四章 裏切りの恋。「オキナグサ」

  四章 裏切りの恋。「オキナグサ」


残り――――二十六日


  ―回想―


いつからだろう、ここ数日は同じ夢を見ることがよくある。

これは本当に夢なのか、それとも僕の記憶なのか。

「君は将来何をしたいか決まっている?」

「あなたは誰なんですか?」

「今はまだ言えないんだ、ただこの先出会うことになる、とだけ言っておく。

それでさっきの質問だけど、どう?何をしたいのかな?」

確かその時の僕はまだ六歳だったかその時の記憶がはっきりしない。

「僕は……何も決まってない」

「うん、そうだよねまだ少し早かったかな。だけどこれから先、「選択」を迫られる時が必ず来ると思う。だけど、別に急いで答えを出す必要はないし失敗だってすると思う、でも絶対に諦めないで欲しいの

「せんたく?」

「そう、選択。人によって選択はそれぞれだけど必ずくるよ」

「お姉さんも「選択」をしたの?」

「もちろん私も選択したよ、でもその時はその選択が正解か間違いだったのかは分からなかった。けれど今なら分かるその選択が「正解」だったって」

「今だから言えるけどもしかしたら、初めから「正解」なんてなかったのかもしれない」

「それじゃあ私はそろそろ行くね、けれどもし私が助けを求めたらその時は――」




「おはよう、隆樹くん。相変わらず眠たそうだね」

どこかで聞いたことがある声。

当たり前か二日前に一緒に仕事をしていたのだからだ。

「なぜ葵がここにいるんだ?仕事は夕方からじゃないのか?」

「この姿を見て何か気づかないの?」

もちろん気づいていた。その服は僕が通っている高校の制服だからだ。

「もしかして、葵って僕と同じ高校に通っていたのか?」

「そうだよ。言っていなかったっけ?」

「いや、初耳だ。それにしてもなぜ僕の家の前にいるんだよ」

「それは、一緒に学校行こうと思ってさ」

「僕は行かないぞ。変に目立ちたくないからな」

「目立つ?どうして?」

「それは…」

葵は性格はあれだけど見てくれは悪くはないんだよな。

顔立ちは整っているし、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。

「どこを見ているのかな、隆樹くん?」

「どこも見てないよ。とりあえず一緒に学校へは行かない」

「いいよ、勝手に後ろをついていくから」

「好きにしてくれ」

結局彼女は教室の前まで着いて来た。そのせいかなんだか教室の中もざわついている。

「それじゃあ、またね。授業が終わったら正門前で待っているから」

「ああ」

本当に迷惑な奴だ。僕は波風立てないで高校を卒業したいのに。


     ―放課後―


今日もこれから仕事なのか。というか仕事なのに給料もでない。

ここまで酷い仕事聞いたことないぞ。まさにブラックだな。ここまで黒いとは…

そういえば、まだ天蓋先生の新刊が買えていないんだった。

しょうがない、今日は仕事を休むしかないな。

僕にとってはどんな仕事よりも本の方が大切だ。

見つからないように帰るか。後でメールでも入れておけば問題ないだろう。

学校を出て5分くらい歩いた所だった「隆樹くん、どこに行くのかな?」

声を聴くだけで彼女が怒っているのが分かった。

「いや、悪かったよ。実は…」

「用事があるなら言ってくれれば良かったのに、おいて帰るのは酷すぎ」

怒られるものかと思っていたのに案外物わかりがいいのか?

「これからはもう少し相談してよ」

「分かった。悪かったな」

「その代わりと言っちゃなんだけど、今回の仕事は隆樹くんに少し

頑張ってもらおうかな」

「その前に本屋に行くんだったね」

「ああ、頼むよ」

「満足そうですね、隆樹くん。」

「まぁな。やっとお目当ての本を読めるからな」

「それで今回の仕事はどんなことをするんだ?」

「よく聞いてくれた、今回の魂は四十八歳の元会社員、名前は岡崎おかざき 多茂津たもつ、未練は――家族だそうです」

「それだけなのか?」

「そうなんだ。私に送られてきた詳細それと写真だけなんだけど。それに私もまだ一度もあった事がだよね」

「それだけじゃあどうしたら成仏するのかわからないな」

なんていい加減な仕事だ。自分たちで聞き出せってことなのか?

