ロスト・ハート

立花戦

破滅の少年とスパイの美少女?

第1話破滅の嚆矢

真夏の東京は非常に暑い。

青空と蝉時雨せみしぐれ

余計に暑く感じるから・・・。


「うへぇー、すごい暑いなぁ。

優衣ゆいは平気か。

どこか休もうか?」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。

さっきカフェで休んだばかりだから」


優衣は今日も天使のように

笑う。同い年で同級生でもある

兄妹、一年前にいじめられていると語り中学2年から引きこもって

しまった。


きらめく長く伸ばした黒髪には右は紅葉もみじの髪飾りしている。

大きくキレイな瞳。

肌は雪をあざむく白さ。

白のワンピース姿は完全に天使!

こうして、一緒に行くのも優衣は

いじめられ子と遭遇しないか恐がっていて勇気がいるのだ。


「あっ、おばあさんが

困っている!

あの、大丈夫ですか?」


僕と優衣は手を繋いで街を歩いていると、スーパーの袋を持つ

おばあさんを発見すると早足で

近づき声を掛けた。


「うーん、足腰が悪くってね。

青になっても渡れない」


「それなら、わたしが荷物を

持ちます!それなら

歩けますか?」


困っている人がいれば無意識に。

身体が動き助けるのは小さい頃から知っていた。

僕も手伝おうとしたが、袋を持つほどじゃないと思い留まり、

どうしようと悩みけっきょく、

ついていくことだけにした。


「ありがとうね。若いのに

立派で助かったわ」


「ううん。当然の事をしたまで、

ですよ」


「それじゃあね。

若いカップルさん」


・・・わかいカップル。


「お、お兄ちゃん。

わたし達って周りから

そう見られているのかな?」


頬を赤く染まった優衣は上目遣いでそんな回答を困る問いをした。


「そ、そうじゃないかな。

でも妹だから、そんな目で

見てないから安心してくれ」


妹にかわいい姿と恋人と

間違われたことに頭がパニックを

起こし変な回答をする。

兄として妹が好きではないと答えたけど本当は優衣が大好きだ。


(まさか、初恋が優衣だって

言えないし、この想いは、永遠に封印すると決めているんだ!)


「あっ!泣いている子供がいる」


「本当だ」


住宅街の公園で泣いている姿の

子供が見えた。少し遠く泣き声。

優衣が走ったので、僕も走り隣に走りスピードを合わせる。


「ハァ、ハァ・・・ねぇ、

大丈夫。迷子になったの?」


優衣は、屈み視線を子供と合わせると優しく声を掛ける。


見た目からしておそらく幼児の男の子。優しく微笑む美少女に

息を飲み、どう答えればいいか

しどろもどろになっている。

わかる、わかるぞ!あんな天使の美少女に微笑まれたら、

泣くのも忘れてあせる気持ちは。


「あ・・・その・・・・・」


変わりに僕が声を掛ける。


「迷子かな?お母さんが

見失ったのかい」


「うん。そうなの!

