第3話 事件発生!?

 朝6:30。正直、今日が平日だったら俺は100%迷うことなく二度寝している時間である。


 しかし、今日は夜から皆と夏祭りに行く日だ。だから、早く起きて健康的な休日を過ごそう!そう思ってこんな朝早くに起きたわけではない。


 Q.では何故こんなに早くに起きたのですか?


 A.たまたまですね。はい。


 そう。たまたまだ。起きたらこんな時間だったというわけだ。


 しかし、こんな朝早くの我が家は騒がしい。普通はまだ皆寝ているものだが。


 なぜこんなに騒がしいかと言えば、親父と紗希がもうこんな時間から剣術の稽古をしているからだ。竹刀で打ち合う音が道場から響いてくる。


 母さんも二人に差し入れをしたりして、忙しくしているようだ。


 まあ、俺も折角早く起きたわけだし、さっさと朝の身支度とかを済ませてしまおう。


「まずお腹も空いたし、朝食でも食べるか」


 そう一人呟いて俺はのそのそと部屋を出た。そして、階段を降り、我が家のリビングダイニングへとドアを開けて突入すると、そこには母さんが居た。


「あら、おはよう。直哉、もう起きたのですか?珍しいこともあるものですね」


「何となく起きたらこんな時間だっただけだ。それで、これは?」


 俺が指を指したテーブルの上にはケーキが4つ置いてあった。


「昨日買いに行って、冷蔵庫に入れておいたのよ。朝にでも皆で食べようかと思って」


 なるほど。それで、こんなところにケーキがあったのか。ちなみに置かれているケーキはショートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、チョコレートケーキの4つだ。甘いものが好きな俺にはどれも好物だ。本音を言えば、全部食べたい。だが、そうはいかない。


 ……どれにしようか結構迷うな。


 俺がどれを食べるか頭を悩ませていると母に呼ばれた。


「直哉。ケーキを食べるので、お父さんと紗希を呼んできてくれますか?」


「ああ、分かった。呼んでくる」


 俺は道場へ親父と紗希を呼びに向かった。そして、道場に着いた俺は木製の横開きの扉を開けた。その先では、道着袴に身を包んだ二人が竹刀で打ち合っていた。


「親父!紗希!母さんがケーキ食べるから一旦稽古を終わりにしてリビングに来てくれって言ってたぞ!」


 俺が"ケーキ”と言ったところで、竹刀で打ち合っていた二人はすぐさまこっちへ振り向いた。おそらくケーキという言葉に反応したのだろう。


「兄さん、お母さんにすぐ行くって言っておいて!」


「直哉!俺も着替えたらすぐに行くからな!母さんに言っといてくれ!」


「分かった!でも、あんまり遅かったら俺と母さんとで全部食べるからな!」


 俺がそう言ったときには、すでにそこに二人の姿はなかった。もちろん二人からの返事もなかった。


「二人とも早すぎだろ……」


 俺は戻って、自分が食べるケーキでも選びながら待っていよう。そんな事を思って来た道を引き返した。


 俺はどれを食べようかと迷いながらリビングダイニングへと戻った。


「おう、直哉!遅かったな!もう、待ちきれずにケーキ食べてしまったぞ!」


「あら、直哉。早くどのケーキを食べるか選んで頂戴」


 そこには、イチゴを食べて皿を下げようとしている親父とチーズケーキを皿の上に載せた状態で待ってくれている母さんがいた。


 母さんがケーキを皿に載せて待っているのはまあ、わかる。だが……!


「何で親父がもう食べ終わってるんだよ……」


 早すぎる……。俺、道場から寄り道もせず真っ直ぐに戻って来たはずなんだがな……


「この人甘い物大好物だから」


 母さんはそう言ったが全く説明になっていない。一体いつの間に先を越されたんだろうか?


