2‐1 黒い戦士

汚染獣は、体がビルと並ぶくらい巨大だった。しかし見た目はそれこそノラネコのようで、茶色い縞模様がはっきりと見て取れる。それも、野生動物が変化しているからなのか。ミオコが言ったことを思い出した。

管制塔の音声が、スピーカーから流れてくる。

「目標、ヴァロ三号機により目視で確認」

「遠距離攻撃を開始。都民は避難し終わったのよね」

「はい」

「なら重火器の使用を許可するわ」

「了解」

よく分からないまま話が進んでいくが、むしろ心強かった。腕を組んで指令を出すカオリが、目の裏に浮かんでくる。

「チハル君、少し待機していて。目標をもっと弱らせてから、攻撃するタイミングを知らせるわ」

返事をするよりも前に、大きな爆発音と共に砲弾が放たれる。壮観な光景だった。

けれど、汚染獣に当たる気配はない。素早く、身をかわしているようだ。それどころか、こちらに近づいてきているような気がする。

管制塔も、異変に気付いたようで、

「三号機と汚染獣の距離が、短くなっていきます」

と鋭い声が飛んだ。

「気付かれたか……分かったわ、ヴァロでの近距離攻撃に切り換えます」

腹の下がスっと冷えるように感じた。それでも、前に進む。

来た。すごいスピードで飛び掛かってくる。慌てながらなんとかよけると、すぐに肩でぶつかっていった。見るに無様だろうが、ほかに方法が思いつかないのだ。次いで仰向けになった体にのしかかり、地面に押し付ける。

とはいえ、敵だっておいそれとやられるわけにはいかない。もがいて手の内からすり抜けると、今度はヴァロを押し倒す。そしてグワリと大きな口を開けると、左肩に噛みついた。

「うわっ」

その瞬間に、激痛が走る。機材の一部としてなじんでいたはずのランプが、赤く点灯して、操縦室を煌々と照らす。

「機体破損、瘴気が侵入しています」

「マスクをつけて」

顔をしかめながら、ハッチ横にかけられたガスマスクを手に取る。

「なんで怪我をしていないのに、痛むんですかっ」

「シンクロしている証拠よ。どうしようもないわ、耐えて」

肩を押さえながら、空いた方の手ででつかみかかる。

その時、汚染獣の瞳を見た。緑とも青ともつかない光を宿しているのに、驚くほどに凪いでいる。その奥にあるのは―知性?

汚染獣は、何か考えをもって襲撃しているのか。だとしたら何を思って、何のために。

「チハル君、危ない!」

カオリが叫ぶ。考えにふけこみ、ぼうっとしていた。声に気付くが、汚染獣はいつの間にか大口を開けて、覆いかぶさろうとしている。

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