第4話 お泊まり

「これ、好きなのあげる。祥子さんからもらったの」

 真新しい、シルクのパジャマを、箱ごと、日高の前に押し出した。

「これ、YOSHIMURAの?いいの?」

「うん。ほら、私は青着てるの。いつも外はモノトーン系ばっかり着てるから」

「えー、どれにしようかなー」


(可愛いなー)

 頬杖をつきながら、はしゃぐ日高の横顔を見つめていると。

「これにする。白」

「白も可愛いよね」

 はるの言葉に。

「ねえ、私、先にお風呂入っていい?」

「いいよ」

 頷いて。


「はい」

 ふわっと、春風の香りが立って。

「わー、全部YOSHIMURAのだあ」

「うん。全部あげる」

 お風呂道具一式を日高に渡すと、日高は、きゃあきゃあ言って。

 やがてバスルームの扉が閉まった。


(九時かあ)

 つけっ放しのテレビから、時々自分のCMが流れているのを観ていると、はるには、全てが夢みたいで。

 でも。

 あんなに手が届きそうで届かなかった日高が自分の側にいて。

 こんなにも、自分を想ってくれていて。

 いつもなら、九時ごろには日高は隣の自分の部屋に戻るのに。


(今日は)

 シャワーの音で、時々はるの思考は立ち止まった。

「はるー、お風呂空いたよー」

 日高の声に。

「冷蔵庫に飲み物入ってるから」

「ありがとー、はるちゃん」

 日高が髪を拭きながら出て来た。

(やばい、可愛いすぎる)

 一気に緊張してきた。

「私も入ってくる」

「うん」

 目を合わせないようにして。


(どうしよう)

 前にも何回か、こういう場面はあったけど。

 日高が、ベッドに入るなり寝ちゃったから、そのまま静かに抱き合って眠ったけれど。

(あっ、でも)

 もしかしたら、又、寝ちゃってるかもしれない。

 そうだよね。

 髪を洗いながら、そんなことを考えたりして。

 そーっと。

 タオルを取って。

 そーっと。

 バスルームを出た。


(あ、寝てる)

 ベッドルームを覗くと。

 セミダブルのベッドで、日高がかわいい寝息を立てて眠っていた。

 ほっとしたような。

 残念なような。

 グラスの水を一口飲んで。


(私も寝よ)

 静かに、はるも電気を消して。

 日高のとなりに横になった。

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