「それじゃあ、俺は道場へ戻るからな」


 俺が考えている間に親父は道場へ歩いて行ってしまった。それから遅れること1分。


「えっ!?もう食べ終わっちゃったの!?ボクの分はまだあるよね!?」


 そう言って部屋に紗希が走り込んで来た。しかし、その時には俺と母さんはほとんど食べ終わっていた。俺は無言で紗希の分を渡した。ちなみに無言なのは口の中にまだケーキが入っているから話せなかっただけだ。


「わあ、良かった~!もう兄さんに食べられて残ってないと思ってたよ~」


「全く、俺を何だと思っているんだ。あんなの冗談に決まってるだろ」


 俺は笑いながら言うと、紗希は満面の笑みを浮かべていた。


「……??どうした?そんなニコニコして」


「……ううん!少し嬉しかっただけだよ!」


 俺、何かしたか?口元に手を当てて考えていると。


「ボクがこの前学校帰りにモンブラン食べたいって言ったの覚えてくれてたんだね」


「もちろん。それくらい覚えているに決まってるだろ」


 ……嘘である。モンブランを見ていて、ふと思い出しただけだ。正直なところ、言われるまで忘れていた。


「さすがボクの兄さんだね!」


 紗希はそう言い残してテーブルまで走っていった。一方で俺は紗希がそれはもう美味しそうにモンブランを頬張っている姿を眺めてから自分の部屋へと戻った。


 部屋でゆっくりアニメを見る。そして、ゲームをする。やはり休日はこれに限る。


 母には『誰かと遊んだりしないのか?』といつも言われるが、笑止。外で遊ぶのは子供リア充の領分であって、俺の領分ではない。


 万が一外に出るとしても、アニメイトへ行ったり本屋へラノベを買いに行ったりするくらいなものだ。


 さて、部屋に入ったのが7時過ぎだったはず。あれからアニメを12話ほどぶっ通しで見ていた。なので、ちょうど12時くらいになっているはずだ。


 俺はドアを開けて階段を降りる。すると、リビングの方からカレーのよい香りが漂ってくる。


「直哉、随分と遅かったのですね」


「ごめん。遅くなっちゃって。紗希と親父は?」


 リビングダイニングにすでに二人の姿はなかった。


「二人ともついさっき食べ終わって稽古に戻りましたよ」


「そうなのか」


 少し寂しい気もするが、遅れた俺が悪い。


「直哉も食べますか?」


「ああ、今すぐにでも食べたい」


 さっきから腹が獣のうなり声のような音をたてている。


「分かりました。すぐに用意するのでちょっとだけ待っていてください」


 母さんは台所まで戻っていき、昼食を作り始めた。さっきからカレーの香りがしているので、間違いなく昼はカレーだろう。そんな事を思いながら待つこと数分。


「はい。出来ましたよ」


 母さんがテーブルに置いたのはカレーはカレーでもカレーうどんだった。


「いただきます」


 俺はカレーうどんをあっという間に平らげた。それから少しリビングダイニングでくつろいだ後、俺は再び部屋に戻った。


 部屋に戻った時にはすでに13:00になろうとしていた。


「ふわぁぁ……」


 大きなあくびが一つ。結構眠くなってきたな……。やっぱり昼は眠いな。少し寝よう。祭りまでまだまだ時間あるし。俺はベッドに寝転がった。それと同時に瞼もゆっくりと閉じていった。


 あれから、どのくらいの時間が経ったんだろうか。目を開けると、すでに外も暗くなり始めているから、そろそろ出発してもよい時間だろう。


 とりあえず、今何時かを確認するためにスマホを起動させてみる。


「……何……だと……!」


 そこに表示された時刻は……17:50だった。集合時間まであと10分。自転車で神社までは早くても15分かかるのだ。


 ……まずい。どう考えても今からじゃ間に合わない。とりあえず俺は服を着替えてから両手にスマホと財布を握りしめ、大急ぎで家を飛び出した。もちろん、忘れずに戸締まりもした。