あそんでいたら、とおくいて。

こうえんにもどったら

おかあさんがいないの」


遊んで遠くか・・・。ズボンの

内ポケットからスマホを取り出し、時刻は午後2時。


「よし、近くに探してみよう」


「うん。お姉ちゃんと手を

繋いでママを探そうねぇ」


「うん!」


どうやら、僕が妹と手を再び繋ぐのは見つけてからになるか。


「よく行く道はある?」


前へ進む僕は、後ろに振り返りたずねる。


「うーん、あそことあそこ」


数分後、探し続けすぐに見つかった。子供は手を振り母親は

頭を下げ、お礼をした。


「それにしても、お兄ちゃん

よく分かったねぇ。

どうして、分かったの?」


「いや、簡単だよ。子供の泣き声で駆けつけないとなると

公園の周辺はいない。

そして、時間は午後2時。

長く泣いていたらお巡りさんか

誰かが声を掛けるはず。

さき、公園に到着したばかりと

思って後は、母親とよく通る

道にあの子に聞いて歩いて

いて、ひたすら探しただけ。

だから、賭けだったよ」


僕は、ゲームやラノベやマンガなどの推理がちょっとある作品を読んでいたら

自然と推論を立てたりする

ことが自然とできるようになった。才能なのか、培ったものか

分からない。それでもつたないが。


「えへへ、さすがお兄ちゃん。

かっこいいよ」


「あ、ああ。ありがとう」


僕が妹を女の子として見るように

なったのかいつだっただろうか。

いつも、満面な笑みを向けられると、そんな事を考えてしまう。


目的のゲームショップにたどり着いた。二人で対戦できるゲームを

僕と優衣の折半せっぱんして購入する。

店を出て家路にく。

喧騒がない静かな住宅街を二人で歩く。


「お兄ちゃん。わたし、いつかは困っている人を助けることをしたいんだ」


急にそんな漠然ばくぜんとした言葉をする優衣に、僕は

感じた疑問を解こうと口を開く。


「いや、優衣は今日もしていた。

十分に助けているじゃないか?」


「ううん。根本的な悩みとか苦しみとか助けたいの。

お兄ちゃんが、わたしを助けて

くれたことのように」


「僕が助けた?

そんな事をしていないよ」


そうだ。助けようとして無鉄砲に

遮二無二しゃにむにといじめっ子に怒鳴った。

しかし、逆にいじめはひどく

なる結果となった。


「ううん。お兄ちゃんは

自分の自己評価を低く言うけど

わたしは嬉しかった。

少なくともわたしは、救われたよ」


屈託のない笑顔を向ける優衣に

僕は今まで心を刺される痛みを

和らぎ救われた気持ちになる。

だとすれば、優衣が救われたと言うのはどこだろうか?


「お兄ちゃんが、わたしのためにしてくれたから。

本当に困っている、苦しんでいる。人を助けたい夢になった

んだ!えへへ、少し恥ずかしい」


恥じらう優衣に僕は、

頭をなでる。


「お、お兄ちゃん!?」


「恥ずかしくなんてないよ。

すごい夢じゃないか!」


「う、うん。でも恥ずかしいよ」


恥ずかしそうに頬を赤らめ

上目遣いで逸したり戻し目が合うなど繰り返していた。

優衣は、嬉しそうに頬を緩めて

いるので照れ笑いなのだと

理解した。


大好きな女の子の頭をなでた

多幸感にいる僕は手を再び繋ぎ

他愛のない話を続ける。

そろそろ家が着くことに、今日の外出デート終わりか残念に思うと

優衣は繋いだ手を離す。


「優衣?」


「あぶないお兄ちゃん!!」


急にはなしたショックが信じられず理由を聞こうか悩んでいると

優衣が僕の胸に強く体当たりしてきた。


衝撃的な行動だった。

僕は壁にぶつかり前を向くと

同時に大きな破壊音。そして、

僕がさっきいた場所には、優衣が血を流して倒れていた。


「・・・・・優衣?」


「きゃーーーー!?」


「車が人を次々といているぞ!にげろぉぉーー!!」


どうやら、白いワゴン車は

左の住宅の壁を摩擦しながらも

走行していく。速度を落とさずに、

悲鳴、泣き声、怒号と

阿鼻叫喚あびきょうかんだった。

優衣は、あんな乱暴な行動したのは僕を助けるために

おそらく車が壁にぶつかる瞬間に僕を体当たりしたのだろう。


「ゆい・・・」


思考が動かない。咄嗟に状況を

理解した僕はそこで

思考が停止した。


「ああぁぁ、優衣・・・

大丈夫か優衣」


一切、動かない。

動くのは流れていく血。

頭から流れている。考えたくない

最悪な想像をしそうになる。


「き、きっと助かる・・・はず」


優衣を誰か助けてほしい。

僕は、ただ優衣の名前と目覚めて

ほしいと言えなかった。

どれぐらい経ったか救急車が

やって来て病院に運ばれる。

緊急手術が始まり僕は

待合室のベンチに座って

うつむきながら、ずっと手を組み誰かをお願いをする。


(頼む!助けてほしいんだ。

優しい優衣が、苦しんできたんだ。だから、こんな終わりかた

をさせないでほしいんだ。

神様、頼む!これからの僕の人生は悪いこと連続でも構わない!

