第53話 利用価値が喪失した女

私は、新卒からずっと、

30年間図書館で働いている。

本にも寿命があって、

古くなったり、何年間も誰からも借りられない本は、

捨てられるんだよね。


利用価値喪失、という赤いスタンプが押されて、

捨てられていく本たち。


私は思う。


ああ、これは私だ。


生まれたものの、誰にも借りられずに、誰にも一度も開かれずに、

利用価値喪失という赤いスタンプを押される。


ああ、これは私だ。


だからといって、私に何が出来る?

買い取る?

もらう?

無理無理。

一年に何百冊も捨てていくんだもの。


そしてまた買うの。

何百冊も。


それも同じような本をね。


捨てる本にも、

買う本にも、

同じことが書いてある。


馬鹿馬鹿しい。


これって人間も同じなんじゃない。


死んでいく人間と

生まれてくる人間が

同じではいけないのよ。


生まれてくる人間に

死んでゆく人間の価値を

押し付けてはいけないの。


で?


で、私はどうしたらいいのよ。


まだ死には早い。

生まれてからかなり経った。


ねぇ

私はどうしたらいいの。

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