 俺は急いで自転車に乗り、神社へと向かう。そして、信号待ちをしている間に『遅れるから先に祭り回っておいてくれ』と紗希にメールを送った。


 やがて信号が青になり、俺は全速力で自転車を走らせた。


――――――――――


 その頃、待ち合わせ場所である神社の一番手前の鳥居の前。そこには、浴衣を着た美少女と冴えない風貌の男がいた。


「……しかしまあ、見渡す限りリア充だらけだな。ダメだ、見ているだけで気分が悪くなってきた……。今すぐにでも家に帰りたい」


「そもそも祭りに誘ったの守能君でしょ?まだ帰ったらダメだよ」


 気分悪そうにうずくまっている寛之。そして、本を片手に読書しながら寛之の愚痴に付き合う聖美。


「聖美先輩。兄さんが遅れるみたいです。先に屋台とか回っておいてくれってメールが来ました」


 そこへ、直哉からの連絡を受けた紗希がやって来た。


「うん、分かった。でも、弥城君と武淵先輩がまだ来てないから屋台とか回るのはもう少しだけ待とっか」


「分かりました。とりあえず、そのことを兄さんにメールしておきますね」


「うん、お願い」


 紗希は巾着からスマホを取り出してメールを打ち始める。そんな聖美の元へ茉由が駆け寄る。


「お姉ちゃん、自販機で飲み物買って来たよ」


 茉由が聖美に手渡したのは冷たいミルクティー。


「茉由、私の心読めるの?」


「どういうこと?」


 茉由ちゃんはいぶかし気に首をかしげている。


「ちょうど私がミルクティー飲みたいなって思ってた時に持ってきたから」


「えっと、お姉ちゃんミルクティー大好きだから買ってきただけなんだけど……」


 そう言って、ごまかす様にペットボトルのお茶を飲む茉由。


「そ、そうなんだ。でも、ありがとね。茉由、大好き」


「べ、べべべ別にそれくらい大したことじゃないから!」


 茉由が顔を赤く染めてそっぽを向く。それをニヤニヤしながら眺めている紗希。


「茉由ちゃんったら素直じゃないな~♪ホントは嬉しいくせに♪」


「ちょっと、紗希ちゃん!変なこと言わないでよ!」


 茉由は耳まで赤くして紗希の胸をポカポカと叩いていた。そして、紗希は死んだ魚のような目をして茉由の胸を見ていた。


 そして、そんなこんなで18時になった。


「すまん!遅くなった!」


「皆さん、お待たせしてしまってすみません!」


 約束の時間ちょうどに走ってやって来たのは洋介と浴衣姿の夏海だ。これでまだ集合場所に着いていないのは直哉だけとなっていた。


――――――――――


 そして、集合時間に遅れること5分。


 俺は集合場所に到着して、皆と合流することができた。


「皆、遅れてごめん」


 俺は勢いよく頭を下げた。


「兄さん、気を付けないとダメだよ。ちゃんと時間を見て行動してね!」


「薪苗君、次からは気を付けてね」


「……ごめん」


 どうやら許してはもらえたようだ。俺はホッと口から安堵の息をもらした。でも、次からは遅れないようにしないとな。


「そういえば、茉由ちゃんは?」


「茉由なら、待ちきれずに先に屋台回ってくるって言ってたよ。暇そうにしてた守能君を連れて」


「それにしても、寛之と茉由ちゃんって珍しい組み合わせだな」


「えっと、最初はボクと行く予定だったんだけど、ボクが兄さんが来るまで待ってるっていったら先に行っちゃったんだよ」


 そう言ってきたのは紗希だ。


「なるほどな。まあ、二人とはまた後で合流するとして、洋介と武淵先輩は……いた」


 辺りを見回すと二人でわたあめを食べながら楽しそうに話をしていた。二人は随分と楽しんでいるように見える。果たしてこの二人をわざわざ誘う必要はあったのだろうか?


