月と闇

黒野響輔

第1話 プロローグ

 人類は進化した。科学の発達によって、多くの不可能が可能となった。人類の最も大きな発明は太陽化システムの発明だった。太陽はその命を燃やし尽くし、地球はバランスを崩したが、人類はそれさえも月の力を利用することで、太陽なしで、この地球という星で生活を続けることをも可能にした。微弱だが人工的に日光を発し、月にその光を反射させることで、世界中の気温を調節し、月に弱ってしまった太陽の役割を引き継がせた。

 太陽を失い、月の力を利用したことで、人類は思いもしなかった更なる進化を遂げた。ある者たちはそれまでの人類とは比較にならないほどの高い身体能力を発揮し、またそうでない者たちは、脳が飛躍的に成長して、更に高い知能や芸術性を身につけた。こうして人類は、二つの新たな人種に分けられるようになった。異質な者を遠ざけようとするところは、進化前も進化後も変わらなかったようで、異なる進化を遂げたそれぞれの人類は、次第に離れた場所に住み着くようになり、別々に生活し、それぞれに文明を築くようになった。

 高度に成長した科学技術で、月に人工の日光を当て、月からの光を増幅させ、その光の元で生活をするようになった頭脳の発達した人類は、自分たちを月族と呼び、もう一方の高い運動能力を持つ人類を闇族と呼ぶようになった。人類がなぜこのような進化を遂げたのか、なぜ同じはずだった人類が二つの種に分かれてしまったのか、それは高い知能を手に入れ、遺伝子や生物の進化についての研究を進めている月族の学者たちにも未だ解明できない謎だった。そして、人はなぜ異質なものを嫌悪してしまうのか、なぜ争いごとを起こしてしまうのか、その答えもまた、誰にもわからないままだった。

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