第13話 鳥の乙女と植物の乙女

 その有様は、まるで神話に登場する怪物と怪物が睨み合いついに激突する。そんな緊迫した状況を、この山中に再現しているようであった。


 両腕が翼の少女と、巨大球根内部に幼女を宿す魔獣。怪物染みた両者が睨み合い、己の欲望を満たそうとしている。


 一方は翼の乙女。眼前の魔獣に明確な殺意を持って、その身を滅ぼすことを目的にしていた。


 もう一方は植物の乙女。翼の乙女に子供染みた好奇心を持って、自らの操る身体の一部とするため、その身を捕らえようとしていた。

 

 双方、やる気はMAX。


 互いに引く気はない。


 そんな状況が動き出す瞬間が、一方が攻勢に出たことにより訪れる。


 先手を取ったのは両腕に翼を持つ側。すなわち聖少女アムルであった。


 アムルにしてみれば、自分に好奇心を向ける魔獣に対し、お行儀よく相手をしてやる………そんな理由は持ち併せていないのである。


 (期待はずれで悪いけど、私は魔法少女じゃなく聖少女よ!)


 如何に魔獣の核となっている球根内部の少女が、「魔法少女だ! 捕まえちゃおう!」と、キラキラと瞳を輝かせて自分を見詰めていようとも。


 如何にこの魔獣が誕生して間もない存在だとしても。


 アムルには、その存在を認める気は絶無であった。


 故に、蔦の魔獣に行動する間を与えずに、先制攻撃へと打って出る。


 翼の乙女フォームであるアムルは、一旦は魔獣本体に対して急降下するも、その途中で翼を羽搏かせ急上昇へと移行する。


 (ここ! 裂風符!)


 その瞬間、裂空の術符を発動し、真空波と衝撃波による二重攻撃を敢行した。その目的は、魔獣の腕のごとき多数の蔦を切り飛ばすことであった。


 魔獣の周囲に真空の刃と衝撃波が入り乱れ、荒れ狂う!


 ビュオオッ!、ヒュオオオッ!と吹き荒れ、大量の蔦を切り飛ばすどころか、巨大球根本体をも揺らし、多数の切り傷を与える。


 下手な航空機爆撃を凌駕する威力である。その破滅的な威力を受け、蔦や付着根が弾け飛び、球茎の外皮が削り取られた。

 周囲に真っ赤な養液がパシャパシャッ、バシャリッと飛び散り、草木と大地に降り掛かって染め、大輪を咲す。


 (これでまずは相手の手数を減らす!)


 そんなアムルの思惑はほぼ成功。多数の触手が烈風符の威力によって切り飛ばされ、バラバラになって宙を飛ぶ。


 もし、そのようにして相手の手数を減らさずに、ただ真っ正直にアムルが突撃していれば、百を腕を持つ巨人相手に身一つで挑む格好になっていただろう。


 アムルという聖少女は、かなりの無茶をする質ではある。とはいえ、蔦の魔獣に無策で挑むほど脳筋でもない。


 それ故に、まずは戦略を練り、死合う相手の手数を削ぐ戦法に出たのである。


 オオオオオ………


 気孔から奇怪な叫び声らしき大音量を発し、前方へと倒れ込む巨大球根。


 (!? これはっ!)


 しかし、上向きになった球根の背部から、複数の蔦がズルルルルルルルッ………と大量に生じ、裂空符を使用した意味を無へと帰していく。

 球根本体の多数の傷も目に見えて回復していった。

 これにはアムルも、臍を噛む思いとなる。


 (!?)


 「大地からエナジーを吸収する!」


 とはいえ、すべてが無駄と終わったのではない。アムルは地下からのエナジーが巨大球根へと流れ込み、そのエナジーを使い、切り裂かれた本体と蔦を再生する一連の動きを捉えていた。


 「ならば!」


 アムルは、再び急降下し、巨大球根から地下に伸びる太い根への攻撃態勢に移る。


 「烈風符! 焦熱符!」


 焦熱符で大地と繋がる蔦を焼き払い、その後、巨大球根本体を雷霆で狙い撃つ態勢に移行するアムル。

 まず大地と繋がることで得ている回復能力を断ち切り、その後に本体の体力を削る作戦であった。

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