実験結果

 成功と言うべきか、失敗と言うべきか、彼はハッキリと言えなかった。  


 成功と言うなら成功だ、人体における影響は凄まじかった。あのマウスと同じ様に血が傷口から溢れ出ると、血は全て抜けきった。


 そして真っ白になった肌はヒビ割れ、ボロボロとその肉は崩れ始めた。それは爬虫類の脱皮に似ていた。


 そして現れた被験者の姿は、まさに化物だった。


 緑色の鱗に覆われ、身長は二メートルを越えていた。目を大きくギョロついて金色に輝かし、裂けた口から細長い舌をシュルシュルと音を鳴らしている。五本の指はそのままだったが、爪は鋭く伸びている。


 この姿はまるで神話に出てくるリザードマンそのままだ。だから彼らは、この化物に変身する事を『恐竜化』と呼んだ。 



 この恐竜化には様々な特徴がある。



 一つに熱が苦手。炎を浴びせるとどんどん弱々しくなっていき、そのまま動かなくなる。このことから例え恐竜化しても死ぬ事が分かった。


 二つに恐竜化状態では理性を失い、ただ目に入る全てを、その鋭い爪で引き裂いていった。だが血を浴びた途端に勢いが衰えていき、なんと人間の姿に戻っていったのだ。


 恐ろしく目も、裂けた口も、大きなその体躯も、まるで無かったかの様に人間へと戻っていった。


 そして人間に戻った男は、恐竜化した時の記憶を保っていた。そして自分の体に起きた異変に恐れ、実験室の隅で震えていた。


 その姿は、何人の少女を殺してきた男にはとても見えなかった。


 そし再び時間が経つと、体を壁や床に叩きつけながら「血をくれ、血をくれ!」と暴れ始めた。


 そうこうしない間に、男の体は再び脱皮するかの様にヒビ割れて、恐竜化状態へと戻った。


 これを見るに大量の血を与えたなら、もしかすると理性を保ったまま恐竜化出来るかも知れない。そうすれば最強の兵士を量産できるかも知れないのだ。


 この実験は秘密裏に行われたが、この事実を知るものは大いに喜び合い、国の繁栄に大いなる希望を抱いていた。



 なら成功か? ユリウスがハッキリと成功だと言えない理由は本人ですら分からなかった。


 ただ一つ彼が言える事は、この実験を終えたその時は、無数の死体が積み上がる事だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る