 俺が目線を戻すと、紗希が居なくなっていた。どこに行ったんだ?


 すると突然、横からトントンと肩を叩かれた。紗希だと思って振り向いてみるとそこにいたのは呉宮さんだった。


「呉宮さん?どうかしたの?」


「薪苗君、夏祭りに来たのに屋台回らないのかなって思って」


「もちろん回るよ。それじゃあ、呉宮さんが行きたい屋台はある?」


「えっ!?私!?」


 俺は無言で頷いた。俺は特に行きたい屋台もなかったので呉宮さんに判断を委ねることにした。


「えっと……ベビーカステラの屋台かな。ほら、あそこの!」


 呉宮さんが指を指している方向には確かにベビーカステラの屋台があった。


 しかし、思っていた通り人が多過ぎる。これでは辿り着く前にはぐれてしまう。


「薪苗君!行こっ!」


 呉宮さんに手を握られて俺は人波へと呑み込まれていった。


 そして、数分後。


「何とか買えたね!」


「そうだね。買えて良かったよ」


 呉宮さんは美味しそうにベビーカステラを頬張りながら嬉しそうに残りの出来立てのベビーカステラの入った袋を胸に抱いている。


「薪苗君も食べる?」


「えっと……食べてもいいの?」


 突然のことで俺は驚いた。


「もちろん!」


「それじゃあ、遠慮なく」


 俺は袋の中からまだ熱いベビーカステラを1つ取り出して口の中へ放り込んだ。


「……うまい」


「出来立てだから尚更美味しいよね!」


 ホントにそうだ。アツアツのベビーカステラは本当に美味しい。


 呉宮さんと話をしながら歩いていると一際子供たちが集まっている屋台があった。


「薪苗君!射的だよ!折角だしやって行こうよ!」


 そう言ってぐいぐいと俺の腕を引っ張っていく。ちょっと!お嬢さん、さっきから腕に弾力が……!


「薪苗君、どっちが上手いか勝負しない?」


「分かった。どちらかが果てるまで闘おうぞ!」


 ……主に金銭的な面で。


「それじゃあ、決まりだね!」


 戦が始まってからおよそ10分。


「呉宮さんノーミスか……」


「フッフッフ……私、失敗しないので!」


 どっかの一匹狼のドクターが言ってたな。そのセリフ。


 結局、勝負は「射的屋泣かせの呉宮さん」の圧勝に終わった。


 景品とかを取ったは良いが、特に必要ないからと言って周りの子供たちに景品を分配する呉宮さん。


 ホントに誰にでも優しいんだよなぁ。


 俺みたいな陰キャはこういう優しさを好意と誤解することが多いんだ。


 俺だけに優しくしてもらいたい、独占したい気持ちがないわけではない。


 でも、それだと呉宮さんの長所を削ってしまうことになる。


 複雑だな……。


「次はどこに行く?」


「どこに行こうか……」


 次に行くところを考えていると前方に慌てた様子の紗希を見つけた。


「薪苗君?急に立ち止まってどうかしたの?」


「あそこで紗希が慌てた感じでいるから何かあったのかなってさ」


 俺が紗希のいる方を指を指すと呉宮さんはその方向へ走って行ってしまった。俺も立ち止まっているわけにもいかないので、後に続いた。


「紗希ちゃん!何かあったの?」


 呉宮さんが名前を呼ぶと紗希は振り返った。


「聖美先輩、大変な事に……!」


「落ち着け、紗希。何があったのかゆっくりでいいから話してくれ」


 呉宮さんに追いついた俺が紗希の両肩を掴んで声をかける。


 それにしても、紗希がここまで慌てるなんてただ事じゃないな……。


「茉由ちゃんが……!」


「茉由がどうかしたの?」


 呉宮さんは落ち着いた様子で紗希の話を聞こうとしている。


「茉由ちゃんが居なくなっちゃったの!」

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