garden rose cat 1

教室へ戻ると、数人減っていた。他の部屋へ行ったのだろうか。

「おかえりなさい。随分ゆっくり見ていたみたいだね」

「待たせちゃったかな」

「……一階まで行った?」

顔を見合わせてから頷く。それだけでエースは全てを察したようだ。

「……ん、じゃあ事情も分かったようだし、息抜きにゲームでもするか。はは、ほらさっきカードの束が見つかったんだ」

眉の下がったエースを気にかけるように、サイスが肩を叩いた。

「時間を潰さなきゃいけねぇってことは理解してもらえたみたいだし、今度はもっと気楽に遊ぼうぜ。おい、これにノるやつは?」

前の方で手が上がった。サイスの目線からいって、私も含まれているようだ。

「俺達はデュースを眠りやすい場所に連れていくから、楽しんでね」

エイトは気の使える子だ。ここで多少騒いでもいいように、動いてくれたのだろう。

「私やるわ、先生とお手合わせ願いたいもの」

「……やるゲームは?」

「おっ、珍しいなトレイ。俺らで作ったあれでいいだろ」

「ま、暇だしやるかな。いい加減、壁とにらめっこすんのも飽きた」

もっと取っつきにくい子だと思っていたが、そんなこともないらしい。端っこにいたトレイが椅子を持ってやってきた。

「……いい、かな」

「おお、こりゃまた珍しい。いいぞいいぞ、キングも大歓迎だ」

足音もなく近寄ってきたキングを迎えたサイスが、机を動かした。

「まぁ四人ぐらいがちょうどいいか。俺はルール説明と、あんまり必要ねえがジャッジ役でもすっかな。よし、椅子もう一個持ってきてくれ」

私の横にケイトとキング、対面にトレイが座った。サイスは立ったり座ったりしながら、皆の顔を覗いている。

「さて、先生はトランプのダウトっていうゲームは知ってるか? 1から順番にカードを出していくんだが、嘘をついてもいいんだ。自分が2を出す番に、わざと3を出すとする。誰からも指摘されなければ、そのままゲームは続く。誰かにダウトと言われたら、そのカードをひっくり返さなきゃいけない。そのカードは本来2であるべきだが3を出してしまったから、出した人物の負けだ。場に溜まっているカードを、全て自分の手持ちに入れなくちゃいけない。ちなみに正しいカードを出していた場合は、ダウトと言ったやつがカードを引き取るんだ。それを繰り返して、最終的に手持ちのカードを一番早く使い切ったやつが勝ちだ。ずっと正しい数字を出していれば特にペナルティはないが、守りだけじゃ勝てねぇゲームなんだなぁ」

目の前に三枚のカードが置かれた。トランプだと思ったら、全く見覚えのないものだ。

「今のトランプゲームのダウトをベースにして考えた新ゲーム……えっと何だっけ、キャットが先だっけか、ローズが先か」

「確かキャットローズガーデンだったかしら?」

「ガーデンローズキャット?」

「んなもんどーっでもいいんだよ! 気色悪いもんばっか集めやがって、全然センスねえわ」

カードにはそれぞれ黒猫とバラの花と、ハサミを持った男が描かれている。

「猫とバラと庭師がモチーフなんだ。一応さんすくみっぽくなっているんだが、あまり上手にはできなかったな」

「色々なパターンを考えたのよ? でも完璧なパーとグーとチョキ以上が見つからなかったわ」

「俺は海賊と骸骨と……何だったけな、それを推してたんだが。そんななよなよしたものになっちまった」

「犬……だっけ」

「犬ぅ? まず海賊は骸骨に負けるだろ? 攻撃できねーから。んで骨は犬に食べられるから負け。海賊は犬相手には攻撃できるから勝ち。こんなんだったか?」

「もーうそんなのいいじゃない。今はこれに決まったの。まず庭師は当然バラよりも強いわよね、どうにだってできるんだから。次にバラは猫ちゃんに勝つの。ここの理由が弱いのよね、確かトゲが危ないとか、香りが強すぎるとかそんなんだったかしら。ここは無理にでも納得してくれる? で、猫ちゃんは可愛いから庭師はデレデレになっちゃって負け。これは分かったかしら、先生?」

「ああ。でもそれとさっきのダウトがどう繋がるのか、まだ分からないな」

「このゲームでトランプは使わねえんだ。今からそれぞれに五枚ずつこいつらを配る。全部で十五枚になるはずだ。出すカードは自分で宣言する。猫バラ庭師、どれか一つを言ってから裏向きにカードを出す。流れは大体同じだが……ちょっとやってみるか。ケイト付き合ってくれ」

「はいはい。良いわよ」

「じゃあケイトから始めてくれ」

ケイトが机の真ん中にカードを置いた。

「猫を宣言するわ」

「猫か。出すカードは何でもいいんだが、じゃあ勝ち手のバラを出しておく」

サイスも裏向きにカードを出した。

「ダウトよ。カードめくってもいいかしら?」

ケイトがふふと笑ってからカードをめくった。そこにあるのは宣言したのとは違う庭師だった。

「ただのダウトならこれは俺の負けでカードを回収だが、こいつはもう一回チャンスがあるんだ。ケイトが出した一つ前のカード、こいつもめくる」

そこにはあるカードはバラだった。宣言していたのとは違うカードだ。

「結局お互い違うカードを出していたんだが、そこにペナルティはない。ケイトの出したカードがバラで、上にある俺のカードは庭師。庭師とバラだったら? 庭師の方が強いんだ。だからこの場合は俺の逆転勝ちになり、ケイトが回収する」

「裏の裏まで読まれてたって事かしら」

「説明しやすくて助かったよ」

ケイトが細い指で二つのカードを回した。よく見ると絵のタッチがバラバラなので、数人で描いたのだろう。

「今度は分かりやすく表にしたままやってみよう。俺は庭師を宣言する。出すのは庭師のカードだ」

「私は猫を宣言するわ。出すのも猫のカード」

「ダウトだ。ケイトは猫のカードを出しているから、指摘した俺の負けだ。カードが合っていた場合は、下のカードが何であるかは関係ない。ただの負けになる」

「まぁダウトが成功した場合のみのルールだな。しかも下のカードが自分の出した奴より弱くなくちゃ意味がない。同じカードも意味ねーし。でも絵柄が三つしかないから、逆転の可能性は……まーあり得なくはないって感じか」

「簡単に流れをまとめておこうか。まず絵柄を宣言してから順番にカードを出す。カードが間違っていると思ったらダウトと言う。言われた人はカードをめくる。合っていたらダウトを言った人の負け。間違っていたら基本的にはカードを出した人の負け。ここまで大丈夫だな?」

「ダウトと言われたら自分の出したカードと、その下のカードをめくる。同じ絵だったら何もなし。ストレートに負けだ。下が上より強いカードの時も、何もなし。上が勝った場合のみ、宣言したのと違うカードを出していても、ダウトと指摘した人物に押し付けることができる。こういうことだ」

「ああ、理解したよ。なんとかできそう……だと思う」

通常のダウトであれば自分のカードを出す時、気にするのは指摘されるかどうかだけでいい。しかしこれは前の人物が出したカード、次の人物に狙ったカード出させる為に、何を宣言するかも気にしなくてはいけない。シンプルに見えて、なかなかやることが多そうなゲームだ。

「ははは、じゃあ最初の勝負だから、練習がてらゆっくりやろうな。よーし、カードを配るぞ」

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