第40話 男達の本音2

「リック、お前こそどうなんだ?」


「どうってー?」



 アツカン片手にリックに尋ねる。

 ニホンシュを温かくしたものも本当に美味い。

 これはもういくらでも呑める。



「見合い相手は正直どうだったんだ?」



「んー、さっきジュリーにも話してたんだけど、もっとこう……」


「こう?」


「俺的にはボーンとしててほしいわけよ、胸も体も」


「あたしその気持ちわかるーう!!」



 ジュリーのそのキャラ設定はなんなんだろう……



「だよなー!細っこい女の身体ってなーんかつまんねーんだよ、子供みたいで」


「女は抱き心地よねー!」



 細っこい……いけない、ユメコの身体を思い浮かべてしまう。



「お前、今ユメコの身体妄想してたろ……」



 リックに言われ口に含んだばかりのアツカンを吹き出してむせてしまった。

 図星すぎる。



「ヤダもう!エドワード様のエッチ!!」

「エッチ!!」


「うるさい!今はリックの好みの話だろう!」



「そうそうそう!抱いた時に全体的にムチっとして柔らかいと燃えるんだよなー、俺」



 満面の笑みで語り続けるリックに尋ねる。



「見合い相手はタイプではなかったのか?」



「まーなー、一般的な体型だったな……もう少し太っててくれたらなぁ……俺好みの娘ってあんましいないんだよなー」



 はぁー、と奥深いため息をついている。



「しかも見合い途中で昨日の事件だろ?絶対また後日改めてやり直し、めんどくさー」



「うわっ、あなた!そんな風に言ったら相手の子かわいそうよ!性格はどうだったのよ、性格は!」



「そんな1回会っただけじゃわかんねーよ、ユメコくらい単純ならわかりやすいのになー」



「「単純とはなんだ」」



 ジュリーとハモってしまった。



「お、おう……すまん……」



 リックが冷や汗をかいている。



「エディお前さぁ……」



 ジュリーがアツカンを追加しながら話しかけてくる。



「ユメコの何が気に入ったのよ?きっかけは何だったわけ?」


「きっかけ……」



 ユメコの事は会ったその日から気になる存在だったが……きっかけというきっかけといえば、思い出すとちょっとばかり気恥ずかしい。



「食べてる姿が……」


「「食べてる姿?」」



「口いっぱいにサンドイッチを頬張る姿があまりにも可愛い過ぎて……」



 今思い出しても胸が苦しくなって悶絶しそうだ。



「あー……ユメコが賄い食ってるとこ見たんだな……」



 苦笑いのジュリー。



「えー、俺見た事なーい」



「あいつカウンター内の影でコソコソと大口開けて食うんだよ……あの身体のわりにけっこう大食いなんだなこれが」



「え、そうなの?俺よく食う子って好きー」


「なっ……!」



 思わずリックをキツい目で見てしまった。



「ちょっとそんな目で見ないでくれる!?別にユメコが好きとは言ってないでしょーが!!」



「ユメコが嫌いだっていうのかコラー!」

「なんでそんな発想に繋がるんだよ親バカ!いや、叔父バカ!!」


「リック、女はな、ハートだぞ」

「なんかさっきから言ってることめちゃくちゃじゃない!?」



 アツカンを一気に飲み干し再びグラスに注ぐジュリー。



「ねえ、ジュリーこそどうなのさ、いい人いるの?」



 おもむろにリックが尋ねる。



「んー?オレー?」



 グラスを置いてニヤリと笑う。



「いるわよー!可愛いカノジョ!!」



「「ええっ!?」」



「ちょっとなんなのあんた達!あたしだってオッサンだけどまだまだ48なんだからね!」



「「えええ!!」」



「ジュリー、どうやったらそんな若作りできるんだ?どう見ても30くらいだぞ」



「戻りたいわ30代……」



「どんな女性なんだ?」



「なかなか会えないのー、1年に数回の逢瀬よ」



「それってまさか……浮――」

「ぶーっ!!浮気じゃありまっせーん!遠距離恋愛ってやつでーす」



「なんだ、そういう事か」



「愛しのハニーは劇団の踊り子ちゃんなの。各地で演目披露して歩いてるからなかなか王都には帰ってこられないのよねー」



「知らなかった……」



「そーいやユメコにも話してないわー」



 はあ、と深いため息をついたジュリー。



「まぁ、寂しくなる時もあるけどな、会える時はしっかりと心も身体も愛し合うから平気なのよ、俺は」



 優しく穏やかな表情になるジュリー。

 彼のこんな顔は初めて見る。



「結婚はわからんが、恋愛はいいもんだぞ、若者たちー!!恋せよ青年!」



 そう言って立ち上がり再びカウンターの奥へ消えていくジュリー。



「何しに行ったんだ?また酒か?」

「さあ……」



 すぐにニコニコしながら戻ってきたジュリーの手には――



「スルメー!!!」

「スルメ?」



「イカを干したヤツなんだなー、熱燗にあうのよコレまた」



 ハサミで細く切って手渡してくる。



「ほら、口に入れてひたすらに噛んでみろ、その後熱燗をクイッといけ、クイッと」



 言われた通りにスルメを噛み続ける。

 噛んだ分だけ味が出てきて美味い。

 リックも同じ事を思ったのだろう、黙々と噛み続けている。



「はい、そこで熱燗入れる!!」



 1口含めば――

「「美味い……」」



「もー、君達何歳なのー!この組み合わせを美味いとわかるだなんてオッサンくさー!!」



「オッサンにオッサンとは言われたくないんだけどー!」

「同感だ」



「まあひどい言われようだわ!お前らはアレだ、スルメだ」



「は?」



「薄っぺらに見えるけど噛めば噛むほどしっかり味がでる」



「薄っぺらって失礼だな」



「一応少しは褒めてるんだぞ。そして女は燗だ。熱燗でもぬる燗でも最後には理性が飛ぶ程に酔わされるってね」



「なるほど」



「あー早く愛しのハニーに会いたいわー!」



 理性が飛ぶ程に……確かにその通りだな。



「さーてそろそろお開きにするかー?」


「そうだな」



 ジュリーの一声に頷きリックを見る。



「お開きだと?」



 ……リックの、目が据わっていた。

 ドバドバとニホンシュを乱暴に注ぎ始める。



「呑み足りない!付き合え!」



 ジュリーが困ったように笑う。



「へいへい、ロードリック様、仰せのままに」


「仕方ないな」



 正直これ以上呑めば悪酔いするのが目に見えている……が、そんな夜があってもいいかもしれない。

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