第23話 惨劇のキャンプ場

とあるトンネル工事現場の夕刻

ここでは受肉した亡者たちが不眠不休で働いており工事も順調に進んでいるはずだった・・・


現在の工事現場には音が聞こえてこない、工事現場とは思えないくらいの静寂だ

天井から垂れ下がるライトが今にも落ちそうにしながら左右に揺れ周囲を照らしだす


何者かに食い散らかされた人間だったであろう肉片

バラバラにされた肉片達に再び亡者たちが受肉する余地はない


工事現場から距離にして300メートルほど離れた場所でキャンプ場で6人の姿があった、ネットの募集で、今日初めて顔を合わせ名前も良く知らない連中ばかりが集まっている、そんな中、唯一の女性の姿も、1組だけカップルで来ている


タクマ(53歳)そんな状況に1人だけ負の感情をいだいている人物が居る

《なんだよこんなところにカップルで来やがって》

内心そう思ってはいても言葉に出す勇気はない、もっと孤独な男の集まりでそれこそ人生の傷を舐めあうくらいの場を期待したのだが、目の前でイチャイチャされたらたまらない、カップルとは少し離れた場所で背中を向いて1人で簡素な料理を食べていた


ユウヤ(25歳)、ミツキ(21歳)この中で唯一のカップルだ

この2人は周囲の目など気にしていな、なぜこんなところに参加しているのか傍目には分からない、ユウヤはミツキをいろいろなキャンプ場を連れまわしている、ミツキはユウヤに惚れているのかユウヤに誘われると、どこへでも付いて行っていた。ユウヤはミツキを置いて燃える物を探しに1人でミツキのそばから離れていた、ミツキはその間料理の準備をしている


そんな隙を見て声を掛けてくる男は必ずいる

マサキ(35歳)ミツキが1人で料理の準備をする中、お願いもしていないのに何かを手伝おうとミツキの周りをウロウロしている、外見からしてモテそうな雰囲気でもなくどちらかと言えば女性からは敬遠されるのに、やたらと絡んでくる勘違いタイプだ


そんな事に関心の無い男性が2人

1人はアツシ(41歳)いつものソロキャンプに少し飽きが来ていたので参加してみた、周りの人間との交流などどうでもよかった、単に人がそこに居るという存在だけで満足していた、アツシは1人高級ステーキを準備し焼き始める、ワインにチーズ、本格的な調理道具、心のどこかで周囲に自慢したいのだろう

アツシは肉を焼き始める


ミツオ(29歳)はそんなアツシを羨ましそうに見つめる、自分も同じように肉を焼こうと用意してきたが明らかに劣っている、キャンプにまできて劣等感を味わう事に少し気分が悪い


各々準備に時間を費やすうちに辺りは暗くなってきていた


ユウヤは森の中でキャンプをしている明かりが見える少し離れた所で考え事をしていた、ミツキに散々貢がせた挙句、最近ではお金持ちの新しい彼女ができたからだ、一刻の猶予も許されない、早く関係を清算しなければと思いながら決断できずにずるずるとこの流れを引き延ばしてきた、キャンプ場へ来るたびに機会をうかがっていたのだ・・・いっその事ミツキを事故に見せかけ亡き者にしようか、そんなことまで考えるくらい追い詰めれれていた


無駄に時間だけが過ぎていく、すると、森の奥で何かがガサガサ騒いでいる音が聞こえてくる耳を澄ますと、その音は明らかに真っ直ぐこちらに向かってくる、それと同時に言い知れぬ不安と恐怖が心の奥を侵食していく

《逃げないと死ぬ》なにかを直接見たわけでもないがなぜか本能がそう命令してくるようだった

ユウヤは車の停めてあるキャンプ場を目指し全力で走った

ミツキの食事の準備も終わり、これから2人で食事を楽しもうと考えていた時、ユウヤが慌てた様子で森から駆け込んできた

ミツキはユウヤに食事ができたよと伝えようとしたが、ユウヤは必死の形相で車に走り乗る、ミツキが車に追いつくが車はロックされていた

その時、野生生物恐らくは鹿だろうの"けたたましい"叫び声が辺りに響き渡る、何者かに襲われたのだろう、叫び声の後、その場に静寂が訪れる

一瞬時が止まったかのように思われたが、ユウヤが車のエンジンをかけミツキを置き去りにし走り出した

車がキャンプ場の出口の道に入ろうとした瞬間、車が宙を浮き物凄い音と共にひっくり返った

その音と光景にその場に居た全員が固まった、車を投げ飛ばすなど熊でもできない、しかし熊でもできない凶暴な何かが居る

割れた窓ガラスから必死に外に出ようと窓から半身が出たユウヤを何者かが引きずり戻す

ユウヤの絶叫が森に木霊すると同時に骨がバキッバキと砕かれる音が聞こえてくる


ミツオは腰を抜かしてしまっていた、車の方から視線が外せない、後ずさりながらアツシの方へを向かうすると背後から、なにやら焦げ臭い匂いが漂ってくる、誰もがかいだことのあるであろう髪の毛が焦げる匂いだ

