大村流拳法伝説

よほら・うがや

第1話 序章

 私の名前は、加藤という。現在の年齢は…、確か100歳を超えているようにも思えるが、正確にはわからない。年老いて、記憶も途切れがちだ。しかし、鮮明に覚えていることがある。

 私は、若いころから数十年間、拳法界の審判をしていた。私がまだ駆け出し審判のころ、私は、ひとりの屈強で、しかも頭脳明晰な人物に出会った。その者こそ、明治拳法界を席巻し実に巨大な足跡を残した、大村小次郎そのひとであった。


 大村小次郎。

 素性は、まったく不明だ。明治初年、降ってわいたように現れ、東京麻布に開かれた拳法塾に入門した。大村小次郎は、剣術の達人だった。江戸柳生流の免許皆伝を持っていた。そのような人物が、拳法界に殴り込みをかけてきたのである。停滞していた拳法界を活性化し、さらに巨大な旋風を引き起こすのは必然のことだったのだろう。


 ここに私は、大村小次郎が改革し巨大な足跡を残した、拳法界の出来事を、審判の立場からつぶさに解き明かそうと思う。

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