第14話

 狼男のレオは心配だった。

 父親のオリバーが同行するとは言え、全く安心出来なかった。

 元々気の弱い男だったが、先代の月乙女である妻を亡くして以来、腑抜けと言っていいくらい頼りなくなっていた。

 あの頃は気が弱く見えても、妻ににいいところを見せようと気を張っていたのだろう。


 今では全く役立たずだ。

 月乙女を護る事などで出来そうにない。

 自分が側に控えていられれば、少なくとも物理的な危険は排除出来る。

 だが王侯貴族としての権力を使われたら、レオでは何も出来ない。

 いや、相手をぶち殺す事は簡単だが、それでは逆に月乙女を不幸にしてしまう。

 そこでヴラドに助力してもらう事にした。


「なるほどね。

 そういう事なら、今回に限り糞野郎の舞踏会に出る事にしよう」


「その言い方だと、今まではフィリップス公爵家の舞踏会には出ていなかったのか?」


「ああ。

 あんな、高貴なる者の務めを理解していない屑と、同じ空気を吸うのは嫌だから、一度も招待に応じたことはない」


「それを今回は出席するのか。

 それは流石に警戒されるな」


「それは当然だろう。

 いくら馬鹿でも、それくらいの事は理解するだろう。

 だが大丈夫だ。

 館の中の事は何も心配するな。

 だが問題は館の外だ」


「舞踏会に呼び出しておいて、外で罠を仕掛けるのか?」


「可能性は低いが、絶対ないとは言い切れない。

 館の中で何かあれば、それは主催者のフィリップス公爵家の責任になる。

 それを避けようと思えば、館の外に罠を仕掛けると事になる」


「なるほど。

 だったら館の外に一族の者を配置しておこう」


「狼男を動かすのか。

 気を付けろよ。

 正体がばれたら、御前達の一族だけの問題ではなくなるぞ」


 ヴラドは、狼男の族長であるレオに注意した。

 闇の眷属は人間から恐れ嫌われている。

 その存在が噂されるような事があれば、人間達は恐怖に駆られて、闇の眷属を狩ろうと、大幅な軍事動員を始めるかもしれない。

 それだけは絶対に防がねばならなかった。


 一方レオにも言い分があった。

 貴族の地位を持たぬ狼男の一族は、物理的にしか月乙女を護れない。

 その事はヴラドも重々承知しているはずだ。

 物理的に動けば、必ず証拠を残すことになる。

 それは仕方のない事だ。


「俺達には他にやりようがない。

 その事はお前も理解しているはずだぞ。

 それが気に食わないと言うのなら、人間の護衛を寄こせ」


「おいおい。

 あれほどの大金を毟り取ってやったんだ。

 人間の護衛くらいスミス伯爵家で用意しろよ」


「馬鹿な事を言うな。

 長年困窮していたスミス伯爵家が急に用意した人間の護衛など、何時裏切るか分からん。

 そんな事くらい、ヴラドも分かっているはずだぞ」


「そうだな。

 分かった。

 大公家の仕える人間を派遣しよう。

 だが念のために、一族の者も護衛に付けてくれ」


「おいおい。

 結局俺の一族を付けろと言うのかよ。

 じゃあ最初から素直に認めろよ」


「忠告をしたんだよ。

 俺達だけの問題じゃないとな。

 だから、絶対に狼男の姿にさせるなよ。

 たとえ死ぬことになっても、人間として護衛させろよ」


「分かっているよ」

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