Fくんへの手紙

 Fくんねぇ。

 君がやったことを知って、私はずいぶん考え込んでしまったよ。君に何があったんだろうって。


 いつも思うんだけど、報道されるのは一部の事実でしかない。そこに至るまでに、いろんなことがあったと思うんだ。君を守るために隠されることではあるんだけど、その一部を元に勝手な推測をする人もいるよね。

 名前も顔も晒されて、君はこれからどんな風に生きていくんだろう。

 罪は消せない。いくら悔いても、無かったことにはできない。君はそれを抱えて生きていかねばならない。その重さを思うよ。


 分かっていても、そうせざるを得ない何かがあったんだろうね。ポッカリと空いた穴だったのか、焼け付くような痛みだったのか。

 その何かは、君をずいぶん苦しめてきたのだろうね。

 でもね、Fくん。その何かの声に、耳を傾けてほしいんだ。その声は歪み、捻れているかもしれない。それと向き合うのは恐ろしいことだと思う。でも、それが本当に求めていることは何だったんだろう。それを見つめた先で、君の新たな人生が始まる気がするんだ。

 できれば、その声に一緒に耳を傾けてくれる人がいたらなぁって、願うよ。


 君を知っている人たちは、ずいぶん驚いただろうと思う。君を案じていると思う。

 君が今まで頑張ってきたことを、知っているから。

 そして、君の幸せを願っていると思う。


 Fくんねぇ。

 自分以外の誰かになれたらって、思うこともあるよね。別の人生を歩めたらって。全て投げ捨ててさ。

 でもさ。君がいろんな思いをしながら、一歩ずつ踏みしめてきた道だ。キレイゴトに聞こえるかもしれないけど、大事なのはどこに辿り着いたかじゃないよ。振り返ってみてほしい。

 心の底から笑ったことは無かった?

 見上げた空を美しく感じたことは。

 背中に添えられた手の温もりは。君が大好きだった人の笑顔は?

 歩んだ道の先で、作り上げられていくものがある。君になれるのは、君しかいない。


 君のしたことは罪だけれど、君自身が罪な訳じゃない。

 悔いてほしいけれど、君自身を見捨てないで。

 君という人間に灯る光がある。

 必ずある。


 勝手なことばかり言ってごめんね。

 伝えられないし、届けられないけれど。

 世界の片隅で、君を思う。

 君の幸せを願っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る