後ろ向きのままアツシにぶつかり、一体何を焼いているのだと声を掛けるも返事がない、アツシの体を掴み立ち上がろうとしたがヌルりとした感触と共にアツシが地面に崩れ落ちた、崩れ落ちたアツシには肩口から上部が見当たらなかった

そんな騒ぎの中、食事を終えテントの中で休んでいたであろうタクマが一向に出てくる気配がない、気になったマサキがテントを見ると明かりがついているのは確認できたのだが・・・

すぐに異常に気が付いた、テントの外からでも確認できる程の血しぶき

到底中で生きているとは思えない状況だ


残った3人はキャンプ場の中心に集まろうとしていた、いやそう追い込まれていたのかもしれない、中心付近にはマサキとミツキのキャンプ道具が置かれていた


ミツオは何か武器になるものを手にしようと、近くにあったマサキの調理道具の中から探そうと手を伸ばした瞬間、肘から下が何者かに奪われる

しかし、痛みで声を上げる暇すら与えられず、胴の部分から何かに咥えられ吹き飛ばされるようにミツオの姿がその場から消えた


マサキとミツキはその場で震え上がる、明らかにその場に何かが居るのだろうがまったく姿が見えないからだ、だが、確実に言えるのは自分たちは助からない、まるで数秒後に死を宣告されたかのような状況、ミツキは絶望を感じる、マサキは1人なら絶望を感じたかもしてないが、ここにはミツキと言う自分より年下の女性がいる、そんな女性を先に死なしては死の間際であっても後味が悪いと考える

どうせ死ぬなら、先に死ぬのは自分の方がまだかっこうが付くかもしれない、自分の中の答えが出たような気がした

しかし覚悟とは裏腹に目の前の女性に別れの挨拶さえ述べる時間は与えられなかった

マサキの腹に何かが突き刺さっている、自分の血の熱さと激しい吐き気で声すらも出ない、マサキは吐血し痛みで気を失った


1人なったミツキはその場を全力で走る、どこへ走ったら良いかなど考える暇はない、全身の筋肉が極限まで張り巡らされていく、とにかく全力でこの場を離れたい、そう一心に思うだけであった

逃げた方向は自分たちが来た方向とも車がある方向とも全く別だった

途中力み過ぎたのか森にたどり着く前に足が縺れその場で転んでしまった

転んだ瞬間、自分の人生は終わったと直感した


これからの人生も含めてすべての運を使い切ったのではないだろうか、そう思う瞬間が訪れた


「大丈夫ですか、お嬢さん?」

この恐怖を体験した場であまりにも似つかわしくないやさしく落ち着いた男性の声が聞こえてきた


ミツキは顔を上げると1人の男性と1人の女性の姿があった

「トンネル現場から音の方向へ来て見るとまさかこんな事になっているとは、思いもしなかったよ」

「グリス様、状況がまったく見えてこないですが?」

「そうだろう、これは人では見ることができないだろう、まさかこのような者がこの国に存在しているとは思いもよらなかったよ」

「丹野はその女性を連れてこの場を去れ」

「いや、しかし・・・」

「見えない相手にお前たち人がどう戦うと言うのだ、私の所有物が他の者に殺されるのを私は許さない」

「所有物・・・だなんて、うれしすぎて死んでしまいそう・・・」

「私が隙を作る、その間にその女性を連れてにげろ」

「はぁい」

「緊張感のない返事だな」

グリスは辺りを警戒する

「あなた、まだ走れそう?」

「はい、あなた方は?」

「質問に答えるにはここから生きて脱出できてからにしてね」

グリスは銃身の下にナイフの付いた1丁の古い銃を取り出す

狙う対象は2体、初めての相手にこの銃が効くかどうかは運次第である

「走れ!」

合図と共に銃声が森に響き渡る

丹野たちはその場から全力で走り去った

「グリス様どうかご無事で」

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