第6話

 ジョーンズ伯爵は次男のジョージから全てを聞き出した。

 元々色事に長じているだけで小心なジョージは、全てを話してしまった。

 ジョーンズ伯爵はその場で小躍りしそうなくらい喜んだ。

 それはそうだろう。

 ジョージを王女殿下と結婚させられるのだ。


 スミス伯爵家は、王家より長い歴史を誇る名門だが、それだけだ。

 王家と婚姻を結ぶのに比べれば、わずかな利益だ。

 だが、問題は王女殿下が妊娠している事だった。

 これは頂けない。

 スミス伯爵家とに婚約中に、王女殿下と不義をしていたのだ。


 王家との絆である妊娠は、ジョーンズ伯爵だけから見れば喜ばしい。

 だが王家から見れば、とんでもない醜聞だ。

 スミス伯爵家に知られたのだから、誤魔化すことは出来ない。

 いや、スミス伯爵家だけならば、王家の力でねじ伏せることがで出来た。

 しかしヴラド大公が知っているとなると、それも出来ない。


 婚約破棄で、結納金の百倍も賠償金を払うのは非常識だ。

 だが、王女殿下の妊娠を知っていて、それを黙る口止め料と言うのなら理解出来る。

 いや、そうでなければ理解出来ない。

 しかも悪いようにはしないと言う。

 口裏を合わせてくれると言う事だろう。


 ならば払うしかない。

 大富豪と言われるジョーンズ伯爵家であろうと、結納金の百倍返しは少なくない金額だ。

 庶民の家と違い、貴族の入り婿は家を譲ってもらう事になる。

 庶民ならば、婿をもらう家が、婿の実家に結納金を支払う。

 だが貴族は、婿を入れる家が、婿入りする家に結納金を支払う

 全く逆なのだ。


 スミス伯爵家にジョージを婿に入れると言う事は、伯爵家を買い取るのと同じ意味がある。

 普通なら、家の年収の十倍の結納金を支払うのだ。

 早い話が貴族家の売買と言える。

 まあ、女系の血が残るから完全な売買ではないが、男系が尊ばれるこの世界この国では、男系側本意の仕来りが多い。


 スミス伯爵家の年収の十倍を、既に結納金として収めているのだ。

 その金額の百倍は法外過ぎる。

 ジョーンズ伯爵家が直ぐに動かせる現金や宝石を、全て掻き集める必要がある。

 だがそれでは、非常時に身動きが出来なくなる。

 現金以外の土地や権利で話を付けたかった。


「大公殿下。

 我が家でも直ぐに現金で全額支払うのは厳しいのです。

 何とか他のモノで納得してくださいませんか」


「何を代価にすると言うんだ」


 ジョーンズ伯爵家が持ち出してきた代価は色々あった。

 だが不動産は、山林や荒地など、二束三文の価値しかないモノだった。

 他には返済出来そうもない貧乏貴族や庶民への貸付証文だった。

 だがヴラド大公は、その借用証文や山林荒地で賠償金の半分を認めるようにスミス伯爵に助言するのだった。

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