♣︎9

Johnny shall have a new bonnet,

And Johnny shall go to the fair,

And Johnny shall have a blue ribbon

To tie up his bonny brown hair.


ナインの片目を隠す髪を持ち上げた。彼は緊張しているのか、じっとしている。体がカチカチだ。一度手を離して、リボンを手に取った。

「紐リボンをつけようか」

ブラウスに手持ちのリボンを当てていく。どの色も悪くない。ナインの意見を聞いてみようか。

「どれがいいかな。これとか……似合いそう、だけどちょっと幅が太いかな。こっちは細すぎる。このぐらいがちょうど……」

「せ、先生」

ナインのか細い声が上がった。一度手を止めて顔を見る。

「ん、どうかした?」

「あの……いいんですか。僕の為に新しい服を、なんて」

「いらなかった?」

「あ、そういうことじゃなくて……だって、ケイトも消えちゃったのに」

私が黙ったままでいると、慌てたように付け加えた。

「せ、先生がそれで気分転換できるならいいんです。でも、僕じゃ相手するのに面白くないでしょうし」

ナインの腕を持ち上げて、袖のボタンを外した。似合わないと思ってそれをハサミで取ると、更に怯えたように体を縮ませてしまった。

「あっ、ごめんねナイン。そもそも私は全員の服を作り直したかったんだよ。まぁそれは叶わなくなってしまったのだけど……ほら、ここのボタンもこっちの方が似合うだろう? ナインの瞳の色とも合っているし。こっちは少し安っぽい。ああ、これも悪くないな……うーん、他はどこを直そうか」

私がじっくりナインの服を見ている間は静かだったので、会話はなかったのだと思う。覚えていないほど熱中していたようだ。

気づいた頃に顔を上げると、色が変わっていた。藍色が中心だったが、白色が増えている。爽やかな印象になった。

「うん。似合っているよ、ナイン」

「……そ、そうですか」

「初めは落ち着かないかもしれないけど、凄くいい、と思う」

「あの、先生」

「ん?」

「僕、指先に何か欲しいです。すぐ目に見えるものが」

ナインの小さい指を観察する。アクセサリーを作れるほどの道具はないだろう。リボンでも巻くか?

「指輪を布で作ってみる? あ、細い糸を編んで形にしてみようか」

「それも、いいんですけど……」

ナインがおそるおそる針を手に取った。

「僕も、ジャックみたいに……」

「縫ってほしいってこと?」

こくりと小さく頷いた。予想外のお願いに少し迷ったが、ナインが自分から言ってくれるなんて珍しいことだ。

「分かった。どの指がいい?」

私の手に小さな指が重なった。約束をするみたいに、小指が絡められる。

「ここに……」

ナインは思ったより、私に懐いてくれているようだ。この小さな指を守りたいと同時に、もっと美しくしたいという欲が湧いてくる。

ナインの為に選んだリボンを、まずはそのまま巻いてみる。白い指に、濃い青色がよく映えた。

つぷりと針が皮膚に刺さる。特に反応はなかったので、やはり痛みはないようだ。

「ナイン、痛くない?」

「……はい」

怖いのか、目を細めてそれを眺めていた。それが我慢している表情に似ていて、躊躇しそうになる。痛みを感じていたら、大人しく座ってなどいられないのに。

小指なのですぐに終わった。ナインは顔の前に手を持ってきて、反対側から見たり、横にしたり、色々な角度で観察していた。

「どう、かな」

「僕も、似合っていますか?」

「ああ、もちろん」


And why may not I love Johnny ?

And why may not Johnny love me ?

And why may not I love Johnny

As well as another body ?


「……先生」

「どうしたの」

「僕が消えちゃったら、どうしますか」

「次が自分の番だと思っているの?」

「はい、だってシンクとケイトが……」

「ナインは消えたくない?」

「……はい」

「皆と一緒にいたい? もしここに終わりがなくても、消えたくない? 他の人間が消えたら、もっと人数が減ったらどうする?」

意地悪な質問だったか。ただ優しく慰めてあげるだけで良かったのだろうか。

ナインはしばらく黙っていたが、自分を抱くようにしていた腕を緩めて、膝の上に置いた。

「……消えたくないんじゃなくて、皆といたいだけです。一人にはなりたくない。ズルいですよね、こんなの……最後の一人になりたくない。取り残されたくない。怖い……だったら、今消えちゃった方がいいのかな」

「ズルくなんてないよ。当たり前だ。一人なんて、寂しいよ」

約束を施した指を絡める。

「ナイン、君に魔法をかけてあげる。おまじないかな。怖くなったら唱えるんだ」

そうしたら、私が迎えに行くから。

ようやくナインに笑顔が見えた。

私は頭を撫でようとして、もう一度髪を横に流す。耳にかけると、別人のようだ。

照れたように下を向いてしまったが、笑顔はまだ失われていなかった。

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