「とりあえず会って本人に話を聞こうよ」

「だな。それでどこに向かえばいいんだ?」

「この道を真っ直ぐに行ったところにある河川敷だよ」

「いた、多分あの人に間違いないと思う」

葵が指を指している方向を見るとそこには写真に写っている男性に似ている、

いや本人がそこにいた。

「あの―岡崎 多茂津さんで間違いないでしょうか?私たちはあなたの未練を断つお手伝いに来ました。私の名前は本庄 葵と申します。それでこちらは」

「宝田 隆樹と言います」

なぜだか、この男性は不服そうな顔をしている。今にも叱責してきそうだった。

「あんたらには関係ない。別に俺は成仏がしたいとも未練を断ちたいとも言っていない。勝手なことはしないでくれ」

「そうはいきません。浮遊魂をそのままにして置くと自分の意志と関係なく

悪霊となって人に迷惑をけることにもなります。」

「まだ誰にも迷惑かけてないだろ」

「これからそうなると言っているんです。どうか私たちにお手伝いをさせてください」

「あんたらがなんと言おうと、俺は誰の言うことも信じいと決めているんだ。

頼むから、帰ってくれ」

俺は知っている、こういう頑固な人にどれだけ真っ直ぐ言っても効果がない。

そんな時には――

「今日はとりあえず帰るぞ」

「えっ?」

「相手に対話の意志がない状況じゃこのまま話しても無駄だ」

「それでは多茂津さんまた来ますので」

「何回来ても君たちに協力するつもりはないよ」


「どうして、諦めてしまうの?」

「さっきも言っただろう。今は話しても無駄だって」

「そうかもしれないけど…隆樹くんには他に手はあるの?」

「一応、あるにはあるが。葵にも調べてほしいことがある」

「分かった。そういう事なら任せて」


     ―数日後―


お久しぶりです多茂津さん。

「なんだ君か今日は一人で来たのか、もう一人のほんじょ――」

「本庄 葵です。ちなみに今日は彼女は来ていません。僕だけです」

「それでなんの用だ、前にも言ったが君たちの話は信用しないし聞かない」

「それでも、今日は聞いてもらいます」

僕は食い下がるように言った。

「好きにしてくれ」

彼はそう言いその場で寝そべってしまった。

「では、岡崎 多茂津さんあなたについて少し調べさせてもらいました。

あなたは生前、会社を経営されていたらしいですね。それにお子さんにも恵まれあなたは何不自由なく暮らしていたとあります。表向きには」

「本当はあなたが子供の時も会社を立ち上げる時もとても

苦労していたんですね。小学校では給食費を払うことも苦しく大学進学することもできなかった。ですがその苦労もやっと実ったということでしょうか、あなたは小さな会社でしたが企業することに成功。

それからも楽な道のりではなかったよですが会社を一部上場企業にすることができた」

「だがこれでまだ終わりではなかった。そうですよね?」

「君は全部知っているのか。ああそうだ、全部君の言う通りだよ」

彼はすべてを諦めたかのように肩の力が抜けていた。

「本当の悲劇はここからだった。あなたは騙されたんですよね、かつて親友だった人に」

多茂津さんは何も言わなかったが、話を続けることにした。

「親友だった彼はあなたの会社で副社長という立場であなたを支えてきました。ですがそんなある日、彼が横領をしていたそれも5億ものお金を。そのことに気づいてしまった。それでもあなたは悩んだ。彼がそんなことをするはずがないと。もしそれが事実だとしても何か深い理由があるんだと。だからあなたは待った、自分から言い出してくれるのを。

けれどいつしか多茂津さんが知っている昔の親友ではなくなっていた。

あなたに横領のことを知られたことに気づいた親友だった彼はある行動に出たんですね」

「そうだ。あいつは私に全部の罪を擦り付け警察に告発をしたんだ」

「それが悲劇の始まりだった…」

「多茂津さんは警察で事情聴取を受けたが証拠不十分で釈放、だが会社に戻ってみると多茂津さんの席はなく事実上、解雇となっていた。しかも社長の席には親友が座っていた」

「しかも不幸は会社だけでは終わらなかった、家に帰ると――」

「もういい!それくらいにしてくれないか?これ以上俺にどうしろって言うんだ」

「向き合うんですよ今この現実と」

「そんなの綺麗ごとでしかない。分からないよな君には、まだ高校生だしな」

「そうですね分かりません。なぜあなたが今もまだこうしてここでじっとしているのか」

「ならどうしろって言うんだよ、教えてくれよ。俺は見限られたんだよ、会社にも家族にも。信じていた親友にも、なのに他に誰を信用しろって言うんだよ」

「だれも信じなくてもいいんですよ。ただ自分がこれまで成して来たことだけを自分が見たものだけを信じればいい」

「そのためには今、あなたがするべきことは一つです。今、家族どうしているのかを自分の目で確かめるんです。僕に言えることはそれだけです」

彼は、いや多茂津さんは悔しそうで、どこか寂しそうに泣いているようだった。

そうだろう、もし僕が同じ立場ならすべての元凶である親友を――

「ありがとう。やっとこれで少し吹っ切れた気がするよ。君は今までに会った人とは何か違う目をしているようだ、うまく言葉にはできないが」

「宝田くんだったかな?悪かったね、初めて会った時に君達に八つ当たりをしてしまって。本庄さんだっけ?その子にも謝っといてくれないか」

「いいんですよ。僕達は全然気にしてませんから。彼女にも一応伝えておきますが」

「君は他の人たちと何か違う目をしているようだ、うまく言葉にはできないが」

「いえいえ、仕事ですので。僕は他の人と何ら変わりはないですよ」

「それじゃあ私は行くよ。本当に助かったよ」

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