第3話 アーマーシステム

 どうあがいても開きそうにない窓と格闘するなか、一樹の視線は再び視聴覚室の前方にあるスクリーンへと移った。


「……窓より……いまはこっちのほうをたしかめるほうが先な気がする」


 指をさしたスクリーンにはいまだに『詳しくは視聴覚準備室まで』の文字が浮かび続けている。


「……あちゃぁ、いきなり忘れかけてた」

「でも……その『詳しく』ってなんなんやろね」

「まぁ、それはたしかめるしかないだろうな」


 脇響輝が真っ先に歩き出した。その先は、スクリーンとは反対側の奥。準備室というプレートが貼られたドアの前。


「あっ、待って。うちも行く」


 脇響輝のあとをついて駆け寄る高森喜巳花。一樹もなんとなく、脇響輝についていこうとした。


「あたしはここで残ってる。ふたりのこともあるし」

 そういい教室でいまだ黙っているふたりに視線を向ける三好奈美。


 ふたりのことは三好奈美に頼むことにして、三人で準備室のドアを開けた。そして、脇響輝を先頭にして部屋に入るときだった。


「だれだ!?」


 急に声を荒げたのは脇響輝。あまりに唐突だったため一樹と高森喜巳花を含めて大きく後ろに飛びのく。


「なに? どうかした?」

 三好奈美が声をかけるが、脇響輝は無視して準備室の奥へと駆けだす。


  そのまま、向こう側のドア……すなわち、廊下につながるドアを思いっきり開けて、顔をのぞきこませていた。


 しばらくして、首をかしげつつドアを閉める脇響輝。


「……どないしたん?」

「……いや……、なにか物音……けはいがしたんだけど……いや……気のせいだ」


 脇響輝の表情から、気のせいというのは、本気でそう思ったのではないとわかってしまった。


 きっと、一樹たちに気を使っての一言だったはず。


「それより、この部屋になにかがあるはず……。探そう」


 おそらく、脇響輝はそれなりに気が動転しているのだろう。気づいてないらしいので一樹が脇響輝の後ろを指さした。


「探す必要ならなさそうだね」

「え?」


 一樹は脇響輝の横を通り過ぎそれに手をかけた。DVDケースが二冊とショーケースが三つ。


 ひとつは空だが、残りふたつにはなにか入っており、その前にDVDのケースが置かれている。


 ケースの中を開けてみると、無地のDVD が入っていた。


「……これを見ろってことなのかな? でも……プレイヤーとかある?」

「なに言うてるん? ここ、視聴覚室やで?」


 あぁ、そういえば……。


 しばらく、辺りを調べるとプロジェクターに映すためのプレイヤーが見つかった。円盤をセット。再生ボタンを押してみる。


「……なにが再生されるんだか……」


 カーディガンにポケットを入れ適当なところにもたれる脇響輝。


一樹たちも同じように準備室の窓からプロジェクターに映し出される画面を見ていた。


「え? なに!? なにが起こったの?」

 視聴覚にいる三好奈美は映像が切り替わったスクリーンを見て叫ぶ。


 説明のために一樹が向こうに行こうとしたが、それより先に映像がタイトルコールを始めた。


『楽しい楽しい! プットオンシステム使い方講座~!』


「「「あぁ!?」」」

「……ごめん、マジでなに!?」


 唐突に始まるゆかいなコール。やわらかい女性の声で謎のタイトルコール。


 なにがなんだがわからなかったが、次に出てきた映像でピンときた。


 表示されたのは腕時計みたいなリストバンド。それを見て、反射的にショーケースのほうへと目を向けた。


 あのDVDケースが置いてあったケースの中に、その映像と同じものがふたつ……。


 ……でも、どうしたものか……不用意に触るのは……。


「よし、とりあえず持っていくぞ」


 まったくそんなことを気にしない脇響輝はさっさとそのリストバンドをふたつとも持って、視聴覚室のほうへと走っていった。


 映像はお姉さんがそのリストバンドを腕に装着している部分に移り変わっていた。


『これはみなさんの攻撃力と防御力を格段に上げるための装置なのです。これを使えばどんな敵だってイチコロ!


 さぁ、テレビの前のみんな、準備はいいかな?』


「……敵? なんの話?」


 三好奈美はほかのふたりと既に話ができているらしく、かたまり集まっていた。だけど、状況は飲みこめていないみたい。が、当然だろう。


 その間、脇響輝はもうひとつを机の上に置きつつ、そのリストバンドを腕に巻く。

「……あの……、あまり不用意に従わないほうが……」


「あ? いいじゃん。なんかあったら、そのときはそのときだろ」


 基本的に脇響輝は楽観的な性格なのだろう。一樹の警告など気にも止めず、スクリーンとリストバンドをにらめっこする。


『さぁ、レッツモーフィンタイム! 『プットオン』の掛け声と一緒に、リストバンドのボタンを押してみよう! いくよ~』


 スクリーンの中にいるお姉さんのテンションは相当なまでに高い。たぶん、高森喜巳花の数倍……。


 対して、『することもないし』というような感覚でリストバンドのボタンを押そうとする脇響輝。


「あれ? 響輝、掛け声やで、掛け声。ほら、お姉さんの言ってるとおりにしいや」


 やたらとニヤニヤしながら腕を指さす高森喜巳花。脇響輝はそんな彼女をしばらくにらみつける。


 が、やがて小さく「……プットオン」とつぶやきボタンを押した。


 すると、脇響輝の体が薄く輝きだした。同時に現れるのは空中に浮かぶ映像……いくつのもパーツが脇響輝の周りを回り始める。


 これは……本で見たことある……。

「……もしかして……ホログラム?」


「え? ホロ……? なに?」

『アーマースタンバイ、システムオールグリーン……』

「あぁ? あぁ?」


 なんか機械的な声が聞こえてくる。脇響輝は自分の状況が良くわかっておらず混乱状態。そんななか、リストバンドはさらに音声を続ける。


『プットオンスタート』


 たちまち、映像の状態だったそれらはやたらとリアルな感じに変化、脇響輝の体へと装着されていく。


  やがて、すべての動作が終わり、沈黙。で、なんかアーマーをつけた脇響輝が誕生していた。


 そう……それは……。


「うぉぉお!? 変身だっ!?」

 思わず、一樹は目を輝かせ叫んでいた。

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