橋の上、僕は町に沈む夕日を見た。

雲、空、ビル、それからおばけの頬が淡く染まる。綺麗だった。不敵な笑みが、綺麗だった。


「少年、私を見ても何も出ないぞ。目の前の美しい光景を目に焼き付けろ。」


「...ううん、おばけの方が美しいよ。」


僕は彼女から目を逸らしながらそう言った。ふと、彼女がこちらを見た気がしたけど、僕は知らないふりをした。どんな顔をしてたんだろう。少しして、鈴を転がしたような笑い声が響いた。

赤い町が、僕らを温かな目で見ていた。


帰りたくないと駄々をこねる僕に、おばけは指切りをしてくれた。改札を挟んで大きく手を振る。


「また会おうな。」


そう言われた気がした。

彼女と一緒に必死で取った大きなおばけのぬいぐるみ。食べきれなかった駄菓子。窓の外を見ると、不敵な笑みを浮かべた僕がいた。



家に帰ると、ママが最初に僕をぶった。真珠みたいな涙を流して、それから骨が折れるくらい抱きしめた。パパは僕の両手を取って、今日一日何をしていたかゆっくりと聞いた。ママにぶたれた後がまだヒリヒリして、ママの泣いた顔がショックで、僕は言葉をつまらせながらゆっくりと話した。深呼吸はしなかった。


学校が怖かったこと。

ぺしゃんこになる気がしていたこと。

家を出てすぐ街へ行ったこと。

おばけに会ったこと。

たくさん遊んだこと。

綺麗な夕日を見たこと。

指切りしたこと。

今日がどれだけ楽しかったか。

世界がどれだけ美しかったか。

僕は丁寧に丁寧に、ひとつずつ言葉を選びながら、本当にゆっくり話した。

パパはそれを否定も肯定もせず、ただただ聞いてくれた。

それから、僕の話が終わったことを確認して口を開いた。


それで、僕はたくさん叱られた。でも、たくさん謝られた。どんどん息が楽になって、僕はもう深呼吸しなくてもいいのだと思った。それからはもうあまり覚えていないけど、僕は久々に大泣きした気がする。

パパがおばけの名前を聞いたけれど、僕は僕の名前すら教えていないことを思い出した。

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