咎人の十字架

沢渡六十

プロローグ

僕(ぼく)は目の前の人物をただ見ている。

 恐らく僕は相手からしたら恐ろしい顔をしているのだろう。

薄暗い城内の室内の玉座の間にはこの国の王。

つまり敵国の王が座っていた。

薄暗い室内の為王の顔は良く見えないが声だけは耳に残った。

「この邪宗教徒めが……」

 忌々しそうに薄暗いランプの明かりが照らす室内の中憎しみのこもった声を僕に向ける。

僕は敵の王を冷徹に見下ろし刀(カタナ)を振り下ろした。

 それと同時に稲光がした。

 稲光が差し込んだ室内には僕の刀が振り下ろされる光景がスローモーションのように流れる。

 王は僕の凶刃に倒れ息絶え戦争は終わった。

 それでも僕の心は晴れない。

 僕は外に出た。

 土砂降りだ。

 僕は外に出て雨にうたれた。

 程よい冷たさが戦で動かし熱を持った僕の身体から熱を奪っていった。

僕は顔を上げる。

雨粒は激しく僕の顔を打ち付ける。

雨はいい。

 悲しみも憎しみも全てを流してくれるから。

 血にまみれた軍服の血をも流してくれる。

 それでも、人を殺した後の感触と血の臭いは流してはくれない。

 今でもはっきり覚えている。

 王の恐れおののいた顔。

そして斬り殺し苦しみに満ちた顔。

 そして敵国の王(それ)を自分の刀で斬り殺した感触。

 僕の身体は血にまみれている。

 この血の臭いを雨が流してくれればいいのに……。

 僕は天(そら)を仰いだ。

 その動作により私の青みがかった長い黒髪がなびく。

 僕の濁った蒼い目には濁った空の色しか映らない。

 雨はひとしきり降ると止み始めめ雲から夕陽がこもれていた。

「もう夕方だったんだ……」

 僕は小さく呟くとその場を後にした。

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