終末世界は電子と白く

空戯K

序章  白き終末

『終わり』ってやつは、唐突にやって来るらしい。


「本日限りジェラート全品三〇〇円で販売しておりまーす! 是非お立ち寄りくださーい!」

「はい……はい。誠に申し訳ございません。その件につきましては――」

「あれ? このレストラン、外装ホログラム変えたんだね。前よりオシャレじゃん!」


 それは、オペラのように劇的で無く、芸術のように爆発的で無く、人生のように色鮮やかなものでも無い。


「おい、昨日のドラマ見た? ほら、最近売れてるバーチャル女優が出てるやつ!」

「我々、民和党は常に区民の皆さま方のお声を実現してゆきたいと考えております! そのために、是非皆さまの清き一票を我が党に投じて頂きたく――」

「マジ暑いわー……。早くモールの中入ろうぜ」


 何の予兆も無く、ただ機械的に淡々と、定められた運命の通りに訪れる。


「てかアンタ、まだそんな薄っぺらいスマホなんか使ってんの? 絶滅危惧種すぎっしょ!」

「ママ。今日はこっちのじんこーしょく食べたーい」

「ねぇねぇ! 今すれ違った人、超カッコよくなかった!?」


 もし今日というこの日が後世に伝わることがあるのなら、未来の人々は何という名をつけるのだろうか。


「お兄ちゃーん、私あのジェラート食べたーい!」

「ん? ああ、あの移動販売車キッチンカーのことか。……でも結構人並んでるし、別の店じゃダメ?」

「えー! やだー! あのイチゴジェラートがいいの!」

「……分かったよ。でもずっと外で並んでたら暑いから、紗月さつきは先に映画館行って涼んでな」

「うん、ありがとうお兄ちゃん! じゃあ私、先に行ってるね!」


 時は西暦二〇九四年。

 世界の人口は、とうの昔に一〇〇億人を突破し、しかしそれとは反比例するように日本の人口は六〇〇〇万人を割って久しい。

 深刻化する温暖化の影響で平均気温は上昇の一途を辿り、一世紀前に異常気象と称された気候は、今や負の風物詩ふうぶつしとして多くの人々は順応してしまっていた。


「はぁ……。しかし、本当今日は暑いな……」


 だがその全てが、今日、『終わる』。


「……ん? 何だアレ」


 何時いつだってそう。

『終わり』は唐突にやって来る。


「こんな真っ昼間から――――流れ星?」


 ギラギラときらめく太陽が浮かぶ蒼穹そうきゅうに描かれる、純白の軌跡。

 それらは上空で枝分かれのように分散していき、やがて。


 その時、人類が最期に感じたものは、目を覆いたくなるほどの白き閃光と、凍えるほどに超常的な――――『寒さ』だった。


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