白と黒の大鷲  6

 竹林に降りた俺達は、アパートに帰る前にスーパーへ寄った。晩ごはんの買い出しだ。


 アパートに着いた頃には、夜の8時を過ぎてしまっていた。


「男手があると楽だわー。普段竜達いないから、大根とか牛乳とか一度に買うの躊躇しちゃうんだよねー」


「柊里ちゃん主婦みたいだね」


 玲也と蒼馬の顔に涙の跡はもう見えない。


 空を飛んでいる最中に拭ったのか少し目元が赤いが、表情に暗いものは見えなかった。


「ここ来る前は1人暮らしみたいなもんだったから、料理は任せてね。あ、袋そこ置いといて」


 俺達がスーパーの袋を運んでいる間に、柊里は先に手を洗い台所でテキパキと準備を進めていく。


「5人分となるといっぱい作んなきゃだね。大変だー!」


 そう言いながらも柊里はどこか嬉しそうだ。


 しかし食材の量が多いな。


「手伝うよ」


「あ、僕も」


 俺と蒼馬が手伝いを申し出る。


「オッケー助かるー。じゃあ、あれとこれと……」



 一分後


「竜……待っててもらっていいよ?」


 クビを言い渡された。


 トボトボ心咲と玲也の待つリビングへ向かう。


「お帰り足手まとい」


「あ、あれッス。キッチン3人じゃ狭いんスよ、きっと…」


 心咲の心無い言葉と、玲也の目を反らした気遣いに迎えられた。


 気を紛らわす為にも話を振る。


「見てて思ったけど、蒼馬って料理上手いのな」


「ソウは母さんに可愛がられていた時期が長いので、家事の手伝いは一通りさせられたらしいッス」


「ん?じゃあお前はそうゆう時は何してたんだ?」


 心咲が聞くと、


「俺は閉め出されてたことが多かったんで、近くの林とかで飛んだりしてましたね」


「自然が身近にあったんだ。そこそこ田舎だったの?」


「そうッスね。田舎じゃなかったら子供を閉め出すなんてこと、されなかったと思いまス」


 玲也曰く、虐待している事が外にバレないように監禁するケースが多いらしい。つまり、人が少ないので、母親の外部に対する警戒意識が薄かったと。

 なぜ詳しいのか聞くと、自分が何をされているのか一時期調べていたのだとか。


「わかるわー!俺もむかし幻獣種についてめっちゃ調べてたもん。図書館とか通ってさ」


「懐かしいな。幻獣種について調べた時は神話から古いニュースまで読み漁ったな」


「ドラゴンだと神話にすら登場するんすね……」


「まぁ、殆どが討伐される話だったんだけどな」


「それ言っちゃだめー」



●●●●



「……すごい……。男の子って食欲無限なんだ……」


 柊里は空っぽになった大皿3枚を見つめて、頬に手を当てていた。


「洗うから持ってくよー」


「あぁっ!」


 そんな柊里を無視して目の前から皿を持っていく。


「あんまりほっとくと乾いて落ちにくくなるでしょーが」


「うぅ……あ、待って!あたし洗う!」


「はいはい」


 柊里は、残りのお皿を持ってきて俺を押しのけると、流しの正面を陣取った。


 ふと、流しに重なった皿を見て呟く。


「もうそろそろ食洗機必要じゃない?」


「えー」


 柊里は不満げだ。俺にもたれ掛かって、頭をグリグリ押し付けてくる。髪の毛がくすぐったい


「あ、くしゃみ出そう」


「っ!」


 柊里はサッと離れた。


「……ねぇ、竜達ってさ。しょっちゅうこーやって誰か拾ってきたりするの?」


「いや?この部屋は中学入ってから使ってるけど、柊里が来るまではナオしか入ってないね」


「ふーん」


 この話それ以上続かず、水がステンレスを叩く音が響く。


「……てゆうかさ、こんな量の食器よくあったね。出した時殆どが箱に入ってたし」


「全部貰い物のやつだよ。今柊里が洗ってるやつなんか、かなり値がつくらしいぞ」


「え、そうなの!?あたし庶民の味肉じゃがのせちゃったよ!?」


 食器を洗うスピードがゆっくりになった。面白いな。


「柊里達が来なきゃずっと眠ってただろうから、肉じゃがでも喜んでるだろうよ」


「むーそうかなー。はいっ、竜。慎重にね」


「わかったわかった。おっとっと」


「うぎゃー!!」


「冗談だよ」


「もーっ!」

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