日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~

ヌマサン

第1章 古代遺跡編

第1話 ニチジョウ

 俺、薪苗直哉まきないなおやは今、見覚えのない荒野にポツンと突っ立っている。


 この状況をもう少し詳しく説明すると、この荒野に突っ立っているのは俺一人だけ。だが、この荒野の上空にいる一頭の竜が翼をはためかせながら、上空から何故か俺をずっと見下ろしているのだ。


 その竜というのは背中から大きな翼が生えており、体長は……恐らく十メートル程。前後の足には鋭い爪が5本ずつ生えており、全身を墨色の鱗で覆われている。ほら、ゲームやら異世界系の話でよく出てくるワイバーン……みたいな感じとでも言えばいいのだろうか。


 当の俺はその状況を全く理解することができないにもかかわらず考え込んでしまっていた。


『アルベ……いえ、薪苗直哉。時は満ちました。今こそ世界を渡り、魔王を討伐するときが来たのです』


 頭に直接聞こえてくる女性っぽい感じの声。俺以外でこの空間にいるのはあの竜だけだ。もしそうであるなら、竜に話しかけられるというフツーに生きていれば絶対に体験できないようなことが発生していることになる。


「は?何を言ってるんだ?この人は……?」


 ……というか、正確には人じゃなくて竜か……って気にするのはそこじゃないよな。うん。全く言ってることの意味が分からない。


 分からないときは聞いてみるのが一番良い。うじうじ考えても仕方がないしな。


「さっきの言葉はどういう意味なんだ?世界を渡るだの魔王だの訳がわからんのだが?俺はアニメ大好きというだけで気持ち悪がられて、クラスのやつらに避けられているだけのどこにでもいるフツー高校生だぞ?」


『まだ理解が追い付いていない……といったところですか。ですが、貴方は必ず先ほど私が申した通りのことになりますよ。では、また会いましょう。薪苗直哉』


 そう言うやいなや、その竜は翼をはためかせながら飛び去ってしまった。


 俺はその飛び去って行く竜の後ろ姿に向かって「待ってくれ!」と叫んだ。


 しかし、竜が反応することはなかった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……という夢を見て俺は目を覚ました。我ながら妙にファンタジーが追求されている夢だと思った。恐らくは昨日見たアニメの影響なのだろうが。


 とにかく早く体を起こさないと二度でも三度でも寝てしまいそうなので、まるで睡魔に憑かれているかのように重い体に鞭打って体を起こす。


 それから眠い目を擦りながら立ち上がり、俺は部屋の窓のところまでよろよろと歩いて行き、カーテンを開ける。すると、部屋中に朝日が満ちて今まで薄暗かった部屋が一気に明るくなる。


 机の上に置いてある卓上カレンダーを見ると、7/5(金)のところ……すなわち今日の日付の所に“本日一学期期末テスト最終日!!”ととても丁寧な字で書かれている。恐らくこれを書いたのは妹の紗希さきだろう。


 紗希は何事にも計画をきちんとたててから行動するほどの真面目っ子だ。一方で、俺はそんな妹と真逆といっても良いほど計画をたてない。だから、こうして計画性のない俺のために卓上カレンダーに予め重要な行事等を書き込んでおいてくれるのだ。本当に出来た妹だ。こんな妹を持てた俺は幸せ者だと実感した。


 紗希への感謝を胸に朝食をとるために俺は部屋を出る。するとそこへ、左の方から声がかけられた。


「兄さん、おはよー」


「ああ、おはよう。紗希」


 その声の主は妹の紗希だ。眠そうに目をこすり、腰まで届く長さの艶やかな黒髪を揺らしながらこちらへと歩いてくる。普段は前髪を分厚く真っ直ぐに切り揃え、サイドの髪の部分を顎にあたる長さで切り揃えている。俗にいう“お姫様カット”というやつだ。しかし、寝起きであるためか所々寝癖がついてボサボサになっている。……特に後頭部の辺り。


 とりあえず、朝食をとるために俺たち二人は目の前の折り返し階段を降りる。


 階段を降りてすぐ右のドアを開けるとそこはリビングダイニングだ。いつも通りそこで朝食をとる。


 今日の朝食は昨日の夕食の残り物のご飯、味噌汁、焼き魚、納豆といった典型的な和食メニューだ。配膳を済ませ、席につく。


「「いただきます!」」


 俺たちはきちんと手を合わせてから、朝食を食べ始めた。


 わずか5分ほどで朝食を食べ終えた紗希が「ごちそうさま。」と言って食器類を流し台まで持っていき、足早に部屋へと戻っていく。おまけにトトトトッと音をたてながら階段を上がる音も聞こえてくる。


