第二十三話 説明大根
その後、今度は東雲がお茶を入れ直してくれて、あらためて光子から内容の説明を受けた。実際に聞いた初心者用カリキュラムは、実に普通のもので、拍子抜けしそうだ(その後幸子は東雲につれられてどこかへ行った)。
何でもダンジョン庁監修で、まず十日ほどの座学、練習用指定のダンジョンにいったりするそうだ。それがマンツーマン指導。一通り罠に関する授業があり、場合によってはちょっとした『おまけ』もつくんだとか。
受講料はテキスト代込みで5000円。
大抵こういう講習だと、妙なテキストだったり、変な自伝みたいなものを買わされたりするイメージだが、ここでは基本的に実践的な方面でやっている、らしい。
「…内容は普通で大丈夫で良かったです」
「…いや、本当にすみません」
そう言って恐縮しながら、光子はまた頭を下げた。
これで内容までぶっ飛んでいたらどうしようかと思っていたが、内容は実に普通だった。ダンジョンのギミックについてダンジョンに潜って教えてもらったり、一応の戦い方までレクチャーしてもらえるらしい。ただ一つ気になったことがある。
「この、深度1までってなんです?」
光子の説明では、これで深度1までは行けるようになる、らしい。
オレが言えば、光子が説明してくれた。
「実は、ここまでが初心者が行ける限界なんです。一般的なダンジョンですと、だいたい1、2階でしょうか」
「1、2階、ですか…」
深度とは、正確には『潜行可能深度』のことらしい。要するに難易度のようなものだ。
聞いた話では、ダンジョンは最低でも30階くらいが一般的な深さらしい。
そして深度1とは、おおよそ難易度としてせいぜい1、2階なんだとか。ダンジョンの中身によってはそもそも入れなかったりする。なるほど、実に初心者だ。
オレが納得していると、光子がまた伺うようにオレの顔を見てくる。
今度はなんだ。
「…どうかされましたか?」
「…いえ、これで少ないな、とか思われないですかね?」
「少ないって…、もぐれる階層がですか?」
「はい。せいぜいなんとか
そんなことをおずおずと光子は言う。だが、普通に考えてそのくらいじゃないのか? こっちは戦闘ド素人だぞ? イノシシにも負けるんだぞ?
「いえ、初心者ですし、それくらいで十分なのではないですか?」
「…土屋さん、本当に普通にですね。そう考えない人が多いんですよ…。困ったことに…」
そう言って、光子はため息をつく。
そもそもダンジョンのドロップ品は奥に行けば行くほど、いろいろな理由で貴重なものが多いらしい。この深度1レベルではポーションすらドロップは貴重で、装備やら万全を期そうと思うと稼ぎは殆どないらしい。
「なので、皆さんすぐにもっと奥まで行きたがるんですよ。下手すると死にますよと言って止めるんですが…」
「はあ、それは、また…」
まあ、気持ちはわからなくもない。
一般のダンジョンのイメージなんて、一攫千金のイメージだ。ポーション一本10万円。うちの会社の対抗商品たちなんて壁材も、メートル単位で数十万するらしい。それが知れ渡れば、いかに手軽に稼ぐかに人の意識は行くだろう。
「どこでダンジョン講習を受けたかは、免許発行のときに登録されるんですよ。その死亡率をダンジョン庁がつけてまして、下手な人は受け入れづらいんです。ひどいところには注意が行くそうです」
「ははぁ…」
不幸な事故もあるだろうが、たしかにそれではやりづらいだろう。下手に講習を受けさせて、あっさり死んでを繰り返しては評判に関わる。
「それを説明してくださるということは、ここの死亡率は?」
「おかげさまで、今の所0ですね。もし気になるようでしたら、後でダンジョン庁に確認してください。こちらの番号にかければ、向こうも教えてくれますので」
「ええ、一応、後で見てみましょう」
教わる方もそんな危ないところに行くのだから、ちゃんとしたところに教わりたいだろう。
ただ、情報が兎に角少ない。
今渡された電話番号も、ダンジョン庁のホームページでは見つからないものだ。ネットで調べてもわからなかった。
変な情報封鎖でもしてるんだろうか?
「それで、どうされます? 受講されます?」
ちょっと考えていると、光子が小首をかしげて聞いてくる。
聞いてみても、全体的には悪い話ではなさそうだ。
さっきの死亡者数も、それだけ自身があるんだろう。もちろん確認はするが、最悪だめならまたどこかを探せばいい。
「…ええ、お願いできますか?」
「わかりました。…ああ、戻ってきたわね?」
光子が声をかけたほうを見れば、東雲が戻ってきたところだった。
見たところ、幸子の方はいないらしい。少しホッとした。
「すみません、光子さん。遅くなりました。…どうなりました?」
「ああ、ここで受けさせてもらうことにしたよ。幸子さんは?」
「…師匠に少しお仕置きしてもらうことに成りました。すみません、先輩」
「まあ、別にいいんだけど…」
気になる単語はあるが、やぶ蛇を突く趣味はない。
そういえば。
「ここで講師って、どなたがやるんですか?」
正直、あの幸子に頼むのは勘弁してほしい。いくらなんでもいきなり切りかかってくる人に教えてほしくはない。
オレが言えば、光子がため息をつく。
「…ですよね。本当ならあの子がダンジョンの案内はやるんですが…。すみません、あの子、ちょっとネジが飛んでまして」
「もう少し締め直しておいてください、切実に」
あのイノシシより怖かったぞ。
今更思い出して若干震えが来た。
「…ああ、そうだ」
オレの様子を見た光子はぽんと手を叩くと、東雲を手招きした。
なにか耳元でごにょごにょとやっている。
「…え?」
「良いじゃない? だめ?」
「いや、別に大丈夫ですが…」
「なら、良いわね。土屋さん、講師決まりましたよ」
「はい?」
話についていけない。
そんなオレの前で、光子が東雲の肩を、光子がぽんと掴む。
「彼女を講師につけます。これなら安心でしょう?」
東雲がなにかとんでもなく複雑そうな顔になっていた。
大丈夫か、これ?
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