garden rose cat 5

「おお、すまねぇ。ちょっとエースに呼ばれてな……って、話してる間に最後になっちまってるじゃねーか。間に合ってよかった。不正はねぇみてえだな。さーて、勝つのは誰かなぁ?」

「もうサイス。今大事なところなんだから、静かにしててよね」

「あーすまんすまん……」

「……先生、めくる?」

「えっ」

キングがいつの間にか私の腕を取っていた。そのまま中心に引っ張られる。

「どうぞ」

覚悟を決めてめくると、そこにあったのは……庭師だった。

「くわぁー残念! キングは嘘をついていなかった!」

「あぁ……そっか。何か隠し持っていると思ったんだけど」

「こりゃもうキングの勝ちかな」

「そうだね。残り一枚だから逆転はないよ」

「一応最後までやっとこーぜ。消化試合。バラ」

「はーいバラ」

「じゃあキング讃えて庭師を」

「庭師、終わり」

出したばかりのカードをトレイがめくった。

「は、最後持ってたカード結局庭師だけか? マジで何考えてんだ。猫も早々に出し切るしよ。先生は初戦から強敵当たっちゃったな」

「そうだね、キングの出し方はかなりギャンブラーだ。面白かった」

「おめでと、キング」

「よーし、優勝はキング! さすがのゲームセンスだ」

カードを集めてあれこれ感想を言っていると、暗い部屋の隅っこからナインが近寄ってきた。

「あ、あの……」

「ん、どうしたナイン。次のゲームやるか?」

「いやそうじゃなくて……」

「うるさかったかしら? ごめんね」

「そ、そうでもなくて……」

「んじゃなんなんだよ」

ナインは胸の前で折ったメモを机に広げた。

「多分合ってると思うんだけど、宣言した手と出した手を記録しておいた……あ、いらなかったかな」

「マジで? よく見えたなお前」

「その……テンと協力したから。ケイトとトレイは僕が。キングと先生はテンが」

「はい、私がばっちり書かせていただきました!」

急に肩のところに顔が現れたので驚いてしまった。集中していたのと室内が暗い為か、全然気がつかなかった。

「こちらが結果です。宣言したのを左に、実際出したものが右になります。マーク付きのところは、ダウトが起こった箇所です」

「あら、二人とも優秀ね」

「これを見ると……二回のダウトで逆転が起こってるんだな。最後のは単に指摘失敗って感じか。おいおい、普通のダウトが一回もねぇぞ。もうちょいあってもいいんじゃねえか?」

「今回はダウトした者負けみたいなところがあったから、次は必ず一人一回言わなきゃいけないルールとか、縛ってもいいかも」

「やっぱり手作りのゲームは改善の余地があるね」

「これが単にカードを出し合う、ただのじゃんけんならもっとシンプルなんですけどね。このゲームは相手のカードが全然見えてこない。結局何が嘘だったのかは、カードを回収した人には分かるかもしれませんが……多い枚数になればいちいち見ていられないですよね。全員メモを取るというのもいいかもしれません。ちなみに先生とキングは、同じカードを六回宣言しているんですよ」

「マジで? あー本当だ。どっちもバラを六回……」

ナインとテンが混じり、まだまだゲーム談義は続きそうだ。

「そういえば……前にこんなルールもあったよね。強すぎるかもって事でまだやれてないけど……今のルールはダウトと指摘されても、下のカードに勝っていれば、間違ったカードを出していても勝ちになる。その逆で、下のカードが上のカードに勝っていた場合、上のカードを出した人物が合っていても、その人は負けになる……」

「そういえばそんなのもあったなぁ……はは、よく覚えてたな。ナイトとテンの方がゲーム得意なんじゃないか?」

サイスは二人の肩を掴んで笑いかけた。困ったような笑みを浮かべるナインだが、嫌がっているわけではなさそうだ。

「い、いや僕はこうして結果を見て、あそこでああしていたらとか……そういうのを考えるのが好きで。実際ゲームやったら頭真っ白になって、何も考えられなくなっちゃう……」

「私は司令官になりたいです! どうですか? 次は私と組んで戦いませんか? ああでもその場合、会話できるタイプのゲームか、筆談する時間を設けられるゲームを……」

「テンがそんなにゲーム好きだったなんて知らなかったわ。意外ね」

「ゲームというか、皆が好きなんです。だから皆とたくさん話せるゲームが好きなんですよ」

「や、やだテンちゃん……っ、なんていい子なの」

「はは、本当にここはいい子ばっかりだな。よし、結構盛り上がったし、一度休憩を挟もうか」

その言葉で場は解散になった。立ち上がって腕を伸ばす。ずっと同じ姿勢だったからか、ぽきぽきと音が鳴った。

私が廊下に出ようと歩き出した時、部屋の中ではまた話し合いが始まっていた。

彼らの関係性はよく分からないが、数年の付き合いがあるのだろう。仲睦まじい様子に、胸が温まった。


暗い廊下に出ると、高ぶっていた気持ちが落ち着いてきた。ヒートアップしたゲームは楽しかったが、頭を冷やす時間が必要だ。

「あれぇ……センセエー?」

ゆらゆらと影が揺れている。一歩一歩が重く、倒れそうな歩き方に心配になって近寄ろうとしたが、その相手を思い出して足を止める。

「……ジャック、かな」

「せぇーかあーい」

パチパチと手を顔の横まで上げて叩く。彼のこれは自然なのか、それとも演じているのか。

考えている間に、相手は近くまで来ていた。

「よく覚えたねぇ……もう全員の名前言えるかぁ? ハハハ……すごいすごい……もう一回拍手を送るよぉ、センセェ」

長い髪の隙間から覗く目と合ってしまった。細くしたり、最大限まで開かれたり、正直言うと怖い。

「ジャック……君、髪邪魔じゃない?」

彼は銀髪を腰元まで伸ばしている。前髪も同じ長さなので顔を覆ってしまうと、前を向いているのかどうか分からない。

「ん~いやぁ? べつにぃ? センセは切りたいの? 俺の体切りたい? 切り刻みたいいい?」

「君の体……」

ジャックの腕を取った。多少傷ついてはいるが、綺麗だ。恐ろしく真っ白で細い。

「ピアスをいくつか開けて、そこに糸を通す。コルセットのように編み上げるんだ。腕、背中……どこでもきっと映えるだろう」

ジャックが黙ってしまった。やはり彼は、本当はこんな子ではないのかもしれない。そう決めつけるのは早計だが。

「急にごめんね、驚いたかな。世の中にはそうやって直接体を飾り付ける人もいる。君もそういうのが好き……きっと似合うと思ったのだけど」

沈黙が続いて腕を離そうとした時、奥から足音が聞こえてきた。

「あれ、先生ジャックに絡まれてます? すいませんねぇ、なるべく監視するようにしていたんですけど」

「クイーン……」

「あああ、やっぱ恥ずかしいクイーンって! もうちょいマシな名前にしません? 先生なんか案ありませんか? 僕が十一ならイレブンにしてましたけど、十二だからトゥエルブ。トゥエルブってギリ名前っぽいですか? あ、ていうかアレですね。僕らトランプなんだから、クイーンじゃなきゃダメか……じゃあアレだ。ニックネーム! 僕も色々考えたんですけど、なかなか思い浮かばなくて」

「あっ……」

突然のマシンガントークに呆気にとられていたら、ジャックが横をすり抜けて、また暗闇の中へ戻っていった。よくこの中を歩けるものだ。慣れかな。

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