だから、助けてほしい)


先生が、僕の前に現れる。手術が終わったこと、表情は沈鬱ちんうつだった。

先生が絶望の言葉を告げる前に

僕は、涙が止まらず流れていく。

優衣は、亡くなったことを

気づいてしまった。

それから頭が真っ白になった。

しばらくして、父さんがやって

来た。


「どうして、こんなことに優衣。

・・・・・ゆいぃぃぃ!!」


父さんは、目を閉じる優衣を見て

泣き叫ぶ。

僕は、夢であってほしいと誰か

に願う。優衣が動かないことに

心臓が止まりそうになるほど

苦しい。


(優衣・・・代われたら

僕が代わりに犠牲ぎせいになりたい)


どうして、平凡な僕が

残ったのか。

妹が亡くなってから一週間が

過ぎた。


山中構造やまなかこうぞうさんが、意識を失い

道行く静かな道を人をひき悲惨な事故が起きた。死亡者は3人、重軽傷は5人と―――――』


テレビに粛々と説明するニュースアナウンサー。

僕は、手が震えが止まらなくなる。ダイニングテーブルで

父さんと食事していた。


『次は』


「それだけかよ」


重たく冷たい声。それが自分の声だと驚く。


「・・・虎繁とらしげ


僕の名前を言う父さんは、悲痛

な顔をしていた。


「・・・仕事があるんだろ」


「・・・ああ」


仁科にしな家は3人家族から、また減ってしまった。

二人になり口数も減っていた。

僕は、生き残った罪の意識がある

サバイバースギルトというものに

かかった。

病名は初めて知った、それよりも

心の傷が治らない。


「それじゃあ、

仕事に行ってくる」


「・・・ああ」


今日も学校を休もう。

僕は二階にある優衣の部屋に

入る。もしかしたら、居ると

淡い希望を抱いて。


「・・・優衣、いないのか?」


亡くなっているのは知っている。

でも、気持ちは整理しない。


「いたずらやめろよ。

ほら、早く出てくれないか?」


夕方になるまで、ずっと優衣が

いないか声を掛け続けた。

どれほど、日が過ぎたか。

優衣の墓の前を僕は来た。

一人、雨が降る夕方。


「・・・優衣、実は言えなかった

ことがあったんだ。

僕は優衣が大好きだったんだ」


雨は冷たい。傘は持ってきて

いない。冷たい・・・心が。


「あはは、告白して気持ち悪い

だろうけど、真剣だったんだ。

幸せであってほしいって

笑顔でいてほしいって

純粋から望んだ気持ちだったんだ。昨日、少し大好きな気持ちがすり減ったような気がして

恐くなったんだ。

だから、告白に来たんだ」


今になって、遅すぎる。

迷惑とか兄だから決して口にしないと心の深くに決めたのが、バカバカしく思えてしかたがない。

たとえ、呆れようが気味悪がれようが秘められた気持ちを

伝えないのは・・・つらい。


「大好きだよ優衣」


涙が頬に流れ雨粒と一緒になって

落ちていく。


「誓う・・・優衣の夢を僕が

代わりに叶えてみせる!

困っている、苦しんでいる

人を助ける夢を!」


約束し誓った。僕が唯一の夢で

最後の希望。サバイバースギルトは、罪の意識で自殺してしまう危険な心理状態。僕は優衣のために

死なない。生きてみせる。

その強い意志で克服してみせる!


「また、会うよ。

僕が最初で最後に大好きになった優衣・・・」


まだ、優衣がいるかもしれない

あの世へはいけない。

自殺なんてしたら、泣き叫ぶに

決まっている。あの世で泣き叫ぶ

姿は、絶対に見たくない。

優衣がいない世界は苦しいが

大好きの想いは絶対に忘れない。


意識が、感じるものが変わる。

まぶたを上げると、夜空に星の膨大な数々が輝いていた。


「あの頃の夢を見ていたのか」


もう2年がつ。高校一年に

なった僕は流れる涙を拭い

河川敷の土手で眠っていた身体を

勢いよく立ち上がる。


「僕は強くなった。優衣が

心配しない仁科虎繁にしなとらしげになったって言える

ようになった」


僕は、居場所を無くなった・・・・・家に帰ろうと

歩を進める。

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