スター・ウォーズ ★★★★ 1977/01/01

スター・ウォーズ ★★★★ 1977/01/01 ロジャー・イーバート記


 映画を見ていると、まれに幽体離脱のような体験をすることがあります。ESP(超能力者)たちがそのようなフレーズを用いるとき、彼らは体だけを残して心だけ中国やピオリアや遥か彼方の銀河系(galaxy far,far away)に自分自身の霊体を飛ばせている感覚について言及しています。私がこのフレーズを使うときはただ、自らの想像力が実際は映画館に存在していることを忘れて、スクリーンの上にあると思っていることを意味しています。不思議なことに、映画の中の出来事は現実のようで、私もその一部になっているような気がします。


『スター・ウォーズ』はかような印象の作品です。『俺たちに明日はない』や『叫びとささやき』の芸術性から『ジョーズ』の巧妙な商業主義、『タクシードライバー』の残忍な力に至るまで、他の体外映画のリストは短くて奇妙なものです。どのようなレベルであれ(時には全く分からなくなることもあるが)、これらの映画はすぐに力強く私の心を捉え、心の棚や分析的な余裕を失ってしまうのです。映画の中で起こっていることは、私の身にも起きていることなのです。


 しかし、『スター・ウォーズ』の体験をユニークにしているのは、それが無邪気で、しばしば笑えるレベルで起こっているということです。(イングマール・)ベルイマンのキャラクターの心理的な苦痛からサメの顎の無慈悲な噛み砕きまで、様々な暴力は映画に深く引き込むものです。恐ろしい映画というのは、私たちの想像力を最も直接的に刺激してくれるものなのかもしれません。しかし、『スター・ウォーズ』には暴力はほとんどありません(その場合でも、基本的には血を流すことなく表現されている)。その代わり、現代映画の煩雑さがすべて消え去ってしまうような、とても直接的でシンプルなエンターテイメントがあります。


『スター・ウォーズ』はおとぎ話であり、ファンタジーであり、伝説であり、そのルーツはいくばくかの私たちの誰もが知るフィクションにあります。黄金のロボット、ライオン顔のスペース・パイロット、車輪のついた不安定な小さなコンピューターは、『オズの魔法使い』のブリキ男、臆病なライオン、案山子がもとに違いありません。銀河系の端から端への旅は、数え切れないほどの何千ものスペースオペラに出てくるものです。ハードウェアは『2001年宇宙の旅』『フラッシュ・ゴードン』から、騎士道はロビン・フッドから、ヒーローは西部劇から、悪役はナチスと魔術師を掛け合わせたものです。『スター・ウォーズ』は、私たちの記憶の中に埋もれていた絵物語の空想を想起させますが、それがあまりにも見事に行われているため、(科学雑誌)「Amazing Stories」の小冊子を読まなくなってしまったときには捨てたと思っていた古いスリル、恐怖、そして爽快感が再び蘇ります。


 この映画がこれほどまでにうまく機能しているのにはいくつかの理由がありますが、それは壮大な特殊効果だけではありません。確かに効果は良いのです。素晴らしい効果は『サイレント・ランニング』や『2300年未来への旅』などの映画でも使われてきましたが、興行成績の記録を更新することはありませんでした。つまり、『スター・ウォーズ』の鍵はもっと基本的なところにあると思われるのです。


 この映画は、ヒトの知る最も基本的な物語の形である旅立ちという純粋な物語性の強さに依存しています。私たちが覚えている少年時代のすべての最高の物語は、ヒーローが艱難辛苦の旅に出て、旅の終わりに宝物を見つけ勇敢さを身に着けることを期待するものでした。『スター・ウォーズ』で、ジョージ・ルーカスはこのシンプルでパワフルな枠組みを宇宙空間に展開しました。我々はコロンブスのように地図の端から落ちることはありませんし、先史時代の怪物の新大陸や不死の女神に支配された失われた部族を見つけることもありません。しかし地球上ではともかく、宇宙では何でも可能であり、ルーカスは一歩先んじて、その大半を見せてくれます。『スター・ウォーズ』の登場人物たちは、たいへんたくましくシンプルに描かれており、私たちが共感できるような小さな弱点や大きなとるにたらない希望をたくさん持っているので、私たちはすぐに感情移入してしまいます。そして、ルーカスは興味深いことをします。彼は主人公に宇宙を横断させ、ダース・ベイダー、悪の帝国、そして素晴らしいデス・スターの軍勢との戦いに送り出すとともに、私たちに多くの特殊効果を与えてくれます。


 私にとって最も魅力的だった瞬間は、惑星タトゥイーンの奇妙な酒場でのことでした。地球外生命体のアル中や虫の目をしたマティーニを飲む人など信じられないような生き物がバーに並び、ルーカスが彼らに普遍的な人間の特徴を見せているのを見て、私は感嘆と喜びを感じていました。『スター・ウォーズ』は本当に不思議な映画の発明を私に与えてくれました。ここには、もの好きさとファンタジー、シンプルな驚き、そしてそこはかとなく洗練されたストーリーテリングが混在していたのです。


 スタンリー・キューブリックが1960年代後半に『2001年宇宙の旅』を製作していた時、彼は宇宙空間を描く特殊効果に全力を注ぎましたが、最終的にはエイリアンを全く見せないことにしました。しかし、『スター・ウォーズ』が示したものは、全くちがうものでした。異星人の生命体の可能性を楽しむ映画は、少なくとも帝国のスペースクルーザーと反乱軍との対立と同じくらい楽しいものです。


 そして、この映画唯一の弱点であるデス・スターへの最後の攻撃があまりにも長く続いてしまうことも、先のことに通じるかもしれません。もしかしたら、ルーカスは特殊効果に多くのお金と労力を注いできたので、それを削られるのが耐えられなかったのかもしれません。しかし、『スター・ウォーズ』の魔法は特殊効果によってはじめて演劇の形をとることができます。それにこの映画の核心は、愛すべきひと(とそうでないひと)たちにあります。


引用元:https://www.rogerebert.com/reviews/star-wars-1977

※Great Movies所載の特別編のレビューではなく、劇場公開当時(すなわちエピソード番号も副題もついてないほう)のレビューを訳しました。

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