第43話 デート?

「ご馳走様です、すごく美味しかったです!」



 満足だ、もうこれ以上食べられないというくらいサンドイッチを食べた。

 そして最高に美味しかった。



「満足そうでなにより。じゃあ俺は用事があるから後は2人でごゆっくり」



 そう言うとヒラヒラと手を振ってロードリック様は行ってしまった。

 ロードリック様を見送りエドワード様と2人きり。

 なんだかちょっと気まずい。



「それじゃあ行こうか」



 私の不安を他所にエドワード様はしっかりとエスコートしてくれる。

 疲れていないかとか、休もうかとか、時折気も使ってくれた。

 男の人って皆こんな感じなんだろうか……



 花屋の前まで来て驚いた。

 レディローズの一件で赤い薔薇が売れるらしく、溢れるように売られている。

 お菓子屋でも薔薇の形をしたチョコやクッキーが売られているではないか。

 便乗商法すごい……

 エドワード様も同じ事を思ったのか若干苦笑していた。



「何か欲しいものはあった?」



 一通り気持ちの赴くままにお店を見て回り、現在カフェで休憩中だ。



「そう、ですね……」



 これといって欲しいものというのはないのだが、どうしても必要なものはある。



「ええと……その、石鹸とかシャンプーとか、化粧品類が欲しいんです」



 男の人にこういう話をするのはちょっと間違っている気がするが今頼れる人はエドワード様しかいないという現実。



「ああ、それならいい店がある。ここを出たら行こう」



 さらりと。

 さらりとね!

 そうか、そうだよね、女性物を扱うお店の一つや二つモテる男は知ってるよね!

 うんうん、と妙に納得していると頼んだ紅茶が運ばれてきた。



「ユメコ、言っておくけど想像してる味とは違うよ」



 カフェに入り紅茶を飲んでみたいと言うと「正直勧めない」と言われてしまった。

 が、せっかくカフェにきたので頼んでみた。

 コーヒーやハーブティーもメニューにはあったがやはり異世界紅茶を飲んでみたいのである。



「いただきます」



 さてどんな味かな、と思い1口。

 あれ?おかしいな、味がしない。

 もう1口飲んで……カップを置いてしまった。

 そういえば何か足りないと思ったが香りもしないではないか。

 正直に、不味い。



「ユメコとジュリーのいれる紅茶は別格だよ。もう他の紅茶は飲みたくなくなる」



 そう言って微笑みながらハーブティーを口にするエドワード様。



「恐れ入ります……」



 角砂糖を2つ入れて思い切って紅茶を飲む。

 うん、これならまあ飲めるかな。

 ケーキもどう?と言われたが……紅茶が微妙なので食べる気になれない。

 ケーキをテイクアウトしてジュリーの紅茶で食べたいなと言えば、その方がいいね、と笑ってくれた。

 コーヒーも頼んでみたい気持ちになったが……やめておこう。




 ■□▪▫■□▫▪




「お似合いですよ」

「こちらの色もいかがです?」



 今、私は混乱している。



 エドワード様に連れてこられた所はそれはそれはとても立派な美術館のような建物。

 中に入れば美しい女性店員さん達に迎えられ、広い個室へと案内される。

 エドワード様が店員さん達に何か言うと、優美な笑顔で私をドレッサーの前に座るよう勧めてくれた。

 動揺のあまりエドワード様を見れば「隣室で待ってるからゆっくり選んで」と言われ笑顔で去っていかれた。



 そして現在流されるまま私は店員さん達にあれこれと化粧をされ鏡の前で硬直しているのだ。



「お気に召しませんか?」



 はっと我に返り鏡を見る。

 人間て化粧でかなり変わるよね!もう別人ね!といった変貌ぶりだ。

 正直ケバい。



「ええと、あの、もう少しナチュラルな方が……」


「かしこまりました」



 嫌な顔ひとつせずにメイクを落として直してくれる。

 しばらくして再び出来上がったメイクは透明感も艶もあり何よりとても軽い。

 化粧水が良いのか美容液がいいのかメイクが良いのかわからないが肌もふっくらしているではないか。

 唇なんて雑誌広告のように瑞々しい。



「すごい……」


「お気に召しましたか?」


「はいっ!」



 化粧品を一通り揃えてもらい、その他のシャンプーやら石鹸やらもお勧めのものを用意してもらう。

 サンプルにどうぞと香水まで数種類頂いてしまった。

 商品は家まで届けてくれるという。

 隣室に行ったエドワード様が戻ってくると「綺麗だよ」と言って優しく微笑んでくれた。

 恥ずかしさと店員さんの生暖かい視線、そしてセレブな場所に慣れない場違い感でもうどうしたらいいのかわからず兎に角早くその場を離れたくて仕方がなかった。



「他にいるものはない?」



「いえ、もう大丈夫です。本当に全部買ってもらっちゃって……すみません、ありがとうございます」



 深々とお礼をして顔を上げるとじっと見つめられる。



「遠慮なんていらないのに」



 なんだか少し寂しそうな、そんな顔で言われてしまった。



「本当に、もう充分です」



 これ以上何かなんてムリムリムリムリ、だって申し訳ないでしょ!かなりたくさん買って貰っちゃったし値段わかんないけど絶対高いよね……こういう庶民的な事を考えるあたりエドワード様とはつり合わないよな、なんて思ってしまう。



「それじゃあ……ちょっと早いけどいいレストランがあるからどうだろう。遅くなるとジュリーに怒られるしね」



 苦笑するエドワード様。

 ジュリーね、そうね、夜には帰れと言われてるしあんまり遅くなるとネチネチネチネチと怒りそうよね。

 想像したら思わず笑ってしまった。



「はい、行きましょう!」



 少し薄暗くなっている。

 もう夕方だ。

 あちこち歩き回ってそこそこお腹が空いていた私にとってはナイスな提案だった。

 決して食い意地がはっているわけではない。

 どんなレストランかなー、なんて思いながら楽しみに足を踏み出した。

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