1章・7話「旅立ちと改名」


風が荷をまとめている間、葛の葉と科戸は何故か風を避けるように

小屋の外で話しをしていた。


この小屋には母様との思い出でいっぱいだった。なかなか荷がまとまらず、

まとまった頃には夜が明けていた。


「母様、整いました・・・」


「うむ、旅立ち前に科戸がお前を試したいと申しておるぞ」


「試す?」


と、科戸が風に向かい言った。


<葛の葉様から風殿に仕えよと言われましてな、仕えると言う事は風殿が我が主になるという事、ならばその力を試したいと思いまして、我はこれでも三百年以上生きた妖でございます。まだ百年ほどの風殿がどれほどの力をお持ちかと・・・>


「手合わせですね、お受けいたしましょう」


すると、葛の葉は風に微笑み言った。


「そういう事じゃ、表に出て手合わせしてやってくれ、お互い本気でな」


「はい・・・」


そうして、風と科戸は表に出て向き合った。


<我の奥義をもって・・・>


と、科戸はイタチの姿になり、立った。


その姿、大きさは犬ほど、思ったより大きくはなかったが、その妖力は大きく突き刺さるように感じた。


<風殿は変化したままでよいので?本気でまいりますぞ>


「はい、お構い無く・・・」


すると、科戸は足元にあった木の葉を六枚、宙に浮かせ、木の葉を自在に浮遊させた。


<この葉は我の妖力で刃物になっておりまする、我はそれを自在に操ることができまする>


「・・・」


<そちらが動かぬのら、こちらからまいりましょうぞ!>


と、科戸は六枚の木の葉と共に疾風の如く風に襲いかかった。


<!?>


しかし、風は目にも見えぬ一瞬で六枚の木の葉を重ね持ち、科戸の後ろに立ち、

いつ拾ったのか、小枝を科戸の首に当てていた。


そして、それを見ていた葛の葉が言った。


「勝負あったのぉ科戸、風の如く捕らえられぬのが風の術じゃ、

わらわの九尾をもってもな」


<何が起こったのか・・・妖気も感じず、まるで始めから我が後ろに居た如く・・・完敗です。確かに葛の葉様の血を受け継いでおられるとこの身で感じました。

ご無礼、お許しを>


そうして、科戸は風に頭を下げ風に忠誠を誓った。


そして、小屋に戻ると葛の葉が紙と筆を持ち、何やら文字を書き、風に見せた。


飄葛と書いてあった。


「風よ、ここを出るにあたって、新しく名を授ける。とらえられぬ意味を持つ

飄(ひょう)とわらわの名、葛を合わせ飄葛(ひょうかつ)じゃ。

これよりこの名をお前の名とせよ」


「母様・・・有難く承ります」


そして、葛の葉は優しく飄葛を抱いた。


「愛しきわらわの子よ・・・離れようが親子であるぞ・・・」


「勿論でございます母様・・・」


飄葛はぎゅっと、抱きかえし、葛の葉の温もりを噛みしめた。


「我が命、何があっても大事にするのじゃぞ」


命・・・そんなに世は危険なものなのか・・・

それとも他に何か意味があるのか・・・


「はい、母様も・・・」


こうして、長く百年にもわたる葛の葉に救われ育てられた暮らしは終わった。


そして、これから飄葛の物語が始まる・・・。



『一章・誕生』終わり。

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