だよ」

「ああ、頼むわ」

その後から、小池と小池の友達つながりの同級生が龍人の机の周りに集まるようになった。

同級生と、たわいのない話をするのは心安まる感じがした。

そこに悪意など存在していない。

ただ、素直な気持ち、考えを言葉にしているだけだった。

言葉を通してお互いの気持ちが交差してゆく。

そしてその輪が重なり広がってゆく。

新鮮で心地良いものだ。

カトリはこのことを知ってほしかったのだろう。


 山田は一週間たっても学校にも、道場にも来なかった。

さすがに気になった龍人は、普段は使わないようにしていた力で理由を探ると、山田の父親が病気になり、家族で父親の実家に生活と療養のため、引っ越す事が判った。

翌日、担任の先生がクラスのみんなに伝える。

「えー、山田君が転校することになりました。お父様が病気で、引っ越しの手伝いをしなければならないので本人は来れませんが、みんなによろしくとのことです」

その日の昼休み、ぽんと肩をたたかれ、振り向くと小池が立っていた。

「孝のやつ、おまえに感謝していたぜ。申し訳なくて合いに行けないからって手紙を預かってきた。おまえ、いつも昼休みに屋上で文通している子の手紙読んでるだろ。これも読んでやってくれ」

もう一度肩をぽんとたたいて小池がさみしそうに笑う。

手紙の内容は読まなくても山田を覗いたときに判っていた。

それでも手紙を開くと、丁寧に書かれた字が所々にじんでいた。

引っ越す理由と、感謝の言葉と謝罪の言葉が並んでいた。

最後に書かれていた”ありがとう、さよなら”の文字がやけに寂しく見えた。

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