第37話 偽りの施設
工場の入り口。
ここに来るまでに妨害行為は皆無だった。工場内に兵力を集中させたと見るべきだろう。
工場の入り口には監視カメラが有った。クーカはカメラに向かって携帯電話をかざして何やら操作した。
(よし…… これで時間が稼げるっと……)
彼女は強力な赤外線を放射させて、監視カメラのCCD部品を飽和させたのだ。
こうすると自動回復するまで暫くは時間が稼げる。外国の強盗団が良く使う手口だ。
普段なら銃の形をしたアイテムを使っている。だが、今回は日本に持ち込む暇が無かった。
(確か…… この辺よね……)
彼女はエレベーターホールに辿り着いた。そして、ホールの隣に有る掃除用具などがある備品室に入り込んだ。
クーカは保安室で見せて貰ったビルの設計図を覚えていた。
五階にあると言う秘密エレベーターの入り口に行く気は無かった。敵が待ち構えているのは分かり切っているからだ。
(入るのに手間が掛かるのなら、壁に穴を開けてしまへば良いのよ……)
彼女はショートカットするつもりなのだ。別に友好的な訪問をしに来た訳では無い。真面目に敵の希望通りに動く必要も無いだろう。
背中に背負ったウサギのナップザックを降ろして中から四角い粘土のような物を取り出した。
(加減が難しいのよね……)
壁に粘土のような物を張り付けていく。映画やドラマでお馴染みのC4爆薬だ。自在に形を変えられるので、こういう作業には向いている爆弾だ。
(ん?)
爆薬を壁に張り付けていると、エレベーターの動作音が聞こえて来た。
(誰か降りて来る……)
いきなり監視カメラが使えなくなったので様子を見に来たのであろう。
「……」
仕掛け終わったクーカは爆弾を爆発させた。爆弾の爆風は動作していたエレベーターの安全装置を作動させ停止させてしまった。
(これで何人かは閉じ込める事が出来たっと……)
懐から降下用器具を取り出し、エレベーターのワイヤーに固定した。これを使って一気に降りるのだ。爆破音が響いた以上は、敵に何が起きたのかは伝わってしまったはずだ。
固定を確認するとクーカは中空に身を躍らせた。降下器具はゆっくりとだが彼女を静かに地下へと降ろしていく。
(地下には何人いるのかしら……)
降下しながらクーカは考えた。もっとも敵の数は彼女にとっては問題では無い。掛かってしまう時間の方が問題だった。だから、敵が増援を送り込んで来る前に決着をつけるつもりだった。
地下一階。
ここに大関光彦(おおぜきてるひこ)を始めとする魔轟教の一派が陣取っていた。地下には宗教施設であると言い訳する為に祭儀場が設けられていた。
一番奥に祭壇があって仏陀像を中心して簡易的な椅子と長い机が置かれている。
仏陀像をキリスト像に置き換えれば教会のような造りだ。もっとも、それは見せかけだけで仏陀像をずらすと、秘密の入り口が現れる仕組みになっていた。
エレベータの正面は広く取られていて、机をバリケード替わりに置いてあった。机の一つに簡易的な監視システムが作られている。
恐らくは鹿目から襲撃されると聞いて、慌てて設置されたに違いなかった。
その監視モニターを何人かの男が覗き込んでいた。
「くそっ…… 監視カメラはまだ復活しないのかっ!」
監視モニターがいきなりホワイトアウトした事に警備隊長は激怒していた。
「はい。 五階から二名向かわせました……」
モニター操作要員が無線機から耳を話して答えた。他の要員も銃などの点検をしていた。
「まさか、五階が襲撃されているんじゃないだろうな?」
警備は五階に三十名、地下一階に十名程配置されていた。いづれも元自衛隊員や元機動隊の猛者ばかりだ。
「五階からは誰も来ていないと言ってます……」
無線機からの返答を聞いた隊員のひとりが答えた。
五階が襲撃されたら階段とエレベーターを封鎖して、閉じ込めてしまう作戦だったのだ。
「小娘ひとりに何をもたついてやがるんだ…… 外の連中とは誰とも連絡付かないのか?」
「はい、接近して来たとの連絡が在ってからは応答がありません……」
まさか、全滅してるとは想像も出来無いようだった。
「クーカがどこにいるのか分からないとガスが使えないじゃないか!」
銃撃戦が得意な事は知っているので、何等かガスを使って静かにさせる作戦のようだ。クーカの戦闘能力をある程度は知っているのだろう。
「今、確認させています……」
隊員たちがそれぞれに無線機で誰かと話をしている。
「……」
そんな中で大関は目を瞑り沈黙していた。
ズズーーーンッ
いきなりビルが震えた。
「……」
全員が一斉に押し黙り、お互いに顔を見合わせた。
「…………」
振動が意味するのは一つだけだ。何かを爆破されたのだ。
「壁か床に穴を開けられてしまったようですね……」
ここは閉鎖された空間だ。監視モニターが無いと、外の様子を知る手段が無くなり孤立してしまう。地下研究所の入り口は一つしかない。警備しやすいように思えるが、逆に考えれば攻め易いのだ。
「死神の娘がやってくる……」
誰かが呟いた。
その時。エレベーターの入り口が音も無く開いた。全員がそこに向かって銃を構えた。
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