第33話 蘇りし災厄は歴史と共に葬り去るべし

「悪いな嬢ちゃん、もう少しだけ頑張ってくれ」

「大丈夫です。あいつさえ倒せば終わるんですから」


 何事も強気で。

 ペンギンダーはアバドンの群れを掻い潜ってクロースコアに肉薄する。当然クロースコアもされるがままではなく光の柱を放つ事で迎撃するが、先程と違って今は単機ではない、ペイルライダーの精密射撃によって光の柱を放つ拳が撃ち抜かれ軌道がそれる。その隙にペンギンダーが体当たりで体勢を崩す、二回目を狙おうとしたが、横合いからアバドンに撥ねられてペンギンダーが転がる事に。

 クロースコアはペンギンダーから距離をとるが、その先でローンレンジャーが二本の剣を構えて待っていた。クロースコアは腕を剣に変形させて鍔迫り合いを狙う。


『やるじゃねぇか!! ……がっ』


 ローンレンジャーの背後をアバドンが襲撃する。それを逃すクロースコアではない、すかさずローンレンジャーの剣を弾いてからその右腕を切り落とした。

 トドメをささんとするクロースコアであったが、ペイルライダーの牽制射撃に怯んで一旦下がった。


『くそ! 雑魚がうぜぇ』

『同感だ』

『ふむ、じゃあアバドンは俺と騎兵隊で受け持つ事にしようか』


 ペイルライダーが棺桶を振り回してペンギンダーとローンレンジャーの周りに群がっていたアバドンを散らす。ひっくり返ったアバドンの真中に騎兵隊の一斉斉射が叩き込まれる。

 一時的に解放感がうまれた戦場を駆け抜けてペイルライダーがペンギンダーの元へ寄る。


『スコッチ、こいつを使え』


 そう言ってヨハンは棺桶に繋がっている鎖を手渡した。


『お前今鰭からブレード出せないだろ?』

『よくわかったな』

『いつもなら体当たりせず鰭で切ってたろ。それでわかったんだよ。何年一緒にいると思ってんだ?』

『俺の記憶が確かなら一年も経ってない』


 正確には半年である。

 それはそれとしてスコッチ的には武装の追加は有難いので受け取っておく。ペンギンダーは器用に鰭で鎖を持って棺桶を手元に引き寄せた。意外と重い。

 次にペイルライダーはローンレンジャーの元へ、道中アバドンが襲ってきたので走りながら撃ち倒した。


『よおキャベンディッシュ、こいつ借りるぞ』

『ああ?』


 ペイルライダーはローンレンジャーの背中から三本目の剣を奪っていった。それはさっきアバドンを切り刻んだ鞭のように伸びる剣である。


『てめぇ! 何勝手に俺様の剣とってんだ!』

『あとで返すって! ほらクロースコアがきたぞ』


 迫っていたクロースコアに対処すべくローンレンジャーが片手で剣を振るう、大して力も入ってないのであっさり弾かれた。そこにペンギンダーが投げた棺桶がクロースコアの側面を直撃して吹き飛ばす。


『どうした? 寝惚けてたか?』

『むかつくペンギン野郎だなおい』


――――――――――――――――――――


 一方その頃ヨハンは残ったアバドンを倒すために、ローンレンジャーから奪い取……もとい、譲り受けた剣を伸ばして一体ずつアバドンの脚に絡めて投げ飛ばしていた。投げ飛ばされた先で騎兵隊が一斉射撃して倒していく。

 三体接近してきた場合は適当に剣を振って足を止めさせてから、至近距離からの射撃で一体撃破し、それを蹴り転がして二体目にぶつける。その間に三体目を投げ飛ばして騎兵隊達に処理させてから二体目を剣で刺して機能停止させる。


『これで残りは十三機ぐらいか、そろそろ弾切れだけど何とかなるかな』


 迫ってくるアバドンの真中に銃身を合わせ、引鉄を引いた。


――――――――――――――――――――


 クロースコアとローンレンジャーとペンギンダーの戦いは泥臭さを増していた。

 ローンレンジャーは片腕ゆえに大振りを避けて小刻みな斬撃を繰り返して手数を増やした。おかげでクロースコアは距離をとることかなわず近接戦闘に持ち込まれていた。

 更にペンギンダーが棺桶を鈍器のように振り回すので、それの対処のため迂闊に光の柱を出す事はできない。

 クロースコアは完全に動きを封じられていた。


『しぶとい!!』

『少し決め手に欠けるか』 

『おいペンギン野郎! 必殺技とかねぇのか!?』

『ない』


 クロースコアの動きを封じてるといっても、それだけなのでトドメを指すには至らない。倒すなら一瞬でも動きを止めさせる必要がある。


『おいキャベンディッシュ、あいつの動きを一瞬でも止められたら倒せるか?』

『あぁ、止められるならあいつの胸に剣をぶっ刺すけど』

『承った、なら私が動きを止めてこよう』


 ペンギンダーは棺桶を手元に引き寄せてからその蓋を開ける。

 それからスコッチはメルの方を向いて「降りろ」と指示をだした。


「ペイルライダーの棺桶に入っていれば安全だ。中で待ってるんだ」

「わかりました。どうかご無事で」


 メルは聞かない、かなり無茶をするだろう事は予想できたからだ。

 大人しくコックピットから外へでて棺桶の中へ、生きてるのに入るのは何だか不思議な気分だ。

 程なくしてペンギンダーが蓋を閉じて真っ暗闇の世界に閉じ込められた。その時、メルの脳裏にコールドスリープに入る時の光景が浮かんだ。


『行くぞキャベンディッシュ』

『命令すんな!』


 ペンギンダーがクロースコアへ突進を仕掛ける。光の柱で迎撃しようとするクロースコアをローンレンジャーが腰に差したままだった拳銃で牽制する。ペンギンダーがクロースコアに肉薄して抱きしめるようにして鰭で両腕を抑える。

 クロースコアは固定された腕を少しだけうごかして光の柱を至近距離でペンギンダーにぶつける。

 モロに光の柱を受けるものだからペンギンダーの装甲が徐々に溶かされていく、同時にクロースコアの腕も崩壊しかかっていた。


『今だ!』


 ペンギンダーが体勢を変えてクロースコアの背中をローンレンジャーに向ける。


『当たっても恨むなよ!』


 ローンレンジャーの剣がクロースコアの盛り上がった背中と首の付け根に刺さる。ガリガリと中を削るようにして奥へ。

 その頃には光の柱は止まっていた。ローンレンジャーは体勢と剣の向きを変えてクロースコアの右横へ、それから地面に倒れ込むようにして全体重を剣に乗せてクロースコアを切り裂いた。

 そして戦いが終わった。

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