幕間1 フリーダ様のドタバタ育児日記

 これはキッドが血飲み児だった頃のお話


「エルマ!エルマはおるか!」

「はっここに!」

 フリーダに呼ばれエルマがサッと駆けつける。


「私は街娘をチョチョイと拐かして血を飲んでくる、その間キッドが腹を空かせたら血を飲ませておいてくれ」


 フリーダやエルマは『鉄血』の力で人を貧血状態にさせることができる。

 しかしフリーダの命令にエルマは不機嫌を露わにして言う。


「……フリーダ様、私はもともと人間の子供なんぞを育てるのは反対の立場なのですよ?それに、妊婦を拐かして、私たちは血を吸ってキッドに母乳を飲ませればいいではないですか。なんで私が……」

「妊婦の血はこう……雑味が多くてな……」

「ワガママ言わないでくださいよ……」


 エルマは呆れた顔で言った。


「ゆえに私が飲む分とキッドが飲む分の人間を拐かすのでは二度手間になってしまうだろう?だからお前が血を飲ませてやれ」


 そう言って羽をはためかせて街に飛んでいってしまった。


 エルマは押しつけられたキッドを抱き抱えながら言う。


「まあ、私が見ているときにこいつが腹を減らさなきゃいいわけで」


 するとキッドがお腹を空かせて泣き始めた。


「……て、さっそくかい!」


 エルマは自分の人差し指の腹を噛み切る。


「お前のためじゃないぞー、フリーダ様の命令に従っているだけなんだからな」


 そう言ってキッドの口に人差し指を入れた。キッドはチュパチュパと舐め始める。


「……ちょっ、ちょっとくすぐったい」


 しばらく舐められ続けられたエルマはだんだんと顔をニヤつかせた後、しまいには大笑いし始めた。


「あは!あは!あはははは!ちょっ!止めっ!あーはっはっは!」


 ──数時間後。


「エルマ、戻ったぞ……なにしてるんだ?」


 エルマが仰向けになってゼーゼーと息をしていた。傍らにはキッドがスヤスヤと眠っている。


「フリーダ様……こいつとんでもないテクニシャンですよ」

「……何の話だ?」


 勝負?はキッドの勝利に終わった。


 *


「エルマ!エルマはおるか!」

「はっここに!」

 フリーダに呼ばれエルマがサッと駆けつける。


「実はキッドのためにおもちゃを用意してな、お前にも見てもらいたい」


 フリーダが指で指し示すとその先には……多種多様の武器が並んでいた。


「やっぱり男の子が武器とかが好きだろうと思ってな」

「アホですか!?」


 エルマの言葉にフリーダは思わずたじろぐ。


「なっ、貴様この私にむかってなんて口のきき「こんなもん持たせたらキッドが怪我しちゃうでしょうが!なに考えてるんですか!」

「……そうだな」


 エルマのもっともな言葉にフリーダは何もいえなかった。


「ま、待っていろ、今度は真っ当なおもちゃを持って来るから」

「心配だなぁ……」


 後日、再びエルマが呼び出される。そこにはフリーダが自信満々の顔で立っていた。

「見ろエルマ、キッドも大喜びのおもちゃの数々だ」

 そこには馬のおもちゃやカラカラ、着せ替え人形など多種多様のおもちゃがあった。


 ──全て鉄の。

 エルマは呆れた顔で言う。


「フリーダ様?鉄で出来てると尖ってたり重いしで危険だって未だ分かってなかったんですか?横着して『鉄血』の力で作るのはやめといた方がいいですよ」

「うぐっ!」

「あとおもちゃはもう私が作っておいてあげましたから」


 そう言うとエルマの服のなかからもりもりとおもちゃが溢れ出る。全てちゃんとした木製のおもちゃだ。それを見たキッドは手を上げて喜んでいる。


「……エルマ!そんなにおもちゃをたくさん!キッドを甘やかしすぎではないか!」


 嫉妬心が丸出しであった。


「無理矢理難癖をつけるのはやめてくださいよ!」


 おもちゃ勝負はエルマの勝負に終わった。


 *


「エルマ!エルマはおるか!」

「はっここに!」

 フリーダに呼ばれエルマがサッと駆けつける。


「これを見よ!」


 フリーダが指を指し示す。そこにはキッドがハイハイをし始めていた。


「おお!いつのまにかハイハイまで!キッドキッド〜こっちにこ〜い」

「なっ!エルマ貴様!キッド!お母さんはこっちだぞ!来い!来い!」


 キッドはハイハイをして、


 ──エルマの方へ向かった。

 エルマがキッドを抱き上げて言う。


「おお〜頑張った頑張った」


 それをフリーダが恨みがましい目で見つめている。


「くそぅ……もう一回だ!」


 今度はフリーダは鉄のカラカラを作ると、それを振りながら呼びかける。


「あっ!フリーダ様ズルイ!」

「ふっ!なんとでも言え!さあキッド!こっちへ!」

 キッドは


 ──もう一度エルマにハイハイして向かった。


「べろべろば〜」


 エルマが舌をだしてあやすとキッドはキャッキャと喜んでいる。そばでフリーダが手をついて落ち込んでいた。 


「何故だ……何故だ……」

「フリーダ様は大声出しすぎなんですよ。もっと優しい声で呼びかけないと」


 エルマの言葉にフリーダは気を取り直す。


「よし!今度こそ!エルマ!貴様も手をぬくなよ?」

「なんの勝負ですか……」


 二人はキッドをもう一度ハイハイさせようと離して置く。そしてフリーダはキッドを呼び始めた。


「キッド〜こちらへいらっしゃいな〜」

「うわ!フリーダ様何ですかその猫撫で声!気持ち悪!」

「うるさい黙れ!」


 キッドがハイハイでこちらに向かってくる。

 すると、フリーダはいつもと様子が違うことに気づく。


「……!おい待て!キッドが!」


 キッドが両手をついて立ち上がろうとしている。


「キッド!いつの間にもうそんなに成長をしていたのか!母は嬉しいぞ!」

「そこだー!立てー!立てー!」


 二人の声援が通じたのかキッドは危うげながらも二本の足で立ち上がった。

 二人が歓喜して叫ぶ。


「「キッドが立ったーーーー!!!!」」


 今回は皆の勝利に終わった。

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