第37話 王妃様からの提案
声をかけて少しすると王宮の使用人さん達にお風呂に入れられ着替えさせられた。
お風呂は1人でのんびり入りたいのにあれやこれやと手伝われ……は、恥ずかしい!しかも用意された着替えはヒラヒラとレースが沢山あしらわれたボリュームあるパステルピンクのワンピース……うん、全然似合っていない。
ひと通り身支度が整うと別の部屋に案内される。
広くて綺麗な明るい部屋だ。
重厚なソファが三脚、長いテーブルを囲うように置かれている。
既にジュリーはそこに座っていた。
「お前……七五三みたいだな」
余計なお世話である。
ジュリーと一緒にソファで待っていると扉がノックされる。
入ってきたのは王妃様とキャタモール様だった。
私もジュリーも咄嗟に立ち上がり姿勢を正す。
チラと横目にジュリーを見るとほんのり顔が紅い……どんだけ王妃様好きなんだよ……
「どうぞ座ってちょうだい」
にこやかに席を勧めてくれる王妃様。
全員が着席すると王妃様はおもむろに話し始めた。
「ユメコさん、今回は民のために貴女の力を貸してくれてどうもありがとう。キャタモール公から詳しく聞いたのよ。身体はもう大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
庶民の心配をしてくれるなんて優しいなあ王妃様。
「マスターもどうもありがとう。ジュリー、そう呼んでもよいかしら?」
「も、もちろんです。王妃様」
素で嬉しそうなジュリー。本当好きだな……
「ゆっくりお話しましょう。今日は1日あけてあるの。身体に良いと聞いてハーブティーを用意してみたのよ。良ければどうぞ飲んでみてね」
出された赤いハーブティーはふわっと酸味のある香りがする。
「いただきます」
うん、多分ハイビスカスティー!この世界にもハーブティーあるんだなあ。
「ユメコさん、今回も本当にありがとうございました。おかげで我々隊士達も最悪の事態を避けることが出来ました」
「え!いえ、とんでもないです」
キャタモール様にそんな事言われるとなんだかひれ伏したくなるのはなぜだろう……
てか自分のやりたいようにやりたい事勝手にやって突っ走っただけだからな……恐縮です。
「キャタモール公から貴女と精霊王の話を聞いたわ。神殿の騒ぎは耳にはいってるかしら?」
「あ、はい、ジュリーから少しですが」
そう、と軽く頷く王妃様。
私を真っ直ぐに見つめ真剣な表情になる。
「ユメコさん、貴女のこれからの事を話さなければならないわ」
「これから……」
ドキっとした。
ようやくこの世界で生きていくと決めたばかりなのに次はこれからの事か……
「ええ。まず初めに希望を聞かせてちょうだい。あなたはこの世界でどう生活していきたいのかしら?」
「私は……」
両膝に置いた自分の手元を見て一呼吸置いてから王妃様とキャタモール様を見上げる。
「私は、この世界で今まで通りティールームで働きたいです。お客様の為に紅茶をいれて……飲んでくれた人が美味しいって笑顔になってくれるその瞬間が大好きなんです」
「そう言うと思ったわ」
ふわっと優しく微笑まれる王妃様。
「ねえ、ユメコさん、王宮のティールームで働いてみる気はないかしら?」
嬉しそうに身を乗り出しながら言われる。
「王宮……ですか?」
「ええ。まあ王宮といっても、ほぼ騎士団専用みたいな感じになるかもしれないのだけれど」
チラとキャタモール様を見る王妃様。
キャタモール様がにこやかに話される。
「騎士団の日々の訓練や討伐で怪我人が出るのはいつもの事なんですが、ユメコさんの紅茶が常に飲めたら隊士達は助かるだろうなと」
「もちろん、常に騎士団専用って訳ではなくて、王宮に務めている人達、そして私もティールームを使わせてもらいたいなと思っているのよ。まあ……正直な話貴女の紅茶が飲みたいだけなんだけど。それとスコーンも」
うふふと微笑み頬を桃色に染めながら口元に手を持っていく王妃様が可愛すぎる……ジュリー今、萌えてるんだろうなあ。
「必要なものはこちらで用意するし、貴女が働きやすいように王宮に住むことも可能よ。でもそれだとジュリーが寂しいかしら?」
チラとジュリーを見る王妃様。
少し驚いた表情になるジュリーは嬉しそうに王妃様を見つめる。
「ユメコのしたいようにしてやってください。僕はユメコの保護者ではありますが、うちのティールームに縛り付けるつもりはありません」
そう言ってから私の方をみてくるジュリー。
「ユメコ、お前の好きにしろ。せっかくこの世界に留まったんだから。人生楽しまなきゃ損だぞ」
いつものニカッとしたジュリーの笑顔がなぜだろう、眩しい。
「………うん」
人生楽しむ、か。
「焦って答えを出す必要はないわ。ただ急かすつもりはないのだけど神殿がちょっと厄介で」
苦笑いの王妃様。
「大神官がレディ・ローズを探しているのよ」
「え……」
「まだ誰がレディ・ローズかは気づいていないわ。でももし貴女だと知られてしまったら……無理矢理にでも神殿に引き留め、住まわせようとするかもしれない。大神官は少し頭が堅いのよ、悪い人ではないのだけどとても信心深い人なの」
優しい眼差しで、少し申し訳なさそうな表情を含ませながら真っ直ぐに私を見つめてくる王妃様。
「貴女が王宮で働いてくれるならば、もしもの時私やキャタモール公が貴女を守ってあげられるわ」
きっと本気で私の事を心配し考えてくれているのだろう。
「王妃様、どうもありがとうございます」
深く頭を下げる。
ジュリーと一緒に働けなくなるのは寂しいけど別に一生会えなくなるわけではない。
神殿に閉じ込められるのはごめんだ。
安全な職場があるなら今はそこで働くのがきっと1番良いのだろう。
うん、思い立ったら吉日だ!
「ここで、働かせてください」
王妃様の真摯な瞳を真っ直ぐに見据えた。
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