白と黒の大鷲  4

「……お母さんが…先回りしてました…」


「あちゃー」


「まじかい」


「それはだるいな…。ところで今インターホンにでたのはその母親だったんだろう?」


「は、はい」


「なら降りてくるんじゃないか?」


「「!」」


 言われて俺も気づいた。もうすぐ登場するであろうその母親は、話に聞くだけでも性格がキツそうだとわかる。


「それここにいるとやばいんじゃね?」


「そうだよ、逃げよう!」


 柊里は手を引こうとするが、2人は動かなかった。


「……話してみたいです。お母さんとお父さんと。お父さんは今までのことをたぶん知らないから、全部話してみます」


「俺はつっぱりまス。母さんを。どうなるかは分からないけど」


 玲也と蒼馬の目を見ると決意のようなものを感じられた。腹を括ったようだ。


「そうか」


「なら俺達は他人のふりして、離れて聴いてみようかな。話し終わるまで見届けてもいい?」


「醜いものを見せると思いますが、お願いします」


「おなしゃす」


「ん。存分にやれよ」


 最後に心咲が鼓舞する。俺達は2人から少し離れた場所で固まった。


 しばらく待っているとエントランスの自動ドアが開き、辺りにハイヒールの音が響く。


 母親の登場だ。


 顔は玲也と蒼馬に似て美人だが、予想通りに性格のキツそうな顔つきをしていた。きれいに整えられた眉がその印象をより強固にしていく。


「来るのにかなり時間かかってね?」


「化粧してたんだろ。しかしハイヒールとは……」


「逃げられるとか考え無かったんかね」


「そこも含めて高慢さの表れなのかもな。だが…肝心の父親が見当たらないな」


「まずいよね。どうする、助ける?」


 柊里が不安そうに心咲の袖を引く。


「様子を見よう。2人とも元より母親に一言言うつもりだっただろう」


「わかった」


 母親は、ハイヒールをカツカツ鳴らし玲也と蒼馬に近づいていく。


 そして、


「ソウ!あんたレイを勝手に連れ出して何してんのよ!」


 エントランスの壁や天井に反響する怒号に、3人揃って首をすくめた。


「ご近所さんとか親戚中に電話して探したんだからね!?なに恥かかしてくれてんのよ!」


「おーコワ」


「おい竜、『今恥かいてますよ』って伝えてこい」


「いやそれ絶対死ぬだろ。やだぞ」


 俺達が冗談言っている間に、母親は蒼馬に詰め寄りバッっと手を構えた。玲也が慌てて蒼馬の前に出る。


「ちげぇよ母さん!家を出ようって言ったのは俺だ!」


「いいのよ、あなたは悪く無いわ」


「クソッ、あぁもう話し聞けよ!なんで俺達が逃げたのかわかってんのか!?俺にやったみたいにソウにひどい扱いするからだよ!」


「あの時のあたしは間違っていたの」


「今も十分間違ってんだって!」


 取り付く島もない、と言ったところか。


「お前の親よりひどいな」


「あーどうだろ。ウチはウチで話し聞かないからなぁ……。あれとの違いなんて世間の意思か本人の意思かくらいだよ。どちらにせよ子供からすればいい迷惑だわな。


……柊里?」


 なんだか静かになった柊里を見れば、少し居心地が悪そうにしていた。


「どした?」


「いや……あたしの知らない話だなーと……」


 話に入れず寂しかったらしい。


「出来れば一生会わせたくないかなー。あれらは俺達と正反対の世界に生きている。少し話しただけで頭が痛くなってくるぞ」


「そんなにか」


 心咲は呆れたように笑った。


「…だし、いつもいつもひどい目に会わせたくせに!」


 背後では、玲也が母親への不満をぶつけていた。意識から外していた間に随分ヒートアップしている。


「母さんなんて大っ嫌いだ!」


「っ、僕も……嫌い、嫌いだ!」


「なんだって!?」


 新しい声の発生源に目を向ける。そこには、仕事帰りだろうか、スーツを着た男性が立っていた。


「「父さん!」」


 玲也と蒼馬は助けを求めて駆け寄る。


 だが、


「お前達家出したと聞いたが、まさか母さんにそんなことを言うなんて……。

 親に向かってなんてことを言うんだ!」

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