 俺も朝食を食べ終えて、食後の錠剤を飲み、自分と紗希の分の食器を洗っていた。そこへ制服に着替えた紗希がやって来た。


「行ってきます!」


 俺は「行ってらっしゃい!」と挨拶を返す。しかし、そのときにはすでに紗希はもう玄関まで走っていってしまっていた。


 玄関のドアが開閉する音が聞こえたあと、家は静かになった。


 俺も食器類を洗い終えたあと、部屋に戻って制服に着替えて出発。


 学校まではいつも自転車で通っている。所要時間はだいたい15分くらいだ。俺はいつも変わらぬ古き良き田園風景を眺めながら自転車を漕ぐ。ただ、それだけ。


 学校に着くと、とりあえず生徒用の駐輪場に自転車を停める。もちろん、ちゃんと鍵はかけた。そして、下駄箱で靴を履き替えて教室へと向かう。


 俺のクラスは2階にある2-2の教室だ。階段を上がって左側の手前から2つ目の教室だ。


 ドアを開けて教室に入る。教室にいたのは俺の座席の近くにいる二人だけ。


「……おはよう」


「薪苗君!おはよう!」


「ああ、二人ともおはよう」


 最初にボソボソとした声で挨拶してきたこのデb……じゃなくて、ずんぐりむっくりな肥満体のこの男。名前は守能寛之もりのうひろゆき。俺の中学の頃からの友人だ。七三分けの黒髪に愛着がかろうじてわくような丸顔をしている。どこにでもいるようなゲームやアニメが大好きな高校生である。


 次にニコニコと微笑みながら挨拶をしてきた美少女。彼女の名は呉宮聖美くれみやさとみ。俺の幼馴染みである。寛之には「フツーの高校生にこんな可愛い幼馴染みはいないんだよ!」と言われてしまったが。


 呉宮さんはポニーテールにした黒髪を揺らしながらこちらへと歩いてくる。


「薪苗君、そういえば昨日のアレ見た?」


「あ、見た!特にラストが……」


「そうそう!まさかあそこで○○が●●するとは思わなかったよね!」


「……おい、ちょっと……」


「あ、あとエンドカードが……」


「「尊すぎる(よね)!!」」


 意図せずして俺と呉宮さんの声がハモる。


 俺と呉宮さんの話はかれこれ15分くらい続いた。


「俺的には次回は○○が△△△すると思うんだよ!」


「そうかなぁ?私はあえて○○が☆☆☆すると思うんだけど……」


「……二人とも!」


突如、寛之が大声をあげて会話に割って入ってきた。


「何だ?」


「どうしたの?」


「僕はそれ、まだ見てないんだ!」


 ……どうやら、ネタバレしてしまったようだ。


「すまん!お前がいるの忘れてた!!」


「ごめん、私も守能君がいるって気づかなかったよ……」


「あァァァんまりだァァアァ!」


 それから俺と呉宮さんは落ち込んだ様子の寛之に何度も謝ってようやく許してもらった。そのあとは3人で他愛もない話をして過ごしていた。


 しかし、その平和な時間はチャイムの音によって終わりを告げる。


 チャイムが鳴ったのは朝の8:30。その8:30から始まるのはホームルーム。それが終わると一学期期末最終日の試験が始まる。科目は1限目が数学Ⅱ、2限目が現代文だ。当たり前のことではあるが勉強はしていない。


 そんなこんなで朝のホームルームも終わる。そして、その時はやって来た。


 試験開始のチャイムとともに「では、始めてください」という死刑宣告を聞いた俺。心の中で「オワッター!」と叫びながら問題と対峙する。


 1限目は俺の苦手科目である数学だ。俺は試験時間のすべてを使って問題と死闘を繰り広げた。その時間はとても長く感じた。


 チャイムと共に 「解答をやめて筆記用具を置いてください」と解放宣言が出されて1限目の数学は終わった。いろいろな意味で。


 そして、現代文の試験は少しの休憩を挟んでから行われた。試験はそこまで難しくはなかった。「助かった……」と俺はほっと胸を撫で下ろした。


 その日の下校時、俺には生徒達に自由という名の翼が生えているように見受けられた。何せ4日に渡って自分たちを苦しめた期末試験が終わりを迎えたのだから。生徒達は解放感を身にまとって足早に部活に向かっていく。


 俺はそんな浮かれた空気の中で真っ直ぐ駐輪場を目指した。何故なら俺も帰宅部の部活動があるからだ。そのためにはまず真っ直ぐ家に帰らなければならない。それからアニメを見てゲームをして漫画やラノベを読みふけろう。そう心に決めて俺は全力で走った。


