暗躍する者→男爵令嬢編⑥ 巻き戻し。

王太子が、男性進入禁止エリアに侵入したことは、あっという間に女性全員に伝わった。


男性は、この重大性に気がつくよりも早く、触らぬ神に祟りなしとばかりに、知らぬ存ぜぬ状態。


王太子は、その場で王女の女性近衛隊に拘束された。



この星空の天然温泉は、学園内にあるが、転移ポートを介して王宮からも来ることができる。


そのポートを使って、王女…すなわち王太子の妹が近衛隊とともに温泉に入って来て、兄である王太子とばったり会ってしまったのだ。


*


王太子の供述では、王太子自らが、男爵令嬢の案内によってその場に来たと言っていた。

しかし、要所要所に設置されているセンサー類には、男爵令嬢が写っていない。


王太子が、周囲をきょろきょろ見ながら歩いているものが記録されていただけである。


実際のところ、男爵令嬢はその装置の死角を移動しているし、いくつかあるセンサーは、一時的に動作不良を起こしていた。


普通、この場所に入ろうとする男性はいない。

付き添いでも入ってはいけないのは、特別な場所だからで、女湯に堂々と入る男性がいないのと同じことである。


そのため、動作不良が起きる可能性もあるが、それら全てが王太子がやったこととなってしまった。



「俺は王太子だぞ。俺が悪い訳がなかろう。男爵令嬢がウソを言っている。詳しく調べれば分かるはずだ」


男爵令嬢は、この言葉をどこかで聞いた感じがした。


口調は違うが、始めの時。


公爵令嬢が悪役令嬢になった時の王太子の言葉。


『俺は王太子だ。俺の言うことに間違いはない。公爵令嬢はウソを言っている。詳しく調べた結果だ』


実際のところ、詳しく調べていない。

不正確な証言で、それが真実だと思い込んだのが、王太子だった。



その時だ。


脳裏に響く声がした。


“巻き戻します”


その言葉と共に、意識が暗転した。

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