赤い宝石

 これは蛇足であるが、ご存知の通り菅原道真といえば平安時代に大宰府へ左遷され死後怨霊となったと言われている。ただ、大宰府へは幼子二人を連れることを許されたという。

 幼子二人のうち女児が亡くなったときには、大変悲しんだそうだ。


 延長8年、西暦でいえば930年くらいのことであろうか、平安京の内裏・清涼殿に落雷があり死傷者が出た。怨霊と化した道真がなしたこととされる。


 ちなみにであるが、猫丸という神刀がある。この神刀は道真がつくったものであるという俗説があるが、神刀に触れた猫が真っ二つになったという。北野天満宮には子猫丸という猫丸の銘が入った脇差が奉納されているそうだ。


 まあ、菅原道真自身のこのエピソードはこの物語とは特に関係はないのであるが......



***



 ある日『森の向こうの小屋』で朝顔が古書を読んでいると、チチカカと名乗る少女がやって来た。


「まあ、熱心に本をお読みですこと」

「はい。わたしは妖魔と戦う術をさがしています。サツマイモ......いえユリウスの仇もとりたいですし」

「妖魔と戦う? 仇をとりたい? 何を言っているのかしら、朝顔さんあなたには無理なことですわ」


 無理? なぜ無理と言い切れるの? わたしはきっと妖魔を倒す方法を見つけるわ......そう思った朝顔であったが......


 とある日の朝である。朝顔は大きな花を咲かせた。大きな花はやがて実を結び、いくつかの種を落とした。

 赤い宝石の中にいたミチザネはその種を拾い、古書を読んだまま動かなくなっている朝顔をつつみ込むように抱いた。まるで自分の小さな娘を抱くように。



***



 タカキとヤスユキの父親が〔タイムマシーン〕によりどこかへ飛ばされると、朝顔はスライムの少年、アウグスに話しかけた。


「アウグスさん、わたしたちは ' ネコ ' の力でなんとかディエタの体内から出ることができました......わたしはこの小屋でずっと古い書物を読んで、あの者を倒す方法を探していたのですが......どうやらもう......」

「......」

「アウグスさん、この赤い宝石をあなたにあげますね......見てください。中に種が入っているでしょう? わたしの子なんですよ。ミチザネさんがこの石の中に入れてくれたんです」

「......朝顔さんの子供?......」


 朝顔はアウグスの頭に赤い宝石をかけた。

 アウグスがもう一度何かを言おうとしたら、朝顔の姿は消えたいた。


 気づくと、朝顔だけでなく、小屋からはネコトラもネコバイも子猫もいなくなっていた。

 小屋の奥で3匹の金色の蝶がひらひらと飛んでいた。蝶は小屋の天井まで飛んでいくとやがて消えた。消えた......彼らは消えてしまった。おそらくもうこの世界にいないのであろう。



 アウグスが小屋から出てみると、無数の"カボチャ頭"の頭はすべて頭蓋骨に戻っていた。いや、1つだけ小さなカボチャがあって......おそらくミチザネが頭をなでてあげたカボチャであろう。


 その小さなカボチャは、顔の中の蝋燭に火を灯すと宙に浮かんだ。そしてアウグスを見ると頭を下げた。

 アウグスは最初、意味がわからないようであったが、ふとこの小さなカボチャは自分に乗れと言っているんだと理解した。

 アウグスがぴょんと乗ると、小さなカボチャは夜の森をプカリプカリとゆっくり移動していった。

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