山中の集い  1

 新月の暗い夜だったので、俺と心咲は人目を気にせず夜空を飛んでいた。


「こうやって無意味に散歩するのって久々じゃね?」


『そうだな。高校受験で一時期自由な時間とれなかったしな。主にお前が』


 風の吹きすさぶ音の中でも、特殊な音を放てる心咲の声はすぐ側で話しているかのように聞こえている。


「いやー、あん時はキツかった。食事の時間までタイマー使って管理されたからね。何回窓蹴破って逃げ出してやろうと思ったか」


『もしそれをやっていたらお前は今頃、お前の両親に病院に連れて行かれていたかもしれないな』


「私達が育て方を間違えたはずがない!この子がおかしくなったんです!ってか。ありうるから笑えねー」


 家庭でのストレスを吐き出しながら、住宅街を離れて遠方に見える山々を目指す。


 今向かっている方角は、過去にあまり行ったことのない場所だった。空をから地上を見下ろすと思わぬ発見がある。土日を控えた今日は時間を気にせず飛ぶことができるので、寄り道が目的の散歩だった。




●●●●




 なんだあれ。


 山の木の輪郭が見えるほど近づいた時、人工の光が見えた。


 興味を惹かれ、俺と心咲は明かりへ向かうと、それは工場跡のようだ。錆びついたパイプや機材が点在していて、工場としては使われていないように見える。しかし、今もエンジンがついたままの車が何台もとまっていた。


 ではなぜこんな山奥に人がいるのだろう。獣に襲われる可能性が高いにもかかわらずだ。ここに集まっている人間が、わざわざ人目を避けるような場所を選んだ理由、それは当然…


「なーんか後ろめたいことでもやってんのかなー?」


 と、なる訳だ。


『見に行くか?』


「そりゃね!面白そうだし」


 体を人型に近づけた俺達は降下すると、木に一度降りてから物音立てずに建物へ飛び移る。

 光の漏れる窓から中を覗き込んだ俺達は、その光景に目を見開いた。


 檻に入れられた獣人や動物、鎖に繋がれた少女達だった。


「売春…ではなさそうだね?」


「鎖に繋がれているから、本人達の意思は無さそうだな」


「なら、人身売買ってとこか…」


 6人の男が端を持つ鎖に繋がれた少女達は、並んで立たされていて、老若入り混じった男、複数人が物色するように眺めている。


「助けてみない?」


「いや…止めといた方がいいんじゃないか?お前正義感強いタイプじゃないだろ」


 心咲はあまり乗り気ではないらしい。


 しばらく観察していると、少女の一人が比較的若い男に引き渡された。男は震えながら歩く少女の髪を掴むと、無理やり顔を上げさせて威圧するように覗き込む。


「…胸糞悪い。仕留めてもいいか?」


 思わず声が低くなった俺の機嫌を察したのか、心咲は注意をして来た。


「…恐らくだが、これはかなり規模の大きい犯罪だ。男達の身なりがいいから、情報をそういった人間に回す手段があるんだろうし、それに見てみろ。あの男」


 心咲が指した男、鎖を持つ男のポケットからはみ出ているのは…


「え、銃?」


「あぁ。あんなものがそこらの小悪党の手に入るような物だと思うか?今後も関わる事になるかもしれないんだ。今この場で済む話じゃない。どうする、やるか?」


「俺がやる、って言ったらお前は手伝ってくれる?」


「お前だけにやらせたら、大惨事になる未来しか見えないな」


「否定できないね。よし、んじゃ行きますか」


「顔もちゃんと変身させてけよ」


 俺達は窓ガラスを叩き割って中へ飛び込んだ。




●●●●




 突然襲ったガラスの割れる音に、男達は慌てて頭上を見回す。そのスキに着地した竜と心咲は、部屋の壁に沿って左右に散ると回り込み、男達を挟み撃ちにする。


 そこからは一方的な蹂躙だった。


 竜は肘から先を大きなドラゴンの爪に変身させて、重い一撃で引裂き、潰し、時には爆炎を手から放ち相手を燃やし、吹き飛ばしていく。


 一方心咲は、変身すると体の大きさが変わるのを利用し、手足を伸び縮みさせて素早く男達を叩き伏せていく。また、離れた場所にいる相手には手頃な死体の頭をもぎ、投擲するという大技も見せた。


 人殺しの経験のある二人が振るう力には迷いが無い。あっと言う間に制圧すると、生き残った男達は3人だけになっていた。身なりを見た心咲が情報を得るために残しておいたのだ。


「ふぅ。お前が生かしたこの3人どーすんの、拷問?」


 「ひぃ」と情けない声を上げた男達は、膝と肩を砕かれている体を捩って、竜と心咲から遠ざかろうとする。


「するにしてもこの子達には見せない方がいいだろ。手錠壊すの手伝ってくれ」


 心咲は手錠の輪の内側に指を引っ掛けて左右に引っ張り、少女達の細い手足が傷つかないように壊していく。


 竜は男達を出口から最も遠い壁に叩きつけると、少女達の手錠の破壊を手伝った。

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