 そして、駐輪場に着いたとき。そこにいたのは寛之であった。


 俺は呉宮さんではなかったことを少し残念に思いながら、自転車の元へ歩く。自転車を動かして出発しようとした、まさにその時。


「……直哉、今日、一緒に帰らないか?」


 ボソボソした声で名前を呼ばれた。声の主はもちろん寛之だ。


 なので、俺は迷わず発進することに決める。しかし、無念だ。発進する前に自転車の前篭まえかごを掴まれてしまった。


「今、無視して帰ろうとしてただろ」


 俺は観念して黙って空を見上げる。すると、寛之は大きくため息をついた。


「お前、最近俺の扱いがひどくないか?あと、どうせこの後暇だろ?昼飯食いにいかないか?」


「……」


「……って何か言えよ!」


「あ?ああ。すまん、今日はどうしても外せない用事があってだな……」


「どうせアニメ見てゲームをするだけだろ」


「お前もそうなんじゃないのか?」


「……うぐっ!」


 特大のブーメランを受けて膝から崩れ落ちる寛之。もはや核心を突かれたのだ為す術すべはなかろう。


「まあ、昼飯くらいなら別にいいぞ」


「……へ?」


 間抜けな声を上げる寛之。


「どのみち昼飯なら家に帰ってから食べないといけないしな」


 それに家帰っても夕方まで誰も帰ってこないしな……。


「……よし!そうと決まれば出発だ!」


 寛之が歩き出したのに続いて俺も自転車を押しながら後ろに続く。


「そういえば昼飯を何処で食べるつもりなんだ?」


「近所のうどん屋だ。美味しいって評判のな」


「最近の若者は行かないような店か?」


「……たぶんそうだと思うぞ。てか、最近の若者は……ってお前何歳だよ。爺さんかよ」


「17歳だ。見た目だけはな」


 そんなこんなで雑談をしながら町中を歩く。10分程でお目当てのうどん屋に到着した。


 店の横に自転車を停められるスペースがあったのでそこに停めてから、店の入り口に行った。俺たちはしばらく店の前で【本日のオススメセット】と書かれているボードを眺めたりしてから店に入った。


 店に入ると「いらっしゃいませ!」といって店員さんが出てきた。「何名様ですか?」と聞かれたので2人だということを伝えると、「こちらのお席へどうぞ」と、奥の座席へと通された。その時、俺たちは男女の先客がいることに気がついた。


 しかも、その男女の先客は俺たちの通っている高校では知名度が高い二人だ。


 男の方の名前は弥城洋介やしろようすけ。スポーツがりにしている茶髪に目鼻立ちのはっきりした顔立ちをしている。さらに、さすが運動部といったところで背も高く頑丈な体格をしている。しかも、月に2、3回は学年や学校問わず女子から告白されるような青春を謳歌おうかしているような男だ。ちなみに去年は俺や寛之ひろゆきと同じクラスでよく話をした。洋介は、三国志が大好きらしく、その系統のゲームやアニメもたしなんでいると言っていた。なので、ヲタクに対する理解がある。しかし、学年が変わってクラスが別になってからは話していない。


 女の方の名前は武淵夏海たけぶちなつみ。学年は俺たちのひとつ上の高校3年だ。髪型は編んだ髪の毛を王冠のように頭に巻き付けたような感じ(後で呉宮さんから聞いたのだが、クラウンブレイドという髪型だそうだ)にした茶髪に雪のように白い肌をしている。体型もスラッとしていてモデルみたいな感じだ。ちなみに日本刀ヲタクなのだそうだ。ソースは洋介だ。


 ……とまあ、こんな感じの美男美女の先客が座っていた。


「あれ?もしかしなくても直哉と寛之か?」


 突如として俺たちに声が掛けられた。


「お、おう。久しぶりだな。洋介」


「店員さん、すみません!二人をこっちに相席にしても良いですか?」


「あっはい!畏まりました。では、こちらへどうぞ」


 店員さんは顔を赤らめながら、俺たちを洋介たちのところへ案内してくれた。


 おのれ、コミュ力の化け物め……この恨み晴らさでおくべきか……。


「ご注文はお決まりでしたら、お伺いします」


 「ご注文は」の時点で一昨年位に見た映画の影響でカフェラテ、カフェモカ、カプチーノ!と言いかけたが、それを抑えて俺は真面目に注文する。そうだ、忘れてはいけない。ここはうどん屋であるということを!そんなメニューはここには存在しないのだ!


 注文して内容を確認したあと、店員さんは厨房キッチンへと戻っていった。


「そういえば寛之。何か話でもあるのか?わざわざ昼飯にまで誘ってさ」


「ああ、明後日のことなんだが」


「明後日?何かあるのか?」


「……夏祭りのことだよ。直哉ももちろん行くだろ?紗希ちゃんと」


「……行かぬ」


「な、なぜだ!」


「うちの天使に貴様のような下賎げせんの者を拝謁はいえつさせるわけにはいかんからな」


「じゃあ、その天使の守護は誰がするんだ?まさか、一人で行かせるつもりか?」


「ちっ……分かった。行けば良いんだろ!行けば!」


「……よし、直哉と紗希ちゃんは来るんだな。それじゃあ、折角だし洋介と武淵先輩も一緒にどうですか?」


「うーん、俺はそれで構わないが、夏海姉さんはそれで良いのか?」


「うん、私は全然大丈夫よ」


 集合時間と場所を決めるのは明日することになり、俺たちは注文したうどんを食べた。そのあと、会計を済ませて店を出た。


「それじゃあ、また明日!」


 俺だけ帰る方向が違ったため、店の前で皆と別れた。


 俺は自転車を漕ぎながら、いつも食後に飲んでいる薬を飲むのを忘れていることに気がついた。


「……まあ、別に大丈夫だろ」


 俺はそう思っていた。しかし、その直後から俺は謎の頭痛と倦怠感に襲われた。そして、俺はもうすぐで家に着くという所で急に頭痛がひどくなり、意識を失った。

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