24話目、氷の街その2

 住民が凍り付いてしまった街、ダイヤノースに俺たちは戻ってきた。さて、妖精を探そう。妖精のメガネをかけて街を隅々まで歩き回る。どこにいるだろうか?

 住宅街を歩いていると、ようやく見つけた。手のひらサイズの美しい少女で、体全体的が青く、背中に透き通った羽がある。


 妖精は道の真ん中をふらふらと飛んでいたのだが、なにか気になる物でもあったのか、誰かの家に窓から入って行ってしまった。


 俺は少しためらったが、マールたちに妖精が家の中に入ってしまったと説明し、意を決して他人の家に勝手に入る。玄関のカギは開いていた。どうやら中に人がいるようだ。居るとしても凍っているだろうけど。


 実はゲームの時も勝手に他人の家に入ることはできた。しかも勝手に引き出しを開けてアイテムを取ったりもできた。ゲームの時はなんとも思わなかったが、こうして現実になると違和感がかなりある。


 家には勝手に入ってしまったが、さすがに引き出しを開ける勇気まではない。普通に犯罪だしな。大したアイテムもないし。とりあえず家の中を探すか。


 家の中を歩き回るが見当たらない。奥の部屋だろうか? そう思い扉を開ける。すると、若い女性が着替えていた。俺はとっさに謝り、扉をしめようとした。


「すみませ――あ、居た!」


 扉を閉めようとしたとき、着替えている女性の奥に妖精の姿が見えた。それを聞きマールが後ろから扉の先をのぞき込む。


「やっと見つけたのか。……おい、お前は女性の裸を探していたのか?」

「違う、違う。本当に妖精いるんだって」

「ほーう?」


 マールが低い声で言う。め、めっちゃ怒ってる。


 それにしても運が悪い。なんでちょうど女性が着替えている部屋に妖精が入り込んでいるんだ。そこへサキさんもやってくる。


「こら、勝手に女性の裸を見ちゃだめよ。見たいなら私が代わりに見せてあげるから」

「サキさんも見せない!」


 サキさんとマールがそんな言い合いをしている間に、妖精を見失ってしまった。慌てて当たりを見渡すが見つからない。どこだ!?


 そこで、急に誰かに服を引っ張られた気がした。引っ張られた方を見ると、妖精がポケットをつかんでいる。俺が妖精のメガネをかけるとき、外しておいた氷の指輪が入っているポケットだ。


 アクセサリーは一度に一つしか装備できない。いや、装備するだけならできるが、二つ以上装備すると効果を発揮しなくなるのだ。理由は分からない。ゲームの時も一つしか装備できなかったし。


 氷の指輪――

 装備すると氷の下級魔法、アイスボルトが使えるようになる便利なアクセサリーだ。アイスボルトは発動が早く、使い勝手が良いのでよく愛用している。


 指輪をポケットから取り出し、妖精に見せる。


「これが欲しいのか?」


 妖精は大きくうなずいた。


「これをあげるから、ついてこないか?」


 妖精は、再び大きくうなずいた。

 

 氷の指輪は愛用している装備ではあるが、それほどレアな物ってわけでもない。俺は指輪を妖精に渡すことにした。




 俺は指輪を大切そうに抱きしめる妖精を肩に乗せ、氷の女王がいる近くの山に移動する。早く住人たちを元に戻してもらわないとな。氷の女王のいる場所に近づくと、ものすごい暴風と雪が吹き付けてくる。一歩一歩少しずつ確実に近づく。


「氷の女王様! 怒りを鎮めてください!! あなたの大切な妖精を連れてきました!」


 俺が大きな声で呼びかけると、吹き荒れていた雪と風が収まっていく。そして、目の前に背が高く、人間離れした美しい女性が現れる。


「おお、わらわの愛しき子よ。無事であったか」


 俺の肩に座っていた妖精が氷の女王の元へ行く。そして何やら話しているようだ。残念ながら妖精のメガネは姿は見えるが声は聞こえない。何を言っているんだろう?


「ほう、そうか。ふむふむ」


 話し終わったのか、氷の女王がこちらを向く。


「どうやら世話になったようだな。なにかお礼をしよう」

「あの、この近くの街の住人たちが凍り付いてしまっています。元に戻していただけませんか?」

「ん? おお、そうか。悪い事をしたな。戻してやろう」


 氷の女王が腕を振るう。何かが起こったようには見えないが、これで多分住民たちは元に戻ったのだろう。ペンギーはちゃんと倒せただろうか? 何はともあれこれで解決だな。


「ありがとうございます。では我々はこれで」

「待て」


 俺たちが帰ろうとすると、氷の女王に呼び止められた。なんだろう? ゲームだとこんなことはなかったような気がするが。


「住人が凍ってしまったのはわらわのミスだ。お礼にはならんだろう」

「いえ、そんなことは……」

「遠慮などいらぬ。こっちにこい」

「え? は、はい」


 氷の女王に近づくと、背の高い女王に上から覆いかぶされるように抱きしめられる。な、なんだ?


 そのあと少し離れ、額にキスをされた。すると、一瞬体中を寒気が走る。そして、魔力が俺の体からあふれ出す。


「な、なにをしたんです!?」

「祝福だ」

「祝福?」

「わらわの力を少し授けた。人間には少々過ぎた力だが、上手く使え」


 言うだけ言って、女王は妖精と共に消えてしまった。なんなんだ? こんなイベントはFQにはなかったはずだが。


 どうしてゲームの時と違うんだ? 妖精に指輪を渡したからか? それともペンギーを崖に縛り付けたから? あるいは俺のもっと前の行動が何らかの影響を与えた可能性もある。


 バタフライ効果――

 小さな蝶の羽ばたきが、時に大きな竜巻になる。


 原因が小さな蝶の羽ばたきのようなものだった可能性も考えると、いくら考えてもわからない、か。


 とにかく、俺は女王の祝福という謎の力を手に入れたらしい。後で試してみるか。


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